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第九話:本屋さんで雨宿り

 空はいつしか灰色の雲に覆われていた。

 古びた商店街を去った後、またさっきのショッピングモールに戻った。

 とりあえず手当たり次第探すんだ。

 彼女も、あの海にいたという事はこの辺の住民のはずだ。

 そういう確信は無いが、可能性はある。

 今の僕には何もないから、何かを失う心配もない。

 唯一失いそうなのは自分の命だろうか。

 こうしている今でも病は確実に僕の体を蝕んでいる。

 ショッピングモールの自動ドアをくぐると、不自然な涼しさに身ぶるいする。

 こういう大型の店にはどうしても季節を感じられない。

 とりあえず一階を散策する。

 薬局にはほとんど人がいない。

 店の前で洋服を見ている人の中にも、彼女らしい人は見当たらない。

 本屋の中に入ると、かなり大勢の人々がいた。

 とりあえずその中で彼女らしき人を探すことにした。

 一歩敷地内に入ると、独特の静けさを感じる。

 旅行、レジャー雑誌の欄を抜け、公務員試験や資格試験の参考書の棚を曲がる。

 高校・大学入試対策の所にも彼女らしき人はいない。

 遂には小説や経済書の欄にもそれらしき人物は見当たらなかった。

「ここは違うか……」

 そう考えた僕はすぐに本屋を出て、エスカレーターで二階に向かった。

 二階に到着してすぐに目に飛び込んできたのはスポーツ用品店だった。

 有名な水泳選手のポスターが僕の目をくぎ付けにする。

 僕も病気じゃなかったら自由に泳ぎまわれるのに。

 日常茶飯事が遠い夢に変わったことに改めて気付かされ、溜め息をつく。

 彼女はスポーツが好きなのだろうか。

 もし好きなら、どんなのが好きなのかな。

 できれば水泳が好きだったらいいな。

 彼女と再会した後、ちゃんと病気を治して、一緒に泳ぎに行く。

 そんな想像を掻き立て、僕は歩き出す。

 スポーツ用品店の中はとても広かった。

 野球用品、サッカー用品、水泳用品、陸上用品、テニス用品。

 家族づれが多く、どちらかというと男性の方が多い。

 ここも違うとみて、店を出る。

 フードコートを抜け、雑貨屋を通り抜ける。

 特に彼女らしき人は見つからず、エスカレーターで三階に向かった。

 そこはとうとう立体駐車場だった。

 家族連れが何組かいて、もちろん彼女と同じくらいの年齢の人もいるが、いくら探しても彼女はいなかった。

 柱の間からのぞく空はどす黒く、音を立てて雨を降らせている。

 傘を持っていない僕は必然的にやむまではここを出ない事にした。

 とりあえず下に降り、フードコートを目指した。

 家族連れは依然として多い。

 カップルも何組かいる。

 手をつないで僕の横をすぎていく。

 そういう姿を横目で見ながら、彼女と僕を重ね合わせる。

 もしこの想いが通じたら、あんな風に笑いあえるのだろうか。

 フードコートには多くも無く、少なくも無く、ほどほどに人が集まっている。

 抗がん剤の影響なのか食欲はあまりないが、それでも何かを腹の中に入れておかないともたないと思い、うどんを一杯注文した。

 窓際の席に座り、番号札を机の上に置いておく。

 左手で頬杖をつく。

 頬が引っ張られて痛いだろうと思ったが、その頬肉もほとんど落ちてしまって骨のようだ。

 そうこうしているうちにうどんが届いた。

「うどんでございます。ごゆっくりどうぞ」

 感情の入っていないお決まりのあいさつも、久々だった。

 病院暮らしに慣れてしまったせいか、こういうなにげない事も懐かしく感じる。

「ありがとうございます」

 自然に口からこぼれた言葉に、店員さんも微笑みで返してくれた。

 綺麗な女性店員だが、この人も彼女ではなさそうだ。

 さっとうどんに目を移す。

 一倍安いかけうどん。

 でもそこからでる湯気に、僕は値段以上の重みを感じた。

 もしかしたらもうこれを食べるのが今日で最後かもしれない。

 ひと口ひと口を丁寧に食べた。

 うどんを食べながら今後を考えた。

 とりあえずこの建物の中には彼女はいない。

 それは確かだろう。

 雨がやんだら移動するとして、それまでは本屋で本でも読んでおこう。

 そう決めた僕はつゆを一気に飲み干し、腕で口を拭いた。

 

 一階の本屋はさっき来た時よりも人が多くなっていた。

 僕は実は本を読むのが好きだ。

 入院中も本を読んでばかりいた。

 中でも特に好きなのが小説だった。

 病気の僕でもその世界に引き入れてくれて、冒険したり友情を感じたり時には探偵になりきり……。

 いくつもの世界を駆け巡って、いく人もの人と出会う。

 そんな小説が、大好きだった。

 最近はケータイ小説というのが流行っているらしいが、僕はそういうのは好きではなかった。

 だいいち病院内で携帯電話を使うことはできないし、空白が多い文体にも違和感を感じるからだ。

 でも、一般人が一番小説家になって本が出しやすいのもケータイ小説だ。

 そういう点では僕も魅力を感じる。

 いつか元気になったら、この旅を小説に書き表して、彼女に読んでもらおうか。

 その時彼女はどんな反応をするだろうか。

 喜ぶだろうか。嫌がるだろうか。

 夢は膨らむばかりだ。

 こういうのは普通彼女が見つかってから考えるものだろう。

 でも僕の場合は違う。

 こういうのが楽しみにつながり、生きる力を与えてくれる。

 こんな体で旅ができるのもそういうことなのだろう。

 彼女の存在には頭が下がる思いだ。

 さて、『人を探す方法』っていう本でもないかなぁ。

その呼び方マジでやめてくださいよ^^;


なんだろうなぁ……

「頑張って」とか、「踏み出して」とか?


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