15.平民街デート②
サンドウィッチとスープにサラダ、どれも味はしっかりしていて美味しい。
エレナも食べ方は気にせず大きく口を開けて頬張っている。とても美味しそうに。貴族令嬢って、サンドウィッチも薄いのを小さく開けた口で食べる。
「あっ、シオン様は毒味しなくて大丈夫でした?」
「毒味の魔術で確認したから大丈夫だ。いちいち食べてもらうのも面倒だから魔術で確認するようにしているんだ」
「そうだったのね。良かったぁ〜」
嬉しそうに頬張って食べている姿は小動物みたいだ。
頬についたソースを指で取って舐めると、エレナが固まっている、で、顔を赤くして俯いて……食べたかったのか?
次からは食べていいか確認しよう。
「シオン様は婚約者候補の方とのお茶会でも今のようなことをしたの?」
今のようなこと?
ソースを指で取ったことか?
「いや、していないよ」
「無意識でも?」
「していない。意識して笑顔を作っていたくらいだ。無意識になることがない」
ふぅん、って何を疑われているんだ。
カランカランカランーーーー
店の扉を開けて入ってきたのは学園で見かけたことのある男だ。エブラルド子爵家の嫡男だってはず。隣のご令嬢は誰だろう。
二人は僕たちの近くの席に腰をかけた。
会話が聞こえていますよ?
「学園へ入学してから、だいぶ経つけど王太子ってどうだった?」
んぐっ……飲み物吹き出しそうになった。
エレナは驚いて目をパチクリしている。
口元で人差し指を立てて『シー』と伝えたら、首を縦に振って了承してくれた。
平民街で聞く王太子ってどんなんだろ。
「あ〜、王太子殿下ねぇ」
「噂通りご令嬢を侍らせてた?麗しい王太子殿下が、実は、女遊びしているとか?」
噂通りって……平民街で何が噂になってんだよ。女遊びはしてません!!
「あれは……怒らせたらダメな人だわ。それも最上級で。敵対したら人生終わる、マジで」
「何があったの?」
「王太子とのありもしない噂を吹聴した令嬢含めて数人が姿を消した。家を取り潰されたところもあるんじゃないか」
「こっわ!!何でそうなるのよ!」
「婚約者候補が全員、相応しからずと判断されてさ。で、王太子殿下は寵愛している令嬢がいるんだよ。元婚約者候補の令嬢達はお怒りで嫌がらせが酷い」
「それって流行りの小説みたいね!ヒロインに恋する王子様!素敵だわ」
「寵愛されてるの宰相の娘だから小説みたいな下位貴族ではない」
「違うの?」
「高位も高位の侯爵令嬢だ」
「じゃぁ、その子が未来の王妃様ね!どんな子?今度、連れてきてよ!」
「無理に決まってんだろ。王太子は高位貴族のクラスで下位貴族の俺は話すことも出来ないよ。それに、ご令嬢は婚約者じゃない。寵愛してんだろうけど立場がハッキリしないから俺達もどーすりゃいいか解んねぇし。宰相の娘に籠絡された理由も解んねぇ。胸かな?チラッと見かけた時に、胸のサイズ感が男的には唆る」
何言ってくれてんだよ!エレナが俯いただろっ!!
そりゃぁ、寵愛されている令嬢と婚約者相手じゃ接し方は変わるよな。遊び相手かもハッキリしていないと尚更だ。
それよりお前はエレナのどこを見てるんだよ。
「王太子は胸が好きなのね。男ってそんなもんよね。小説に出ている王子様って素敵だと思っていたけど、よく考えたら婚約者がいるのに他の女に手を出した浮気者よね。王太子も浮気者で碌でもないのよ!そんな男が国王になっても平民のことは考えずに私腹を肥やすんだわ!」
「おまっ!それ不敬だから!!あんまデカい声出すなって!」
バンッ!!!
おわっ……と、え?エレナ?
「シオン様は胸のことなんて何も仰っいませんし、胸を使って籠絡なんてしてません!」
あ、怒るところはそこなんだ。
そりゃ、いいサイズ感だとは思うけど言う訳ないだろっ!!
