45.罪と罰と
状況がわからないから念のため転移で氷の壁の中へと移動すると手首から腕にかけて縄で拘束されているエレナの姿があった。
芝生に座り込み俯いている。
慌てて近寄ると顔を上げ僕だとわかると安心したのか、その場に倒れ込んだ。
「エレナッ!!」
抱き上げると震える身体を僕に預ける。
エレナの腕を縛り上げていた縄は陣が仕込まれ魔力を抑えることが出来るようだ。
魔術を発動させないためなのだろう。
幸い、魔道具の魔力制御までは出来なかったようで、魔石の方が発動してエレナの身を守ることができた。
「シオン、ごめんなさい」
「何かされたか?」
「少し身体に触られて……」
「それは忘れよう。道を歩いていれば人とぶつかる事もあるさ」
「でも……」
「口付けられたとか、そういう訳ではないんだろ?」
「胸に手が……」
「今夜、忘れさせてあげるから」
エレナの唇に口付ける。
ちゅっちゅっとリップ音を響かせ何度も深く口付ける。
「皆さんは?」
「エレナが治癒したお陰で大事には至らなかった。ただ、医室へ運んで様子は確認かな」
「よかった……」
そのままエレナは意識を手放した。
魔石が陣を発動させる際に僕の付与した魔力の他にエレナの魔力を使ったことと、腕を縛り上げられた際の縄で魔力制御されていたことで魔力が不安定になり回復するために眠りについたようだ。
エレナが眠りについてから氷の壁を消し去り解除すると、庭園内の至る所に飛び散っていた氷も消えた。
半分以上はアレンが消していたけどね。
「エレナ様は?」
「無事だよ。魔力が不安定になって眠りについた感じかな。このまま王宮へ転移して休ませる。後のことは頼んだ。皆、王宮にある牢へ入れるのだろう」
「はい、専用の馬車で連行します」
「夜には関係者の親が王宮に集まるだろうから、その前に陛下達と話し合いが必要になる。牢の見張りは他に任せた後に合流しよう」
残りの指示を出して王宮の私室へと転移した。
ゆっくりと寝台へ降ろす。
スースーと寝息が聞こえることに安堵する。
マクリオ男爵令嬢に叩かれたのか、頬が赤くなっている。
ミアを呼びつけエレナの頬が腫れないよう手当を頼む。
「目が覚めて混乱しているようなら、呼んで欲しい」
混乱、とまではいかないだろうけど、寂しい思いはさせたくない。
「陛下のところへ向かわれたと知ればエレナ様は無理を言いません。恐らく、お帰りをお待ちになることを選びます」
「それなら、目が覚めたら連絡して欲しい。言付けを頼むくらいならできるだろ?」
「外の扉に待機している護衛か侍従に言付けを頼んでおきます」
「それでいい」
寝ているエレナの着替えを侍女一人にやらせるわけにもいかないから、僕も手伝って着替えさせた。
めちゃくちゃ嫌がられたけど夫婦だからな。
ミアは、もう少し信用してくれてもいいと思う。
そろそろアレン達も到着した頃だろう。
陛下への報告をするために部屋を後にした。
ミアが側にいるなら安心だろう。
陛下や宰相、公爵や大臣達へ報告をするために会議室へと通された。
証言者としてラスティとグレイにジャックが呼ばれたが、ジャックを王宮へ連れてくるのは大変だったらしい。
『陛下の御前とか勘弁してくれ!』と騒ぎ立てていたが、ラスティとグレイで引きずってきたというから困ったもんだ。
陛下の声がかかり、当時の状況を説明する。
もちろん、僕たちが中央棟の教室内にいた理由も聞かれた。
陛下には本当の理由を説明済みだが、大臣達の前で説明するつもりはない。
学生として、ただ、自習室で勉強していたと話した。
ジャックはクラスが違うが、将来の側近候補として高位貴族クラスの授業内容を学習させていたと伝えた。
