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殿下の決断

 「我が主よ・・」

ゼリーが畏まり立ち上がると殿下の前でひざまずいて騎士の礼をとる、それを見て殿下の顔に喜色が浮かんだ、殿下は女騎士の存在に憧れていた、まさしくこの絵がそうなのだ、もちろんゼリーは知っている。


「殿下はエルニアが敵に組みしようとしている事をご存知でしょうか?」

「なんだと!!私は知らないぞ!?」

今度は殿下が叫ぶと思わず立ち上がる、だがこの部屋は殿下付きの魔術師の手で防音結界が張られていたので声が外に漏れる心配はなかった。


「落ち着きください殿下、説明いたします」

ゼリーは改めてソファーに腰を降ろして顔を上げた、殿下も気まずそうに腰を降ろした。


「エルニアが軍を動かし、アラティアとテレーゼを結ぶ街道に向かって北上しております」

殿下は目を見開く、さすがの殿下もこの意味がわかったらしい。

「それだけなら我らの側に参戦かもしれないではないか?クラウディア」


「殿下、エルニアから連合国に何の通告も無い様子です」

「まさかエルニアは異教徒に加担すると言うのか?イスタリア家は帝国を見捨てた、今度は我らの敵になると言うのか?」

殿下は拳を握りしめた。

「まだ宣戦布告がありません、アラティアは街道の要所に防衛陣地をすでに築いていたようですが」


「ならば、アラティアは知っていたのか?・・・・いやまてなぜこの私が知らないのだ?」

ふたたび殿下は立ち上がった。

ゼリーはうつむいていたので表情は見えない、そして彼女はゆっくりと顔を上げる、彼女の顔は真摯なもので、決意を噛みしめる様に唇を引き結び彼女の目は潤んでいる。

殿下は彼女は好みのタイプではないがそれでも美しいと感じた。


「殿下に真実が伝わる事を妨げる者がいるのではないでしょうか、殿下こそ連合軍の総司令官なのです」

そしてゼリーの頬を涙が流れる。


殿下は敵の存在を想像したがあまりにも思い当たる勢力が多くて迷う、まず叔父のカルマーン大公はもともと連合軍の総司令官を務める予定だった人物だ。

彼は人望が有り軍務経験豊富で名将と称えられる人物だ、そして従兄弟や従姉妹達もいる、自分に万が一の事があった場合にこの中から後継者が選ばれるだろう。

そして副司令官のドビアーシュ将軍の存在だ、慇懃無礼だが自分に不満があることぐらいは気がついていた。

そしてエンフォリエやアンブローズなどの士官達で高貴な身分の自分達とはそりが合わなかった。

かれらが共謀していたとしても不思議ではなかった、怒りのあまり奥歯を噛み締めた。


「殿下は世界を救済する運命をお持ちのお方です、アウグスライヒ=ホーエンヴァルト王太子殿下」

ちなみにアウグスライヒは王位継承権第一位ではあるが、まだ正式に王太子に立太子していなかった、だが殿下がそう呼ぶことを求めていたので周囲もそれに合わせていたのだ。

今回の遠征直前に王弟のカルマーン大公が倒れた事もあり、国王が殿下に箔付けする為に総司令官に任命したと言われている。

彼女の甘い言葉に殿下は大いに満足した様子だった。


そしてゼリーの美しい繊細な美貌を見下ろす。


「お前だけだ、この私の真の忠臣は!」

「光栄でございます、我が主よ・・」


少し満足し気分が落ち着いた殿下はふたたびソファーに腰を降ろす。


「エルニアが敵になれば連合軍は危機に晒される、まさしく精霊宣託の内容そのものではないか!」

ゼリーの表情は感銘を受けたかのように輝いた。

「ハッ、私もそう愚考したします」

「ならば何をすべきか、そうだ他に精霊宣託は無いのか?クラウディア」

ゼリーは少し考え込む。


「終末の宣託に『東方から終末の闇が迫る時、希望は北に向かう』そんな一節がありました」

「それは何だ?」

殿下は食い気味に身を乗り出した。


「エンフォリエ侯爵家は精霊宣託の中でも世界の未来の運命に関わる宣託を研究しておりました、当然の事ながら時代や地域などで分類しておりました」

ゼリーは精霊宣託の性質、宣託の記録は精霊への質問とセットで記録される関係、宣託の分類は容易である事を説明する、最後に精霊も正直に話すとは限らないと補足した。

殿下はあまり理解していない様子だったがうなずいて聞いていた。


「そして終末の宣託と北からの邪悪とそれを打ち破る英雄の記述は同じ時期を差していると考えられてきました」

「なるほど、今の宣託はセクサドル帝国の未来の英雄の予言と関係しているのだな!」

「ご明察でございます殿下」

殿下はニンマリと笑った、ゼリーは更に続ける。


「まさに今でございます、エルニアに東方絶海からの船が漂着した話をご存知ですか?」

「おお前にも聞いた事があるぞ、それが東方から終末の闇か!!エルニアの裏切りにそれが関わっているのだな・・・」

「はっ、おそらく」


「ならばどうすれば良い?他に予言は無いのか?」

「精霊宣託はございません、それは殿下のお心のままに」

殿下はこれを聞いて大いに困惑する。


「なあ・・・お前ならばどうする?クラウディア」

今度はゼリーも困ったような顔をする、彼女は心から困っている様子に見えた。


「私は軍師ではありません・・・ですが軍の貴族や士官に依存すべきではありません、敵は殿下の周囲にいるはずです」

「たしかにそうだ!!貴公の言うとおりだ」

「英雄ならば決戦の場に立ってこそ、大精霊は未来を視たのかもしれません」


殿下は立ち上がると天井を見上げ拳を握りしめると片手で天を突いた。


「ああ俺は決めたぞ、グディムカルと雌雄を決してやろうぞ!!」

「微力ながらお助けいたします!殿下と大精霊が共にあらん事を」


ゼリーは殿下の前に跪くと騎士の礼を取る、古風なハイネ城の女高級使用人姿のゼリーの姿は異彩を放っていた。


これがテヘペロが眠っている間に起きた事だった。





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