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カミラとポーラの再会

 ベッドに仰向けに寝転がっていたカミラはベッドから起き上がる、彼女の瞳はガラス張りの大きな窓に釘付けになった、彼女の顔から血の気が引いて白くなる。

窓の分厚いカーテンは閉じられ外の景色は見えなかった、だが例えようのない何かが窓の外にいる。

誰かを呼ぼうとしたが声が出ないか、呼び鈴を振ろうとしたが体も動かない。


やがてカーテンに意思が在るかのように左右に音もなく別れた、そして両開きの大きな窓がゆっくりと開きはじめる、カミラの視線は窓の外の何者かに惹きよせられる。


夜空を背景に室内のオレンジ色の光にほのかに照らされた二人の女性がいた、二人はお互いに抱き合っている、恐ろしい怪物を予想していたカミラはほっとした。

だがここは館の二階のカミラの寝室の窓だ異常に気づいて震えたが声は出ない。


体が僅かに動いたのでそのままよろめくように壁際に下がる、視線は呼び鈴を探し彷徨うがそれは窓に近い机の上にあった。

部屋から逃げ出そうと扉に向かって夢遊病者のように走る、だが脚がからみついてちっとも前に進まない。


「外に出られない」


背後から美しい透明感のある美声が投げかけられる、彼女の背中に氷が押し付けられた様に冷えた、恐る恐る振り返ると寝室の床に二人の女性が立っていた。


その二人は女高級使用人の制服を身に纏っていたがカミラは片方の女性に目を奪われる。

彼女は白を通り越して青みを帯びた肌をしていた、先が切りそろえられた黒いショートボブの髪、その下から細い美しい首筋がのぞいていた。

唇は血の様に赤く、全身が精緻なアラバスター人形の様に美しい、瞳は透明な赤いガラス珠の様でカミラは彼女が人ではないと確信した。

彼女の年齢はカミラと同じぐらいだろうか。

制服のスカートからのぞく長い足が美しい、そして彼女が黒いストッキングを履いていない事に気付いた。

その姿が退廃的で淫靡な美しさを強調している、はしたないがその美しさに目を奪われてしまう。

もう一人も美しい女性だったが彼女と比較すると平凡だ、赤い瞳の娘があまりにも人間離れしていたから。


「・・・カミラお嬢様」


その声はもう一人の娘の声ですこし震えている、カミラは赤い瞳の人形の様ような娘からもう一人の女性に視線を移した。

その女性はカミラより年上に見える、赤い瞳の女性よりも年上に感じられる。

榛色(ハシバミ)の瞳の端正な美貌の女性だが見覚えは無かった、それになぜこの二人が寝室に入り込んだのか解らない、館の使用人かと思ったがここの高級女使用人の制服と細部が違っている。

カミラはなんとか声を絞り出す。


「貴女達は・・・あの、誰かしら?なぜ私の部屋に入ってきたの?」

榛色(ハシバミ)の瞳の女性が目が大きく見開いた、そこに深淵の絶望を感じそこから彼女の狂気を感じてカミラは戦慄した。


「私はドロシー、この娘の付き添い」


赤い瞳の娘がドロシーと名乗った、ドロシーは軽く榛色(ハシバミ)の瞳の娘の肩にかるく触れるとカミラの方に押し出す。


「私はポーラでございます、あの・・・私を覚えていらっしゃらないのですか?」


榛色(ハシバミ)の瞳の娘はポーラと名乗る、すこし見上げる様な目は思い詰めた様に真剣だ、それにたじろいだ。

カミラはあわてて記憶を探る、たしかそんな名前の使用人がいた様な気がする、だが目の前の女性がポーラなのか自信が無かった。


「そうね、たしかそんな娘がいた様な・・・」


そこまで言ってカミラは先が続けられなくなる、ポーラの顔にあるのは絶望だったからだ、そして誰かカミラ付きの使用人を呼ぼうとしたが誰も姿を現さない事に不審を感じた。

使用人ならばポーラを知っているかも知れないのに。


「みんな眠りについた、起きる者などいない」

赤い瞳のドロシーがカミラの疑問を察したかの様に感情の無い冷たい声でカミラの心の疑問に応える。


「うっ」


しだいにこの二人が普通の人間ではないと確信した、カミラは呻くと壁に背中を押し付けつけて二人から距離をとろうとした。


「私はお嬢様にお詫びをするために参りました、いかなる罰でもお受けいたします!」

ポーラが更に近づこうとしたところでドロシーが肩を抑えて止める、ポーラはそれ以上動きを留めた。


「お詫びって?その・・・」


榛色(ハシバミ)の瞳がさらに絶望を深める、だがそれなのに彼女は微笑んでいる、カミラは全身が悪寒に包まれる。

背後の赤い瞳の女性から底知れない恐ろしさを感じる、だが眼の前の榛色(ハシバミ)の瞳の女性からカミラにも理解できるある種の恐怖を感じ始めていた。

ポーラが慌てて使用人の制服の胸の小物入れに指を指し入れると指先に金の鎖を絡めた、そして見事なエメラルドのブローチを取り出した、そしてカミラの目の前にぶら下げる。

それは一級品だと見ただけでカミラには理解できた、だがこの宝石がどうしたと言うのだろう?

