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ルディガーの決断

コッキーは自分の顔から血の気が引くのを感じた、体が凍えて寒さを感じて震えた。


「あのリネインが危ないのです?」

声がこわばっている。


エルニア公国とテレーゼ王国の間はバーレム大森林とエドナ山塊に隔てられていた、エルニアは大軍を真西に派遣する事はできなかった、エルニア軍がテレーゼに侵攻する場合にまず北上しアラティアとテレーゼを結ぶ街道の中間地点に出る必要がある。

そこから南西に向かうとテレーゼの入口城塞都市ラーゼに至る、そこから更に南下するとコッキーが育ったリネインの街がある。


そんなコッキーの問いかけに答えたのはルディだ。


「精霊通信の暗号に『北』を指す記号がある、エルニアはグディムカルに加担する可能性が高い」

「ルディさん、テレーゼに攻めてくるのです?」

「エルニアは小国だ、外に出て戦った経験が少ない、アラティアを牽制するのが目的だろう、しかしそのような事をして何が得られる?」

最後の言葉は自分自身に言い聞かせるようにその声が低く消えて行った。


「あの、じゃあなぜ戦争なんですか?」

今度はアマリアのペンダントが答えた。


『軍を動かす目的はアラティアの牽制だろうよ、じゃが参戦する目的がわからんのう』

ベルが軽く手を上げた。

「たしか聖霊教会が聖戦を宣言してたよね?アマンダが言っていたと思う」

その言葉にその場にいた者達が驚いてベルを見つめた、ルディの瞳は密かな称賛の色を浮かべている。

アゼルがそのわずかな沈黙の間を破る。


「ベル嬢の言う通りですね、グディムカル側として参戦する場合は聖霊教の敵とみなされます、これは致命的ですね」

アゼルは頭を左右に振った。

コッキーはハイネ南の新市街の聖霊教会からリネインの孤児院に逃げてきた修道女と孤児達を思い出した、今彼らはアラセナに避難していた。


「あの、アラセナはだいじょうぶですか?」

アラセナは万が一の時にリネインの孤児院の子供達を逃がす予定の地だ、アラセナはテレーゼ南東の地で山々に囲まれた孤立した土地だ、バーレムの森とクラビエ湖沼地帯に隔てられているがエルニアに近い。


「エルニアにアラティアの牽制とアラセナ攻略を同時にやる力はない」

ルディは少し考えてからゆっくりと言葉を区切る様に断言する。


「じゃあラーゼまで攻めてこないんですね?ルディさん」

「アラティア軍を撃破しラーゼを陥落させる戦力はない、だがテレーゼのグディムカル軍に有利にはたらくだろう、アラティア軍はテレーゼ遠征軍との連絡線を維持しなければならなくなる、ハイネ通商連合もラーゼに戦力を割かれるはずだ」


「いったいエルニアで何が起きているのでしょうね」

アゼルの言葉はどこか自分自身に問いかける様だった。

青白い照明に照らされたアゼルの顔がこわばっていた、きっと顔色も青いと思う。


「あの大切な人とかいるのですか?アゼルさん」

ついそう口走ってしまってから慌てて両手で口を覆った。

アゼルはコッキーの言葉に気づいたのかこちらを向いた、彼は僅かに笑っていた遠くを見るような目に心を突かれる。

ふと誰か好きな人がいるのかと思った。


「ええ今もいます、去った人もいます・・・私達はテレーゼにかかりきりになりエルニア内部の情勢に無関心になりすぎたのかも知れませんね」

「そうだな、エルニアに関してしばらく大きく動かないと思っていた」

ルディは右手を強く握りしめていた。


「何を考えているんだ、あの男は!!」

場が凍りつく、コッキーにもあの男とはルディの父親のエルニア大公を指している事が解った。


「ルディ、大公の事詳しいんでしょ何か思い当たる事ない?」

ベルの質問にルディは考え込み始めた。


「どうじゃ、みな席につかぬか?」

黙って聞いていたホンザが見かねて始めて口を開いた、コッキーは幸いと壁際の定位置の長椅子にかけより腰かけた。

ベルが丸机の側の椅子に座る、そこはアマンダの定位置だった、アマンダが帰ってしまった事を改めて感じさせる。

コッキーもいつのまにかあの大柄な美女がいる事に慣れてしまっていたらしい。


「さきほどの問だが・・・あの男は心が弱く自制心が効かぬ、誰かに決断させるがそれ故にその相手を憎む」

「そこまで言う?一応父親なんでしょ?今までそこまで言うの聞いた事無いよ」

それにベルが突っ込んだ。

「エルニア大公家の公子としての立場がある、臣下の前で非公式でも言えない事は多い、だが今は死んだ事になっている身だ、幽霊ならば何を言っても問題ないさ」

ルディは苦く笑った。


「ルディ、何がいいたかったんだ?」

「合理的な理由があるとは限らない、合理的に考えても、相手が合理的に考ない場合は意味などない」

するとアゼルとベルはそのまま黙り込んでしまった。

コッキーはそれに胸騒ぎを感じ不安になった。


『何と、合理的な理由があるとは限らないだと、だが周囲の者達が止めるはずじゃろ?』

ホンザが正面のルディのペンダントに語りかける。

「アマリア様、わしにも聖霊教と対立して得られる物が思いつきません、何か非合理的な理由があるのやもしれませんぞ」

『何者かが干渉している可能性か、魔術、いや死靈術か?』

「闇妖精なら人を操れたでしょ?」

ベルはペンダントから聞こえてくる自分そっくりな声が嫌いだったが、質問を投げかける。

『うむ、その可能性もあるか』

アマリアは暫く口を閉ざしてしまった。


「状況が大きく変わる、エルニアの参戦がグディムカルと無関係ななわけがない」

ルディの言葉を疑うものはいなかった。


「エルニアで起きている事を知るべきだ!」

ベルが大きな声で意見をのべる、だがルディは暫く目を瞑る、そして目を見開いたそこに決断の色があった。

「グディムカル軍の中枢を叩こう、すべきでは無い、今もすべきでは無いと考えている、だが帝国軍を麻痺させるか撤退に追い込む事ができればエルニアの事は後回しでも良い」


それを聞いたコッキーは立ち上がる。

「私は初めから賛成なのですよ!!」

丸机を囲んでいる4人が驚いてこちらを見ている。


「みんな茸に変えてやるのですよ!!」

聖霊力を僅かに解放すると体の奥でドロリとした力の塊が動いた、全身に痺れるような力があふれ、歓喜の悦びにしびれた。





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