第八話:愛と言われたら君は何を思う?
私は私と答える。愛とはアイ。愛とするのは自分。
結局は人皆自分が可愛いんだと思う。いや、そうとしか言い用が無いと思う。
実際人間が絶望の淵とかに追いやられたら自分を可愛がるに決まっている。
私もその無様な人間の一人に入り組まれている。
嫌になっちゃうよ。ああー、もう嫌だ。
私はバスから降りた。道路は人が通らない道をわざわざ選び、前に叔父さんから教えてもらった歩き方で歩いている。しかし、県外にも出ていないという事態。
うわー、四日もなって出ないとは、やばいと思う。
普通二日位経ったら出てるはずだけど、出ていないのはどうだろうかと思う。
「はあ、これは少し落ち込むよねえ」
私の脳内計画では一日で外で出たかったのだ。と言うわけでもう初日に私の計画は瓦解している。ははは、すみませんね? 私は計画を立てるとよく失敗するんですよ?
こりゃ目的の前にすぐ終わりそうな気がする。とやや不安げに思った。
これは結局、自分を可愛がって終わりなのかも知れない。
でもそんな事はもう嫌だ。
私はもうあの過ちを犯したくないんだ。だから外に飛び出したんだ。
自分の体が震えている事に気付き、自分の体を抱え、しゃがんだ。目の前が歪曲して気持ち悪い。貧血みたいな症状だった。
「あのー……」
「?」
私の顔を覗きこむ人がいた。私の顔がそんなに変な顔をしていたのかな…。
「大丈夫です。すみません心配かけて」
「いいえいいえ、私、あんまり人を放っておけないので」
そうなんですか……と愛想笑いで言った。表情筋を無理やり動かした所為なのか、所々ひくひくと痙攣しているような気がした。
その人は、私と同じくらいの年で、高校の制服を着ている。
セーラー服で、赤いリボンがチャームポイントらしい。
彼女は鞄からハンカチを出すが、私はそれを拒み、自分のハンドタオルを取り出した。
「名前はなんですか?」
「通りすがりの美少女ですよ」
と冗談で言うと彼女は変な顔をして私を見ていた。
あれ? 私そんな変な事いったかな? チョイスが悪かったかもしれない。
彼女はその後は、名前を聞かなかった。
彼女はバス乗り場を教えてくれた。私はバス停の椅子に座り、彼女は隣に座る。
「えっと、見たところ私と同じくらいですけど、どこかに行くんですか?」
「んー、ちょっと学校をストライキして、自分探しの旅に出かけているのですよ」
凄いですね。と彼女は素直な感想を言った。おお、なんか嬉しいかも。
「でも、帰ってすぐに補修ばっかの毎日ですよね?」
「うっそれは言わないで……、それは気にしないでいるの」
本当はそれを気にして旅をしているのに……。私は後ろ髪を引っ張られすぎているのかな?
「でも、良いですよね。何も囚われないでどこにでも行けるなんて……」
「そうかな? 私は意外と後をひくタイプです」
「でも良いじゃないですか。私は親が怖くてどこにでもいけないです」
「お父さんが?」
「いいえ、お母さんが教育ママみたいで、こっちの言いたい事が言えなくて……」
少しだけ暗い顔をしていた。
「うーん……」
「しかも、大学ももう勝手に決められていて、私の行きたい道とか耳にも入れてくれないし」
「どこ行きたいの?」
「芸術家です。絵師にでもなろうかなって思っていて」
へえ、と私は相槌を打った。
「絵とかって結構お金かかるでしょ? キャンパスとか油絵とか……」
「それは分かっていますけど私は絵が好きなんです」
私は黙った。
私は何処に行きたいと思っただろうか? 私は何をやりたいと思ったか?
そんなものは何処にも無かった。私は空っぽの人形だ。
「いいなあ」
え? と彼女は私に聞いてきた。
「私ね、これをするまで何も目的が無かったんだ」
「……」
「クラスの空気に流されて、何かをしようと思っても何もする事が無くて、結局は何も欲望が無い存在なんだ」
「そうですか」
「でもね、恋はしたいってずっと思っていたんだ。人に恋をする事で何か得られると思ったんだ」
変だと思うでしょ? と私は彼女に問う。
「でも結局はいろんな人に恋をしたけど何かを得られる事も無かった」
だから旅をしたんだと私は付け足すように言った。
「私、貴方の事尊敬します」
「へ?」
私、貴方の生き方に尊敬します。ともう一度言う。私は笑って、選ばないほうがいいよと答えた。
「だって、自分の思った事をやろうとしているじゃないですか。そんな有言実行な人はそういないと思います」
「……」
私を認めてくれる人がいた。思わず照れそうになり、目を背けてしまった。
バスが来る。私は立ち上がり、そのバスを待った。
彼女に背を向ける状態になる。勿論彼女の視線が私の背中を刺していた。
「ありがとう」
一言、私が言える事がそれだけだった。
バスが止まり、扉が開く。私はその階段を上り、整理券をとった。
彼女は、この後どうなるのかは私は良く分からない。
だけど少なくとも彼女はお母さんに立ち向かっていくのだろう。
そう思うと思わず口が綻んでしまった。
バスの扉が閉まる。もう声が届かないだろう。
そして私は振り返り、彼女の姿を見た。
目が合う。私は微笑み、口を開いた。
声は出さなかったが彼女には私が何を言いたかったのか分かるだろう。
バスは動き、私をまた新しい人の元へ連れて行った。
「……あ」
しまったこのバス……。
「私の町にいくじゃない……」
……ガッデム。
どうも斉藤です。
かなり更新遅れてすみません。
後は頼みましたよ。ダイナマイト横須賀さんw
ちなみに問題です。『私』が彼女に言った言葉はなんでしょうか?




