クラウディアの暗躍
テヘペロはハイネ城の客間のベッドの上で目を醒ます、豪華なテレーゼの祭りの風景を描いた天井画が目に入ってきた。
何かいやな夢を見ていた様な気がしたが、気づくと豪奢な肌着が汗で濡れていた。
どんな夢を見ていたのかはっきりと思い出せない、不気味な笑い声を聞いていたような記憶が僅かに残っていた。
部屋の中を見渡すと自分以外誰もいない、部屋の隅の豪華なテーブルの上に酒杯が転がり小さな酒樽が寂しくたたずんでいた、そして部屋の空気が僅かに酒臭い。
ここで馬鹿殿下と酒宴をしていた事を思い出す、シーツは乱れ掛け布団は床に落ちていた。
「ほんといやね・・・」
一人言をつぶやいた、彼女は一人になると独り言を言う癖があった、肌着を脱ぐとと籠に放り込んで新しい肌着に着替える、そしてナイトガウンを着込む。
喉が乾いたので使用人を呼ぼうとベッドの側の小さなテーブルの上の呼び鈴を鳴らす。
上品な鈴鈴の音が部屋に響くと、涼やかな鈴の音は闇に吸い込まれて消えた、なぜか背中が冷えて軽く震える。
だが何も起きなかった。
控室にゼリーか夜番の城付の使用人が待機しているはずだが何も動きが感じられない。
「へんね、誰もいない?」
テヘペロは使用人待機室の扉の前に向うと声をかける。
「ジェリーはいないのかしら?」
だが誰も答えない、テヘペロは何か不吉な何かを感じてノックする。
乾いた高級飾り板の扉が音を立てる。
すると外の廊下を慌てて走る足音が聞こえてきた、足音が止まるとリビングの扉が開く音が聞こる、更に扉が開く音がした、テヘペロの眼の前の扉が開かれる。
そこにいたのはゼリーだ。
「も、申し訳ありませんシャルロッテ様、少し席を外しておりました」
ゼリーは平謝りだ。
「やっぱり一人しかいないのね・・」
「はいハイネ城は殿下ご一行の接待で人手不足でして、顧問団の皆様にはご迷惑を」
テヘペロはわざとらしく肩をすくめて見せる。
「しょうがないわね、殿下はお下がりなのね?」
「はい・・・お送りいたしておりました」
「そうか・・・」
ゼリーは何か問いかけたそうに見つめてくる、ハイネの魔術師ギルドの受付にいたころの彼女は分厚い黒縁のメガネをかけていた、改めて見てみると彼女は繊細な美貌をしている、なぜあんな姿をしていたのだろうか、ギルドで嫌がらせを受けた事があるのかも知れないと考えた、そして思い直すと気まずい沈黙をテヘペロが破る。
「貴方は綺麗だから、殿下に注意しなさいよ」
ゼリーは苦笑する。
「私は殿下の好みでは無いようです」
「あーーそうだ、あはは」
テヘペロはわざとらしく笑った。
今度はゼリーが少し小首を傾げた。
「ところで、何か御用でしょうか?」
「忘れてた!喉が乾いたからお水を」
「かしこまりました」
ゼリーは微笑むと控室に戻っていった、そこに小さな備え付けのキッチンが用意されている。
テヘペロは無意識に告時機に目を移した、すでに夜中の3時をまわっていた。
「ずいぶん長くいたのかしら?」
テヘペロはベッドに戻るとシーツに手を添える、そして僅かに眉をひそめた。
「私の寝ていたところだけか」
それは独り言のようにささやかな声だ。
テヘペロがベッドの上で目を醒ました数時間前に時はさかのぼる。
アウグスライヒ=ホーエンヴァルト王子は侍従の助けも無しで一人で身なりを整える、そしてベッドの上で寝ているテヘペロを見下ろしながらニヤけた笑みを浮かべた。
そして静かに姿をくらまそうと出口に向かう、もちろん侍女が気づかないはずはないがこれは暗黙のお約束だった、だが背後からの小さな声に気づくとギョッよして背後を振り返った、だがすぐに愛想を崩した。
「おおクラウディアか、なんのようだ?」
そこにはテヘペロ付きの侍女ゼリーがいた、滅びたエンフォリエ侯爵家の末裔を名乗っていた、だがゼリーは眉をひそめた
「殿下、恐れながらその呼び方はおやめください」
「ああすまなかったな、ゼリー何の用だ?」
だが殿下は気まずいのかあからさまに早く部屋から出て行きたそうに見えた。
ゼリーは数歩殿下に近づくと小声でささやいく、彼女の視線は殿下の背後の部屋の奥を探っていた、そのむこうでテヘペロが寝ている。
「殿下、内密なお話があります、どこか場所を・・・」
さすがの殿下も察したらしい、柄にもなく真面目腐った顔になっていた。
「ああ、わかった俺の部屋で話そう、誰を連れ込んでも問題にならぬ」
二人は部屋の外に出ると殿下の侍従の案内にしたがった、それに影のように護衛が従う、ゼリーがいても幽霊の様に見えない者の扱いだった。
殿下の最上級のゲストルームに到着したが、護衛も侍従達もこんな事に慣れているようだ、だがもの珍しそうにゼリーの全身を観察している、殿下の好みから外れた女性を連れて来たので興味をそそられたのだ。
臣下達は殿下を諌める事をすでにあきらめ、誘導することで害を抑える方針になっていた。
そして殿下の私室に招かれると厳重に人払をする、そして部屋にふたりだけになった。
「クラウディアよ、座るが良い」
殿下がゼリーに豪華なソファーに座ることを進めた、彼女は大人しく従う、すると殿下の口調は馴れ馴れしくぞんざいな口調に変わった。
「さて、話すが良い」