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第十話:過ちは後ろにあり、挑戦は前にある

 街灯はぽつぽつと光っていて、それは星のような奇蹟だった。私はその街灯の下を歩いていた。


 まさか自分の町に戻っちゃうとは……


 まさかのまさか、バスに乗り込んだのは良いがそれは自分の町に戻るバスだったのだ。

 不幸としか言い様が無い。

 溜息を漏らす。春なのに、まだ寒くて白い息が出た。しかしその息は周りの温度に感化されゆっくりと消えて行った。

 その息はまるで私のようだ。


 周りに触発され、一緒にされ、他の連中と一緒の事をしなきゃいけない。一時期そんな抵抗をした事がある。

 その所為で私は腫れ物扱いされたし、先生からも同級生からも全て畏怖の目で見られる羽目になった。

 実際今は言いたくない。これは本当に私を受け入れてくれる人にしか言わないつもりだ。


 「すぐに出て行きたいけどなあ」


 生憎バスはもう終電で止まっている。その上、周りはもう電気が消えていて就寝の様子。

 インターフォンを押すのもためらった。

 しばらく歩いていると、見知った道に入った。


 通学路の道。


 このまま家に戻ればもう外には出ていけないと思う。

 このまま外にいればまだ自由と言う旅をすることが出来る。


 二つに一つの選択にされた。三つ目は存在しない。


 「……」


 私は一歩通学路を歩いた。塀伝いで歩く私は一発で職務質問にあう事間違いない。

 しかし私はこんな所で捕まる訳にはいかないのだ。





 「って、どうしてこんなところに忍び込んだのかなあ……私」


 タイルの廊下、緑の掲示板が壁に掲げられ、いろんなイベントの話が画鋲で刺さっていた。

 まるで蝶の標本でも見ているかのようだ。紙はいろんな(模様)で彩られ画鋲(虫ピン)で留められている。


 「……懐かしいなあ」


 ここに来たのは、五日振りになるのだろう。五日も来ないと言うのはインフルエンザ以来だと思う。

 少なくとも、何もありゃしないのに学校を休むのは初めてだった。

 学校の教室は四十人でまとめられていて、夏になると、人の体で部屋が熱気に包まれ、クーラーをガンガンにかけていたのに対し、冬はその熱気さえ出てこないでヒーターをたいていたものだ。しかもそのヒーターの目の前に立つ同級生を見てとても羨ましかった。


 「今はそんな季節じゃないからどちらも点けないけどね」


 と一人ごちる。


 それにしても学校の警報が鳴らないというのはとても可笑しい物ではないかと思った。普通は警報が鳴り響いて近所の方々大迷惑になるはずだったのに。そんな事が無いとはこの学校も落ちぶれた物だ。

 少なくとも私は何も盗まないからいいけども、泥棒が入っても知らないからネ。


 自分の教室に入った。自分の机がどうなっているか気になったのだ。

 もしかすると何か書かれているかもしれないし、または何も無いかもしれない。


 私の机は真ん中の列、四番目だ。


 「……何も変わって無いよね」


 何も変わってなかった。変わったと言えば、置き勉してあった教科書の位置が少しだけ違うこと。

 誰かが使ったんだろうな。と思って私は教科書を手に取る。


 勿論何処にも落書きなどは無かった。


 「……期待外れかあ」


 ぼやきつつ私は自分の椅子に座る。すると瞼が重くなり、すとんと眠りに落ちてしまいそうになった。

 こんな所で寝てたら多分、ばれるだろうな。

 しかし、そんな抵抗空しく私は沈黙の世界へと落ちてしまった。





 「……っは!」


 目が覚めると、口から涎が垂れていた。汚い……。

 袖で涎をぬぐい、私は走って逃げた。椅子とかは倒れてしまったけどそんな事を気にする時間など無かった。


 時刻は七時。野球部の早朝練習が始まる時間だった。


 朝の日差しがまだ微妙に暗く、鳥の声が優しい中私は鞄を肩に背負って走っていた。

 まだ廊下で、靴下だから滑って走りにくい、その上時間は刻一刻と迫っている。


 昇降口で靴を履き、外に出た。


 まだ人はいなくて、まるで別世界に迷い込んだアリスのようだ。


 言いすぎた。透明人間のようだった。


 誰もいない。誰も私を見る人はいない。


 そんな開放感に私は打ちひしがれる。


 「ははは……!」


 心の底から笑えるような快感は愉快としか例えようがない。

 私はそのまま駆け、門を飛び越える。


 もうおさらばだ。こんないやな学校(監獄)


 私は後ろを振り返らず、学校を後にした。

ぎゃーす。


 どえりゃー、時間くってしもうた。


 後は頼んだで! 凛ちゃん!

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