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死の結界の綻び

ベルは穴の縁にかがみながら底を覗いた、そして頭を横に振る。

「これじゃあ外から見えないな」

腰まで埋まりそうな穴の底に泥塗れの丸みを帯びた石板が半分ほど頭をのぞかせている。

ルディもベルの反対側からのぞき込む。

「かなり深く埋めてあったな、死靈のダンスの資料には無かったぞ」

「殿下、これを設置したのは魔道師の塔でしょうか?」

だがアゼルの疑問に答えたのはアマリアのペンダントだ。

『うむ、セザールの手に依るものだろうて、さてこれをどうしようかの・・・』


「壊そうか?」

「ベル嬢、破壊するとこちらの動きが察知されるかもしれませんよ?」

ベルはアゼルを睨んだ。

「そうだけど、これを放置できない」


全員の視線がルディに集まった、最終的な決断は彼にあるとみな見做していた。

「ベルの言う通り破壊しよう、奴らは修復や他の魔術術式の防衛に人を割かねばならなくなる、それだけ俺たちは自由に動くことができる」


黙って穴の底を覗き込んでいたホンザがアマリアに呼びかける。

「アマリア様、死の結界を機能不全に陥らせるにはどうすべきか解りますかな?」

『ハイネ城の制御術式を破壊すべきだが、ほかのサークルを破壊する事で弱める事ができるはずじゃ、大結界の内側になんらかの作用をもたらしておるのは間違ない』

この内側とは広大な東テレーゼ全域を指している。


「ねえアマリア、丸い石を動かすだけで壊せるかな、持ち帰っても大丈夫?」

『ふむ、場所を動かすと機能しなくなると思うぞ、石の表面に術式が描かれておるだろ、配置を動かすだけで機能が狂うはずじゃ』

アゼルが何かを思いついた様に顔を上げる。

「アマリアさま、このサークルにも制御用の丸石があると思われますか?」

『アゼルよ良い着眼点じゃ、探して見る価値はあるぞ!』


そして四人は手分けして制御術式が有りそうな場所を魔術や力ずくで掘り返し始めた、少し時間が経った頃ベルの力強いそれでいて澄んだ声が響く。

「あった!これだ!!」

皆が集まると穴のそこに丸い石板が頭をのぞかせていた、泥で汚れていたが何か複雑な記号らしき記号が刻み込まれている。

ベルが大胆にそれを掴むと軽々と持ち上げた、そして下草の上に置くと草や葉を集めて泥を拭いはじめる、やがて磨かれた石板に刻まれた複雑な記号が露わになる。


アゼルは小さく息を吐くとルディに向き直る。

「殿下、これは城の地下にあった魔術陣地に似ていますね、ここから動かすだけでもここの魔術陣地が機能しなくなる可能性は高そうですね」

「じゃあこいつを持ち帰ろうか?」

ベルの提案に異論は出なかった、そして石板の重さについて語る者もいない、今のベルにとっていや幽界の神々の眷属にとってたいした負担にならない事をみんな理解している。

「ああ、たのむベル」


「では他の石板は砕いてしまおうぞ、ホホホ」

石板の破壊は土精霊術師のホンザが適任だ、ホンザは楽しそうに笑うと術式を唱え始める、ホンザは幾つかの術を重ねて石板を砂に還しはじめる。

ルディが慌てて離れた場所に向かうと穴の底にあった石板を掴み取った。

「これは持ち帰るぞ」


やがて丸い石板を破壊尽くしたルディ達はその場を速やかに離れた、そして次の魔術陣地に向かう事にした。

精霊力と魔術で強化された彼らはそう時間をかけずに次の目的地に到着するだろう。

彼らが立ち去った小さな森の中は何事も無かった様に静寂が戻る、だが森に差し込む日の光がどこか美しく感じられた、森が魔界の力から解放されたのだ。




青い魔術道具に照らされた部屋の壁は石造りで壁はゆるやかな大きな曲線を描いていた、その壁に窓らしき跡があるが黒い何かで塗り潰されていた、そして部屋の中に青白い霧が漂っている。


部屋の奥の壁際に巨大な黒光りする黒檀らしき机が置かれていた、部屋には古めかしい本棚が壁を埋めている、よく見ると壁の一角が大きく壊され修復した跡がある、その前に本棚が置かれ傷跡は隠されていた。

部屋に飾り気は無くハイネ評議会の紋章と魔道師の塔の紋章のタスペトリーがあるだけだ。


この黒壇の机の前に黒いローブの人影がある、ローブは古代ルーンを象った銀の紋章で飾られていた。

この人物こそハイネ評議会員であり謎めいた大魔術師セザーレ=バシュレその人だった。

彼は深くフードを下ろし顔は見えなかったが、その奥に目のあるべき場所に青白い鬼火の様な光が二つ輝く、フードの奥から白い霧がゆっくりと吹き出していた。


その時の事だ、部屋の青白い光が揺らぐ、まるで深い海の底のように、粘り気のある油のように総てがぐにゃりと歪む。

やがて歪みは消えたがセザールの両眼の青白い鬼火の輝きが強く煌めいた。


「何者カが、偉大なル大結界に傷を付けおった、いや疑うまでもない奴らだ」

その声は聞き取りにくく、ガサガサと乾ききっていた、それは遥か遠くの世界から聞こえてくるかの様に虚ろだった。


「奴らはまだ全貌を理解してはおるまい、だがそれも時間の問題カ、これ以上奴らを放置しては計画が根底から瓦解する、しかし大導師の力が・・・」

その時セザールの背後に暗黒が口を開く、背後の壁はハイネ城の大尖塔の壁でその向こう側は外だ。

だがその穴は渦を巻きながら広がる、底なしの井戸の様に暗く深い。


やがてその深淵の奥に二つの赤い光が灯る。


「大導師・・・」


セザールは自分自身に言い聞かせる様に呟いた。





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