16.平民街デート③
本編のブクマ登録が1100超えていました!
ありがとうございます!
こちらの小説もブクマ50超えていて嬉しいです!
執筆していますが完結が見えない……。
ジャックとルイーザ嬢とは別れて店を後にした。さっきの質問でエレナとの間がぎこちなく感じるのは間違いなく自分の所為だ。
物理的距離だけでも近くにしたくて店を出てから手を繋いだ。店に入る前も繋いでいたから変ではないはず。
「次はどちらへ?」
モリアーティス邸へ戻るまで時間がない。あと数時間で夕刻、か。
「エレナは行きたいところはある?」
「そうねぇ……あ、あそこ!煉瓦造りのお店」
「あそこ、ね。いいよ。雑貨のお店だったはず」
そこ、ショーンの店の一つだ。本人がいるとは限らないけど、いたら嫌だな、揶揄われそうだ。
店に入ると店員としてショーンがカウンターにいる。僕を見て驚き、エレナを見てニヤリとしている。
「いらっしゃい」
「こんにちわ、品物を見せてくださいね」
「えぇ、どうぞ」
挨拶を受けたエレナは自然に言葉を返し、嬉しそうに店の品物を眺めている。
一人で見たいとお願いされたから僕はカウンターへ移動してエレナの姿を見ることにした。
背をカウンターに預けていると後ろからショーンに声を掛けられる。
愉快そうな口調で。
「綺麗な人を連れて、今夜の相手?」
「んなわけないだろ。宰相の娘だよ」
「あぁ、学園では大変みたいだな、王太子の寵愛を受けているご令嬢か。結婚すんのか?」
「したいね。今、口説いているところ」
「では、当店で思い出の品を購入しては?お揃いの指輪などいかがですか?和泉皇国ではペアリングが一般的ですし、婚約指輪や結婚指輪もペアで揃えるらしいですよ」
「ペアリング?」
和泉皇国の風習か。
婚約や結婚の時に指環を贈るなんて、リズタリアではしないから珍しくていいかも。
「婚約指輪や結婚指輪は互いに左手薬指に、ペアリングは予約の意味を込めて右手薬指に、表立って知られて困るならチェーンに通して首飾りに。婚約指輪と結婚指輪は一級品を買うんだろうから、思い出になって、かつ、相手を困らせない価格なら当店で購入すると良いですよ」
「商売かよ。でも、その婚約指輪と結婚指輪の話はいいね。採用するよ。ペアリングをもらおうかな」
既製品なら直ぐに持ち帰って、身に付けることもできる。互いの瞳の色が埋め込まれた指輪にしようと選んでいると、黒猫のぬいぐるみを持ったエレナがカウンターに近づいてきた。
「シオン様、この猫ちゃんはどちらが可愛いかしら?」
二つの黒猫は全く同じ物なのに、どちらが可愛いかって……わかんねぇ。
「この子は目がキラキラしていて、この子は少し鼻が潰れているけど顔が整っているの」
う、ん。説明を受けたけど解らないです。真剣に選んでいるようだけど。
「え、と。その顔が整えっている方が可愛らしいね」
「そう思います??それなら、これ二ついただきます!」
ぎゅぅっと、ぬいぐるみを抱きしめていて可愛いなぁ。でもね、代金を支払うということを知らないんだね。
貴族令嬢が代金を支払うなんてしないから仕方がない。ぬいぐるみなんて、可愛いもんだ。
「エレナ、左手の薬指を貸して」
「左手?どうぞ」
差し出された左手の薬指に指環をはめてサイズを確認する。五号がちょうどいいな。
「このデザインでサイズはそれぞれコレで」
「畏まりました」
数分で希望したものを持ってきてくれてた。もちろん、チェーンを通して。
ケースに入ったものを受け取り、ぬいぐるみの分と一緒に代金を支払う。
エレナは楽しそうに店内を見て回って、オルゴールで遊んでいる。
「それじゃぁ行こうか」
「当店のご利用、ありがとうございます。また、お待ちしております」
店を出たあとは近くの公園へ。
数年前に整備した公園で初めて利用する。
芝生の上にハンカチを置きエレナを座らせて僕は隣に座る。
雲ひとつない青い空、暖かい日差しと心地よい風、隣には好きな子、最高。
「その黒猫のぬいぐるみは気に入った?」
「はいっ!とても可愛いです」
黒猫は首に紫色のリボンをつけている。自分の色をつけていると嬉しくなる。
