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エルニア大公家の醜聞

 アラティア軍とセクサドル軍の幕僚達が会議室から去る、最後に魔術師が一礼し退室すると、後にはセクサドルの名将と名高いドビアーシュ将軍、アラティア軍総司令官コンラート将軍と副官のブルクハルトだけが残された。


コンラートは席が落ち着くと少し迷った様子だったが語り始めた。

「ドビアーシュ将軍はエルニアの東海岸に未知の大陸の難破船が漂着したが、ご存知か?」

ドビアーシュは怪訝にアラティアの武官を交互に見比べた、彼の顔には何の関係があると書いてある。

エスタニア大陸各地の海岸に未知の大陸からの漂着物と思われるものが流れつく事がままある、そして何度も行われた探検航海は今だに何の成果もたらさない、それはドビアーシュも良く知っていたが。

「それは初耳だが、それがどうした?」

「生存者が保護されたのだ・・・」


「なんだと!!」

ドビアーシュは思わず叫んだ、今まで未知大陸の難破船から生存者が発見された事がなかった、船の損傷が激し過ぎて僅かな積み荷が見つかる事こそあったが遺体が発見された前例は無かった。


「ほぼ原型を保ったままの大船がエルニアの東端に漂着し生存者が保護された、だが船は直ぐに嵐で沖に流されてしまった」

「コンラート将軍、興味深い話だが今はそれどころではあるまい?それがエルニアの異常と関係があると?」

「救助されたのは異国の女でな大層美しいらしい、その女はエルニア公国の保護下にある、そこまではわかっているのだが」

「だが?」

ドビアーシュは眉をしかめる、コンラートの歯に何かが詰まった様な言い草を不快に感じたのだ。

「そちらの調査は進んでおらんのか?まてたしかアラティア国王の妹君がエルニアの大公妃に入っておられたな?テオドーラ大公妃だったか」


コンラートは覚悟を決めたかのように一息付いた。

「そうだ、だが一昨日からテオドーラ様との連絡が途絶えた、テオドーラ様に付けた使用人と連絡が取れなくなった」

「なんだと?」

ドビアーシュはここに来て事態の深刻さを自覚し始める。


「難破船が漂着してから何が起きたか手順を追って説明しろ!コンラート将軍」

身を乗り出した彼の口調は責めるような詰問調に変わる。


そこから副官のブルクハルトが引き継いだ。

彼の話は一月程前の嵐の夜エルニアの港町リエカの近くに巨大な異国船が漂着した事から始まった。

船から救出された貴人らしき女性がエルニアに保護されアウデンリートに護送された事。

その女性は美しく言葉が通じないがそのふるまいから高貴な身分と推察され、彼女が『異邦の麗人』と呼ばれている事、そして嵐の夜に異国の大船は流されてしまった事を伝える。

だが大公妃と特別な任務を帯びた大公妃付きの使用人からの報告で、エルニア宮廷のおぞましい状況が語られ初めた。

「まて、エルニア大公は正気なのか?その女性の身分によっては後に外交問題になろうぞ?」

真剣に聞いていたドビアーシュが思わず口を挟むと、コンラートはいつのまにか組んでいた熊のような太い腕を解いた。

「毎夜、大公はその女性の元に通っていたらしい、テオドーラ様は怒りを通り越して呆れておられたようだ、美しい女だが何かが異常だとあのテオドーラ様が怖れておられたらしい」

「まさか何か魔術か薬を使ったのではあるまいな?」

コンラートは首を横に振った。

「エルニア宰相や魔導庁もそれを疑ったらしい、だがその痕跡は見つからなかった、それだけならば大公を諫める事はできても止める事まではできない」

「愚物と噂は聞いていたがそこまでだったとはな」

ドビアーシュは皮肉な笑いを浮かべる、もしかしたら自国の未来の主君を思い出していたのかもしれない。


「だがそれだけに収まらなかったのだ・・・」

コンラートが更に顔を歪めたので、ドビアーシュは密かに身構える。

「何があった?」


「それはな、エルニア公国の第一継承者、ルーベルト公子が『異邦の麗人』の元に通っている事が発覚した」

「なんだと!?」

「流石のテオドーラ様も激怒され急報を陛下の元に送られた、だがしょせんは他国の宮廷の乱れにすぎない、我が国はグディムカル帝国との戦いの準備に忙殺されていた、おかげで対応が遅れたようだな、俺もそれを知らされていなかった」


「だがそれでは済まされなくなった、テオドーラ様からの手紙が絶えた、大使館とテオドーラ様の連絡も途絶えている、アウデンリート城内で何が起きているかは不明だ、本国の外交部は詳細を把握しているとは思うが」


「それでこのざまなのか?エルニアの目的は何だ?その女に(タブラ)かされているのか?」

「現時点では不明だ、異国の工作員説も出ている、本国の諜報部が手を尽くしている」


考え込んでいたドビアーシュが何かに気付いかのように面を上げた。

「ルーベルト公子は貴国のカミラ姫の婚約者であったか?」

「いや候補に過ぎない、テオドーラ様がエルニア諸侯の説得にあたっておられたが、こうなると良かったのかもしれぬな」

更にコンラートはばつが悪そうに続けた。

「エルニア大公家内部の乱れに関してはしばらく伏せておいてほしいドビアーシュ将軍」

これはそれ以外の案件はセクサドル軍内部に周知して良いと言うことを意味していた。


「ああ、わかった」

そう言うと老将軍は頷いた。


「さて会議はこれまでだ、我々は目の前の敵に対処しなければならぬ」

コンラートはそう宣告すると三人は席を発った。






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