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雨の中、小林が笑っている。濡れるのも構わずに、ちょいちょいとこちらに手招きしてくる。
僕にとっては檻のようにも思えたこの軒下を、小林は軽々と乗り越える。水飛沫を上げるスニーカー、少しずつ色を濃くしていく制服、髪から滴る雫を指先で弾きながら、肌に張り付く服の感触ですら、心の底から楽しんでいるみたいに。
すごいな、と思う。
同時に、どうしようもなく羨ましかった。
迷惑をかけることしかできない。そう思っている。それなのにここから出てもいいのだろうか。誰かの大切な時間を奪っているかもしれない、この瞬間を、僕が楽しんでもいいのだろうか。
答えの出ない自問自答を、ぐるぐると頭の中で繰り返す。
けれど、そんな僕の迷走を断ち切ったのは、高尚な決意でも勇気でもなかった。
待ちきれない。そう言わんばかりに、小林が唇を尖らせた。薄い唇を不満げに突き出し、頬を少しだけ膨らませる。その、あからさまに「拗ねている」表情。
……なんだよ、その顔
彼女の感情は真っ直ぐで、そして速い。
彼女の尖った唇が描く小さな曲線が、僕が抱えていた何百文字もの葛藤を、一瞬でどこかへ流し去ってしまった。
……馬鹿らしいな
そう思いながら、僕は軒下から一歩踏み出した。檻だと思っていた雨の壁が撫でるように、頬を叩き、服を濡らす。それは思っていたよりもずっと冷たくて、でも少し心地よかった。
嬉しければ笑い、悲しければ泣き、拗ねれば唇を尖らせ、ずるいと言いながら頬を膨らませる。コロコロ変わる彼女の表情はまるで天気みたいだ。
……なんだ、僕よりわかりやすいじゃないか。
そう思うとなんだか急に力が抜けてくる。
清水も私も変わらない。ちょっぴり変なだけ。さっきの彼女の言葉が、ようやく僕の心に溶け出した気がした。
ーー雨に当たるのも悪くないかもな。
初めて、そう思えた。
ずぶ濡れになった肩は重く、肌に張り付くシャツは冷たい。けれど、不思議と心だけは、軒下にいた時よりもずっと軽かった。
ふと、小林が空を見上げた。
重く垂れ込めていた灰色のカーテンが、どこか遠くの方で薄く引き裂かれている。その切れかけた雲の隙間から、まるで天からの梯子のように、細く鋭い光の束が地上へと差し込んでいた。
「……あ」
どちらの声ともわからない小さな声なのに、はっきりと耳に届く。何か言われる前に、僕は耐えきれなくなって、慌てて折り畳み傘を広げて、顔を隠す。もう、使う必要なんてないのに。
傘で遮ったってわかる。小林はきっと、憎たらしいくらいに、にやにやしているのだろう。
……やっぱり。
僕は、雨が嫌いだ。
とりあえず、おしまい。
つまんねぇ!
面白かった!
陰湿変態なめくじ男!
と、なんでもいいので感想ください!
一つでも感想がもらえたら小林視点のなにかを続きに書きます!よろしくお願いします!




