46.エピローグ-狂愛-
罪を犯した者達の処分は速やかに行われ、社交界を騒然とさせた。
と、同時に僕とエレナの婚姻が発表されたことで、処分のことは直ぐに忘れられた。
それに、ラスティ・モリアーティス公爵令息とルーシェ・グレディミア侯爵令嬢の婚約と一年後に婚姻の手続きが行われることも発表された。
僕とラスティの早い婚姻に驚かれたが、すぐに側妃の話が持ち上がったが『王族の側室制度廃止』も発表され、貴族達は落胆した。
だが、平民達に公表されると王家への指示が上がった。一人の女性を愛すると宣言したと同じだから、好意的に捉えられたようだ。
学園へはエレナと一緒に登校し、帰りも同じ馬車に乗り、執務が終わってから夫婦の時間を過ごす。
学園では『おめでとうございます』と声をかけられ気恥ずかしさがあった。
エレナも声をかけられたり睨まれたりと大変だったようだ。
『身体で籠絡して婚姻まで持ち込んだのだろう』と言われた時にはジェラール辺境伯令嬢がブチ切れたらしい。
『殿下が婚約ではなく婚姻じゃないと嫌だと我儘を言ったんだ!』と、ある意味そうなんだけど少し違うことを言い、周りを黙らせていたようだけど、それ、強引すぎだろ。
グレディミア侯爵令嬢もラスティとの婚約でお祝いの言葉をかけられていたから、エレナにとっては一人ではないから恥ずかしさ半減した、らしい。
学園は暫くの間、僕とエレナの婚姻で話題は持ちきりだ。
主に僕からの寵愛に興味のある令嬢達がお茶会にエレナを誘って恋バナとやらを楽しんでいるみたいだ。
エレナとの時間を作るために勉強も執務も手を抜かず、嫌いだった面倒な社交も苦にならない。
陛下からは子供扱いされる事はなくなった。
『妻がいるのだから養うために必要な事だ』という理由で任される仕事も多くなり難易度も上がった。
二割は宰相からの嫌がらせみたいな仕事もあるが、試されていると思うと楽しくなる。
レイとふざけながら仕事をしたり、真剣に話し合ったりと、いい兄弟になれている、と思う。
僕の生活の変化は他にもある。
朝食は白米に味噌汁と、ウェスタリア家で食べられている食事内容になった。
宰相にお願いして若い料理人に王宮の料理人として来てもらった。
エレナも実家と同じ食事が取れる事で嬉しそうだ。
それに、月に二、三日、エレナと一緒にウェスタリア邸へ泊まっている。
翌日が休みの日は宰相とレイと遅くまで酒を飲み交わし、翌朝は三人でエレナに怒られるのが定番だ。
エレナとは変装をして平民街でデートしたり、貴族街で堂々とイチャイチャしながらデートを楽しんでいる。
僕とエレナが婚姻した事で、婚約者のいなかった令息や令嬢が次々に婚約を発表した。
ラスティが婚姻すれば、関係を婚約から婚姻に変える者達も増えるだろう。
執務が終わってから寝る前の時間は僕の至福の時だ。もちろん、エレナも寝る前の時間を楽しみにしてくれている。
「お仕事が大変なら、直ぐに寝てもいいのに」
「このために働いているのに寝るなんてもったいない!」
夜のお茶の時間は部屋に二人きり。
結婚した事で侍女を控えさせずに二人きりでいられるのがいい。
それに、エレナの柔らかい膝を枕にして寛ぐのもいい。
「……シオンって、こんな性格だったかしら?」
「元はこうだったのかもねー。嫌?」
僕も驚きだよ。
根がこうだったとしか言いようがない。
人に心を赦すことが、こんなにも気が休まるなんて思ってもいなかった。
「嫌ではないけど……他の人には見せないで。私だけにして欲しい、な」
「もちろん、素でいられるのはエレナの前だけだ」
「ふふ、そうしてくださいね」
エレナ以外の前では王太子のシオン・リズタリアでいるけど、エレナの前では、ただの一人の男だ。
きっと今の僕が本当の僕なんだろう。
偽りのない僕だ。
「そういえば、この前の平民向けの学び舎の話だけど」
「決まったの?」
「うん、決まったよ。エレナにも手伝って欲しい」
「ぜひ!」
エレナと話していた時に興味の湧いた和泉皇国の学び舎システム。
平民向けの学校とまではいかないが、基本を教える学び舎で学ぶことに興味を持ってもらえるよう、孤児達から手をつけていく。
「あと、士官学校の新クラスの創設もすることになった。僕はそっちにかかりきりになりそうなんだ」
入学する頃の、やる気のなかった自分が嘘のようだ。あの頃の僕なら、学び舎を運営することや士官学校に魔法騎士クラスを創設することを考えても実行には移さなかっただろう。
大臣達に必要性を説明するなんて面倒事は避けたはずだ。
でも今は、エレナが喜んでくれるから、笑顔を見せてくれるから、何でもしようと思える。
「魔法騎士クラスですよね。お兄様が入学されると聞いて驚きました。魔術も剣もできる騎士になれるなら宰相補佐なんてしないと意気込んでいましたから」
「騎士と魔術師の架け橋にもなるしね。リズタリア王国は魔術を使える人が少ないから貴重な人材になるし育成にもなるからね」
魔法騎士クラスを創設すると決めた時に、真っ先にレイを口説いた。
興味はあるようで嬉しそうだったのを覚えている。
宰相補佐までしていた優秀な男で魔術も剣の腕もある。卒業後に魔法騎士団長職をつくるからレイが最適だ。人材集めも楽しめた。
現状維持なんてつまらない事はしない。
エレナと、将来産まれてくる自分の子供達が笑顔で暮らせる国を作りたい。
「エレナ、愛してる」
起き上がり、エレナの髪を掬い口付ける。
「ど、うしたの?」
「エレナのいない世界なんて考えられない」
「わ、たしも。シオンを愛しているわ」
「僕はきっと先に寿命を迎える。でも、エレナを一人にするなんてできない」
その言葉の意図するところが分からず、エレナはコテンと首を傾げる。
「僕が死んだ後にエレナが他の男に言い寄られたらと思うと死にきれない」
「その頃は、私はお婆ちゃんですよ?」
「それでも、だよ」
「大袈裟すぎ」
「だからと言って、僕がエレナを看取ると気が狂うかもしれない」
「大袈裟……」
「それくらい愛しているんだ。だから……」
『死ぬときは一緒だよ?』
そう耳元で囁くとエレナの瞳から涙が溢れた。
『先に一人で死んだら赦さない』
そう返されたら、もう、僕の全てはエレナのものだ。
狂う程の愛は重い。
相手の生死すら自分のものにしたくなる。
死んでもなお、その心は自分だけのものでありたいと願う。
知りたかった狂うほどの愛は、僕にとって心地の良いものだった。
必ず来世もエレナとの人生を歩むと誓う。
46話まで、お付き合い頂きありがとうございます。
★評価いただけると嬉しいです!
短い短期連載の予定が想定より長くなり、書いている本人も終わりが遠くて泣きそうになりました。
お月様で掲載している本編の「僕は婚約者を溺愛する」とは違った出会いの話を楽しんでいただけたら嬉しいです。
回収しきれていないことが沢山あるので、気持ちの余裕ができたら番外編とか書きたいです。
本編はお月様の「僕は婚約者を溺愛する」になりますが、なろうで連載している小説や短編も、ぜひ、よろしくお願いします。
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「男装令嬢は王太子から逃げられない〜義家族から逃げて王太子からの溺愛を知りました〜」
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