「これ、今日の記念に」
アメジストのついたペアリングを渡し、左手の薬指にはめ、そのまま指にキスを落とす。
「これは?」
「ペアリングだ。左手薬指は予約しておくね」
「ご存知なんですか?」
「ここに婚約指輪を嵌めて欲しい。その予約。普段はチェーンを通して首飾りにしておいて欲しい」
嬉しさに揺れるような微笑みで指環を眺めている。その笑みで、僕まで嬉しくなる。
「僕の分もつけてくれる?」
指輪を手渡して左手を差し出す。眉を下げて困った顔をしていたが、震えながら指 指輪を嵌めてくれた。
胸の高鳴りを抑えることができなくて、それでも抗って見せたけど我慢なんて出来なくて、気づいた時には僕の腕の中にエレナがいた。
「シオン、さま?」
ぎゅうっと強く、強く抱きしめる。
頭を撫で、髪の毛に指を絡ませる。
「くる、しいです」
柔らかい頬を触る。
顎に手をかけ唇を親指で触るとエレナの身体がビクリと反応した。
「好きだ」
ちゃんと、真剣に伝えたことがなかったから。僕の想いを、伝えたい。
「好きなんだ、入学式の日に壇上で挨拶していた時にエレナを見つけた時から僕の心の中に住み着いている。エレナの魔力を、心を、その身体の全てを僕のものにしたい」
女性を自分のものにしたい、自分だけのものにしたい、ここまで自分の気持ちを伝えるのは初めてだ。
「わ、たしは……」
「急がなくていい。今は僕の気持ちを伝えたいだけだから」
「ど、うしてですか?私は何もしていません」
「何が、って、わからないんだ。エレナの全てを愛おしいと感じている。好きだ、とか、理屈じゃないんだ。僕の感覚の全てがエレナを欲している」
好きだ、という感情が沸き起こった理由なんて僕にもわかっていない。心が、絡めとられて奪われた。
その感情から逃げ出すなんて無理で、エレナと出会わなかった頃の自分になんて戻りたくもない。
「よく、考えて。手に入らないから欲しているだけだわ。手に入れたら、きっと……興味がなくなるもの」
冷静に、エレナは僕に冷静になれと告げる言葉が震えている。
冷静になったところで欲していることに変わりなくて、手に入れたら興味がなくなるなんて思えない。
「シオン様は私のことを知りません。私も、シオン様のことを知らない。知ってから、間違いだったなんて聞きたくないんです」
そうか、僕が婚約者候補達を解散させたから、自分が婚約することで興味がなくなれば解消される可能性があるから恐れているのか。
「もう少しお互いを知ってからの方がいいと思うの」
ーーーーそれは拒絶なのか恐れなのか
「エレナのことを知ればもっと欲しくなる。現に今はこの唇が欲しい。あの時知ってしまったから忘れられない」
ちゅうっと吸い付くように唇を奪う。
優しく何度も口付けると、強張っていたエレナの身体から力が抜けた。
「エレナ?」
「だ、めです。わたし、婚約者でもない、から」
「ごめん、焦りすぎた。エレナから了承を得るまで陛下や宰相には婚約の話はしないでおく。だから、そう遅くないうちに気持ちを教えて欲しい」
今度は優しく抱きしめる。
「シオン様は先程、浮気されると」
「うん、エレナ以外と婚姻したらエレナと浮気する。いや、エレナを召し上げて側妃にして孕むまで犯す。エレナが嫌がっても逃げられないようにする。それは僕としては本意ではない。身体は手に入るけど永遠に心が手に入らないからね。エレナの心も全て僕のものにしたいんだ」
そう伝えるとエレナは耳を赤くした。抱きしめているせいで顔を見られないのか残念だ。
「そろそろ時間だ、帰ろうか」
エレナを横抱きにして公園の人気のない場所へと移動し、モリアーティス邸へ転移する。
邸から帰る際は、次の放課後を楽しみにしていると伝えると『私もです』と返してくれた。お揃いです、と、黒い猫のぬいぐるみを渡された時には驚いて固まってしまったけど、その気持ちが嬉しかった。
焦って気持ちを伝えすぎた。
逃げられないか心配だ。
次の土曜には新作連載をアップしたい。
それに合わせて、再来週には短編を仕上げたい。




