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第十九話:私の名前

 空はだんだん紅くなり始め、太陽は地平線へと落ちてゆく時間になる。それはどれ位といえば二十四割る二くらい。

 いわゆる半日も浜辺にいた。

 私は隣にいる少年と座っていて、ぼんやりとその落ちてゆく太陽を見ていた。少しだけちらりと見ると少年はよれよれの服を着ていてみすぼらしい。女性の性を刺激するような服装だった。


 「汚いね」

 「だね。まさかこんなにボロボロになるとは思ってもなかったよ」

 「服はなかったの?」

 「まあね」


 汚いね。と私は言った。もちろん彼はそうかなといって自分の今着ているものを見ている。さくりと靴の踵を砂に埋めた。


 「そういえば君ホスピスは?」

 「抜け出したと言えばいいのかな? 君と別れてすぐに旅に出たんだよ」

 「自分探しの?」

 「うん。たぶん」

 「どうしてそんなに曖昧なんさ」


 うーん。そんなこと言われても名あと彼は逡巡している。

 イライラしてきた。


 「まあ、色々あったんだよね」

 「ふうん」


 そこで会話が途切れた。

 私はゆっくりと立ち上がり、砂浜の砂をじっと見つめていた。

 私は一粒の砂なんだ。ほかは何億という人。


 「私ってさ小さい人間だったんだよね」

 「え?」


 振り返り、彼と向かい合うように座る。体操座りだからパンツは見えているだろう。彼は眼を逸らし、話を促した。


 「いっつも人ばっかりしかも男に付きまとっては振られてね。何してるのか分からないくらいにしていたら、ある人が私に近づいてきたんだよ」

 「そうなんですか」

 「うん。それが確か高校二年の秋ぐらい」

 「近いね時期が」


 確かに、その時は多分四か月前だ。


 「その人は私より先輩で、私を見てくれたの。たくさんデートしてもらったし、たくさん私の体を抱きしめてくれたりもした」

 「……」


 彼は嫌そうな顔をしてきた。

 そうだこれは私のトラウマの話だからね。いやな顔をするにきまっているじゃない。


 それなのにそれを話したがる私は何だろうか? 彼を試しているのかそれとも違うのか。それは私にはよくわからなかった。



 「だけどある時私を求めるものが違ってきたんだ。お金を貢いだり、体を貪られたりして、しかもビデオまで撮られることだってあった。私は付き合うからいつの間にか【お遊び】になっていたんだ」


 彼は黙った。完全に私の言葉から離れている。


 「それはそうよね、君は病院というシェルターに阻まれてそんなことは何もなかったんだから」


 少しだけ私は深呼吸をした。


 「その後私は警察に行って、彼を捕まえてもらったわ。その人はその高校から緊急退学。追放ね」

 「君は…その後は?」

 「もちろん人を好きになるというのには恐怖をもったわ。だけどね、昔から私はいろんな人に恋したいと思ったのよ。いつかは私をちゃんと見てくれる人がいるんだって思っていたから、信じていたから」


 彼は私を見つめた。私は彼の手に少しだけ触れようとしたがそれはやめることにした。


 「君は多分私を追いかけていたと思うけど。その私は汚れているの」


 それでも私を求めてくれるの? と最後の言葉は言わなかった。

 彼はそれを読み取って私を助けてくれるのか……。

 それとも彼はそのまま私を捨てるのか。


 彼は紙を取り出した。


 「これ、君のでしょ?」

 「……?」


 手にしたのはルーズリーフだった。くしゃくしゃに丸められていて、ごみみたいなものだがそれには見覚えがあった。


 「あ……」

 「これをここで見つけて、僕は君を探していたんだ。いまどきボトルレターとか摩訶不思議だったから取ったんだけどね……」


 彼は立つ。下から見ているからなんだが、意外と体格が大きいように見えた。






 「     」






 それは潮騒に声が飲み込まれ、私の耳には届かないだろう。


 しかし心には響くほどの大きさだ。


 「分かった?」


 彼はゆっくりと手を出す。その手は私に立つように催促していた。


 「……まあ、ちょっとだけ」


 私は微笑み、その彼の手を握る。


 「あ、君の名前を忘れてた。君の名前は?」

 「後何日しか残ってない人に言わなきゃいけないのかな?」

 「うーん。実は嘘だったといえばどうなる?」


 「言うわ」


 嘘じゃないんだけどねと彼は笑った。

 太陽は半分地平線に飲み込まれていた。まるで君と初めて会った時間帯だ。


 「私の名前は……」

がんばって! あと少しだよ!

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