今後は本当にジャックへの学習支援が必要になる。本人、凄く嫌そうだけど。
ある程度の説明と状況報告、騎士とアレンからの報告で事件のことは把握しているようだ。
「エレナは無事であったか?」
一通りの報告を受けた後に陛下が確認したのはエレナが無事であるかだ。
誰にも会わせず部屋へと運んだからアレンからの報告でしかエレナの状況を知らない。
「無事です。魔石が発動した際に魔力を使ったことと魔力封じをされたことで不安定になり眠りについています。手首に痣が残っているのと頬を叩かれたのか赤くなっていますが問題ありません」
手首の痣は、そのままだと直ぐには消えないだろうけど、エレナの治癒魔法なら消せるかもしれない。
「シオンが提出した証拠については既に裏取が完了している。彼らが裏でしていた事は罪に問うことが決まっている」
フェルディナント伯爵は麻薬を栽培し裏で販売していた。南にある領地は、さぞ、麻薬の生育に適していたのだろう。
フェルディナント伯爵令息は度々、言動が問題視されていた。恐らく、麻薬を使用していたと考えられる。
平民街でも媚薬と一緒に売られることがあり、その取り締まりを始めた矢先の事件だ。取り締まりは強化されるだろう。
モノクロ男爵は麻薬の密売に関わっていると確認できている。平民街での販売はモノクロ男爵が確立したようで、フェルディナント伯爵と深く関わっている。
娘の所持していた毒は麻薬と共に作られたものだ。一時的に身体を麻痺させることができる。媚薬と使えば相手の自由を奪うことができる。その薬を使い、男達に慰み者にさせようとしていた。
フェルディナント伯爵令息がエレナを誘拐しようとしていたことは知らなかったらしく、ガーデンパーティー中に瑕疵がつく程度のことをすると考えていたらしい。
「さて、此度の件、どう処分する?」
今回の学園で起きた事件は王太子で生徒会長である僕に処分内容を決めさせたいようだ。
当主たちの処分含めて、宰相達と話し合い済みだろうに、僕に聞くという事は試しているのだろう。
僕は自分の考えを述べた。
その夜、関係者が集められ処分が言い渡された。
王太子殺害未遂、王太子妃誘拐未遂と暴行、麻薬の使用などの罪でクルト・フェルディナント伯爵令息は処刑、リリア・モノクロ男爵令嬢は高位貴族の令嬢への薬物混入による殺害未遂、王太子妃への暴行の罪で処刑、メッゼリッヒ公爵令嬢は王太子妃暴行幇助、殺害幇助の罪で幽閉することが決まった。
メッゼリッヒ公爵令嬢は数年の幽閉の後、規律の厳しい修道院へと送られるだろう。
同じように罪を犯していた親達も処罰される。
モノクロ男爵は爵位返上、フェルディナント伯爵も爵位と領地返上、当主は鉱山での労働が強いられる。
メッゼリッヒ公爵は娘の行いを止めることができなかった責任として侯爵位に下がり爵位を息子へ譲ることになった。
それから数日後、フェルディナント伯爵令息とモノクロ男爵令嬢は処刑された。
フェルディナント伯爵令息は薬のせいか幻覚を見ているようで、自分の世界にいるのか現状を理解していないようだった。
モノクロ男爵令嬢は自分が王妃に相応しいと妄言を吐き続け、自分が寵愛されていると信じているようだった。
彼女もまた、フェルディナント伯爵家から購入した薬を摂取していた被害者なのだろう。
その薬のせいか、本当は自分が寵愛されていると信じて疑わない。
恐らく、摂取した麻薬に魔術が施され幻想を事実と誤認する作用があったと考えられる。
モノクロ男爵令嬢を修道院へ送ることも話し合われたが、修道院側が受け入れ困難としたこと、逃げ出してしまった場合に王太子妃を害する可能性が高いことから、当初の予定通り処刑が妥当とされた。