「「えっ!?」」
驚いた二人がエレナを見て、僕にも視線を移す。
「それに、シオン様は民のことを考えた上で政策の立案だってされてますわ!失礼なことを言わないでください!」
「あ……うん、ごめん」
「シオン様はうわ……ふぐっーーんーー!」
声が大きくて店員がチラチラとこちらを気にしているようだったから慌ててエレナの口元を手で覆う。エブラルド子爵令息はエレナのことをガン見して考え込んでる。
「エレナ、黙れるかな?約束できるなら手を離す」
コクコクと首を縦に振り肯定を示したのを確認して手を離す。微笑んでみせると『ひぃっ』と怖がられた。
「ん?お前らの名前ってシオンにエレナなのか?あれ……え?いや、でも……」
僕は溜息をつき正体を明かすことにした。疑念を持たれたままだと気づかれた時に話に聞き耳を立てていたと思われるのも嫌だし。
瞳の色を紫に戻し、エレナの髪と瞳も元に戻した。
「えっ……でっ……殿下?!」
「声が大きい、頭を上げて楽にしてくれ」
名を名乗らせ彼がジャック・エブラルド子爵令息で、一緒にいるのは平民で恋人のルイーザ嬢だと紹介を受けた。
何度も頭を下げられると目立つし印象に残るからやめてくれと伝えるとジャックはルイーザ嬢が謝るのを何とか止め、僕とエレナは魔術で瞳と髪色を変えた。
「先程までの発言を咎めるつもりはないから安心してくれ。貴重な噂話を聞けた程度にしか思っていないから」
「は、い。ありがとうございます」
「はぁ……誤解もあるだろうし、ここで会ったのも何かの縁だろうから質問があれば答えるけど」
このまま立ち去ると変に噂をされそうだし平民内でのエレナの印象が悪なるのは困る。
「はいはーい!」
「ルイーザ嬢、どうぞ」
ノリ軽いな。
エレナはニコニコと嬉しそうだからいいか。
「エレナ様は恋人ですか?どうして婚約してないの?寵愛してるの?それとも愛人候補?」
おい、少しは遠慮しろって、エレナも僕を見ているし、ジャックは顔を青ざめている。
「恋人ではない、今、口説いているところだ。婚約を申し込んでいないから婚約していない。寵愛しているし愛人候補ではない」
「うわぁ、返答が端的でわかりやすいわ」
そりゃ、どうも。
エレナは……口説いている辺りで顔真っ赤。
「はい。俺もいいですか?」
「ジャックもどうぞ」
「婚約予定はありますか?」
「いずれは申し込む予定、その前に宰相を攻略しないと門前払い。政や貴族間の権力バランスが関わるから今のは他言しないように。妨害工作でも私に対してならいいがエレナへの実力行使をされたら会えなくなる」
儚くするとか、ね。と付け加えると、食堂でシャンデリアが落とされた事件を思い出してくれたようだ。
「はいはーい!もう一つ、エレナ様にいいかしら?」
「あ、はい」
「シオン殿下のことが好きなの?あと、長期休暇明けにノブル学園へ編入するから仲良くして欲しいです!」
うんぁ……好きかどうかは僕も知りたかった。出来るなら、二人きりの時に。
「シオン殿下のこと?えっと……わかりません、ということで。編入されるのですね、大歓迎です!ぜひ、仲良くしてくださいね」
あぅ、好きではないが嫌いでもないし、でも気持ちを伝え難いといったところか。本腰入れて口説くか。
「はーい!もうひと「ルイーザ、お前、調子に乗りすぎだって!」
「ルイーザ嬢、どうぞ」
「浮気者ですか?」
「浮気はしていないし、エレナと婚約したら浮気はしない」
「エレナ様と婚約できなかったら?」
「する」
水を飲んでいたジャックが勢い良く吹き出した。そんな驚くことかよ。
エレナと結婚できないならエレナと浮気するに決まってんだろ。
「あ、ちょっと仰っている意味がわからないです」
「シオン様、私も意味がわかりません」
「好きでもない子と国のために婚約するならエレナを側妃してから孕ませて国母にする。正妃は放置して離宮に幽閉でもするよ」
「ひでぇ、悪魔かよ」
「愛ね!ア!イ!」
「私、こわい。変な男に目をつけられた気分」
三者三様ってエレナに怖がられてるよ!
変な男とか言われてどうしてくれるんだよ!
週末の逢瀬に来てくれなくなったらお前らのせいだからな!!
「気分を害したから質問終わり!」
これ以上、エレナに嫌悪されてたまるか。




