第5話 結末
――『お前みたいな女、俺と釣り合うわけないだろ?』
春川と園子の脳内では焔の残酷な言葉がこだましていた。春川はあまりにも予想外の出来事に足が動いて焔のすぐ近くに駆け寄り説得する。
「なんでだよ⁉焔、今お前に千載一遇のチャンスが訪れているんだ!お前ずっと言ってたろ?『理想の男になって園子さんと仲良くなりたい』って!」
必死に訴えかける春川に焔はブリザードのような冷たく鋭い視線を向けている。そして、吐き捨てるように言う。
「…気づいたんだ。俺は人の理想を追い求めるのではなく、自分の理想を築き上げるべきなんだって。」
「…ぐっ」
その言葉は正論で全く反論の余地がなく、春川は黙って視線を園子の方に向けると、顔がぐしゃぐしゃになるくらいに涙を流している園子の様子に春川は目を丸くした。園子の告白の熱意が春川にはよくわかった。そして、春川は園子に駆け寄り、さらに焔に訴えかけた。
「…おい!翡翠川さんが悲しんでんじゃねぇか!嘘でもいいから『好きです』の一言でも何でもいいから何かフォローしてやれよ!」
しかし、焔はひらりと冷静に言葉を返す。
「…それで彼女が喜ぶのか?仮に言ってももう遅い。」
春川はその言葉を聞いた直後、プツンと何かが切れた感じがした。
「…なんだよ。焔――いや、一ノ瀬!お前に何があったか知らんが、今のお前は前の心の温かい焔とは別人だ。もう絶交だ!」
「あぁ、いいさ。むしろ今まで友人だと思っていたのが不思議だったよ。」
こうして二人の友情は途絶えた。その様子を園子はただ自分の心の穴と共に身に染みているのを感じていた。
――その夜
春川は自分の部屋のベッドでただ焔の冷酷な瞳を思い返していた。
「…やっぱり、言い過ぎたかな。あいつが変わった理由もわからないままだし…。」
春川がそんなことを思って、おもむろに部屋のカーテンを開けると、窓から赤い光が春川の目に飛び込み、その光景に春川の丸まった背がピンとなった。
「…何?火事?…って、あの家、一ノ瀬の家じゃねぇか!」
すぐに春川は上着を羽織って自転車で火事の現場に向かった。着いたころには火がかなり回っていて消防隊も悔しそうに顔を下げていた。すぐに消防隊に春川は尋ねる。
「…あの!一ノ瀬焔という俺の同級生はいましたか?彼は無事ですか?」
「…」
消防隊の沈黙と共に見せた表情から春川は全てを悟り、野次馬の中からただひたすら燃え盛る炎を絶望と焔との思い出を感じながら眺めていた。――すると
「おや、一ノ瀬焔様は忠告を破ってしまったようですね。」
目元を隠したシルクハットのスーツの男性が春川の隣に立った。
「…忠告って?」
「…はい、あなたのご友人は私の店のオリジナルブレンドを『飲みすぎてはいけない』という忠告をしたにも関わらず、毎日飲み続けました。あのブレンドはどんな気温でも春の陽気を感じさせるもので寒さだけでなく暑さも感じなくなるのです。」
それを聞いた春川はやっと全ての謎が一本の線になって繋がった。焔が冷え性じゃなくなったのも、性格の変化も、――この火事から逃げられなかった理由も。
「…あいつ、きっといい夢を見ていたのかな。」
春川は昼間の喧嘩を思い出して泣きながら、ただ目の前の炎に手を合わせるのだった。そして、目を開けると隣の男性の姿はなく手には名刺があった。
――『ミール 『紅茶専門店ティータイム・ミステリー』のオーナー代理』
そこには店の住所も書かれていた。しかし、春川は全然行く気が起きなかった。
※この物語はフィクションです。




