第2話 訪れる春
――下校途中、謎の細道を見つけた一ノ瀬焔は秋の冷たい空気で身を縮ませながらも細道を歩いていた。
「こんな長い道なんてあったのかよ。これは春川に話しておいた方が良さそうだ。」とウキウキしながら焔は歩みを進めていった。すると、急に辺りが開けてきて眩しい光に包まれた。
「…うっわ、なんだここ…」と思わず声に出してグッと息を吞んだ。暗い寒い細道の先にはとても明るく春のような暖かい大きな屋敷があった。屋敷はアンティーク調で広い庭には花が植わっている。まるでおとぎ話の世界に飛び込んだようだ。焔は太陽の光を手で隠しながら屋敷の門の真上の看板を見た。門はツタが絡まっていたが看板はきれいに見えていた。誰かしらいるのは間違いない。看板の字を見て焔は目を丸くした。
――『ティータイム・ミステリー』
「…嘘だろ。あれは作り話じゃ…」
焔はまだ信じられなかったが、目の前の光景を受け入れざるを得なかった。しばらくぼんやり門を眺めていると門がギィーという音をたてて開いた。下の方を見ると、そこには優しい緑色のスーツに夕陽のような赤のネクタイを着けたシルクハットの男性が立っていた。目元がシルクハットを深く被っているため見えないが声が紳士のようで焔は焦りと共に不思議と落ち着きを感じた。
男性が口を開いて「…おや、あなたが迷える子羊ですね。一ノ瀬焔さん。私はここの店員でありオーナーの代理を勤めております。どうぞ、ミールと呼んでください。」と深々とお辞儀した。焔は驚いて「…なんで、僕の名前を知っているんだ?」と尋ねた。しかし、ミールは応答せず、「どうぞ、中にお入りください。」と言った。そのまま焔は言われるがままに店に入っていった。
焔はミールにバーにありそうなカウンターテーブルに案内された。ミールが反対側に立ってスーツの襟を整える。
「…それでは、あなたの"望み"は何でしょう?」
焔の脳裏には園子の笑顔がよぎった。いまいちミールの言うことが信じられなかったが、思いを爆発させるように強く言った。
「僕、とても冷え性なんです!そのせいで好きな人の理想の男になれなくて…。だから、冷え性を治したいんです!」
焔は「なんで見ず知らずの人にこんなこと言ってしまったんだろう」と顔を真っ赤にした。そんな焔をよそにミールは冷静な口振りでお辞儀をした。
「かしこまりました。早速おすすめのブレンドをご用意します。」
ミールが店を奥に消えると焔は頭をフル回転させて春川との会話を思い出していた。
「たしか、条件が二つあったな…。一つは出された紅茶は何がなんでも店内で飲み干すこと。もう一つは一度飲んだら一日に最低一杯はこの店で紅茶を飲むこと。――だったかな…。もう注文しちゃったし、もう飲むしかないか。条件破ってどうなるかわからないし…。」
焔が考え込んでいると、ミールが「お待たせしました。」とお盆にティーカップを載せてやってきた。焔はすぐに駆け込んで紅茶を確認すると――中身はいたって普通のストレートティーだった。すると、ミールが解説をする。
「こちらを飲むと半日、春のような陽気を感じ、手足の冷えもその間改善されます。しかし、飲みすぎにはご用心くださいませ…。」
ミールの解説は最後の方で周りの空気が暗くなったが、焔はすぐに紅茶を飲み干した。すると、焔の体は一気に温まり、手足の冷えも無くなった。
「…すげぇ、あの噂本当だったのか。」
焔は店を出ようとするとミールが引き止めテーブルにカードを置いた。
「こちらは当店の会員カードでございます。こちらを持っていただければどんな紅茶でも無料でお出ししますよ。」
「…ありがとうございます!」
焔はカードを受け取りカバンにしまうと軽い足取りで家に帰っていった。
※この物語はフィクションです。