それにどこかで見た事があるような気がした、公爵家の宝石博物館の様な膨大なコレクションの中に見た事があったかもしれない。


「これは?」


「ひょ」

不気味な息を吐き出した様な奇声が聞こえた、カミラはゾッとして見つめていた宝石からいやいや視線を外して奇声の主を見る。

そこには正気を失った絶望の深淵をのぞかせた瞳、それでいて微笑みを貼り付けた美しい娘の顔があった。

カミラは思わず小さな悲鳴をあげた。


「おちつく」

ドロシーが言い聞かせる様にささやくと、ポーラの瞳に正気が帰ってくる、カミラはすこしだけ安心した。

そしてポーラは一礼すると話を始めた、カミラは会話から少しでもヒントを得ようと心に決めた。


「お嬢様、私は以前このお屋敷に仕えておりましたポーラと申します」

カミラはファミリーネームがわかれば思い出すかもしれないと思った。

「貴女の家名は?」


「ひゅ」

ポーラがまた奇声を発して固まる、するとドロシーがポーラの耳に口を近づけまた何事かささやく、何を言っているのかガミラには聞こえない、貴人を前に密談は非礼だが今はそんな事は気にならなかった。

するとポーラはすぐに立ち直る、まるで螺子が切れた自動人形の螺子が再び巻かれた様に不自然だ。


「申しわけありません、お使えしていた時は家名は名乗っておりませんでした」

カミラは美しい眉をひそめる、まるで家名があるが事情があるから伏せていた様に聞こえたからだ。

それも公爵家の公認だった事になる、なぜだろうか?。

高級使用人として公爵家に上がってくる娘達は豊かな平民出の娘が多い、それなりに地位があってもファミリーネームを持たぬ者も多かった。

だがこれでは絞り込みようが無かった。

もう一度ポーラの顔を覗き込んだ、たしかに前に会った様な気がするがはっきりとした記憶が無かった。


「事情があるのね、なら話さなくてもいいわ」

その瞬間ポーラが期待を外された様な貌を見せたがカミラはそれどころでは無かったので見落としてしまった。

考えた末にカミラはこの話題をここで打ち切る事にする、この女性の狂気を刺激したくなかった。

そしてカミラに焦りがつのる、館の警護の者も使用人達も未だに誰も姿を現さない、そして館の中が静かすぎた。


「そうだわ!私に謝罪をしたいって言っていましたね?その・・ポーラ」

カミラがポーラと呼んだ瞬間、ポーラの表情が蕩ける様に笑み溶けたのでカミラは顔をひきつらせる。


するとポーラがカミラの前に宝石を掲げ見せつける。

「私はお嬢様の宝石を盗み出し、お屋敷から逃げ出してしまったのです」

カミラには確信が無かったが、見事なエメラルドのペンダントが並の品ではなく、大貴族の邸宅から盗み出されたとしか思えなかった。

「これは公爵家の収蔵品・・・」


そこでもっとポーラから話を聞き出すために話を合わせる事にした、そして誰か早く来てと心の中で叫んだ。

ドロシーがカミラの心の叫びを聞いたかのようにささやいた。

「このお屋敷の者は動くこともできずに固まっている、意識も無い」

カミラは絶望のあまり震えた、骨董無形な話だがこの赤い瞳の女性ならば可能だと本能が告げている。


「あの、貴女はこれを返しにきたのね?心を入れ替えてくれてうれしいわ」

カミラは顔を引きつらせながら総ての気力を投入して微笑む、これは王族と同等の高位貴族の娘として叩き込まれた姿だった、だが何かが引っかかるそれはポーラの態度だ。

何か期待外れのような貌をしたからだ、それにカミラは困惑する。


そして後ろにいたドロシーの真紅の瞳がポーラを憐れむ様な奇妙な瞳で見ている事に気付いた。

ドロシーもカミラの視線に気付く、そしていたずら娘の様に邪悪に微笑むと小さく舌をだした。






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