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マリー・パスファインダー船長の七変化  作者: 堂道形人
泰西洋の白波

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不精ひげ「(正直、マリーになって良かったんじゃ?)」アレク「(借金なくなるし資金繰りの心配はないし)」ロイ「(フォルコンが見つかったらどうする?)」ウラド「よせ、お前達……」

小さな漁村、ファラアラで歓待を受けるフォルコン号の一行。

そこで聞いた謎の船乗り、アルバトロスの噂。

アルバトロスといえば……アホウドリ……

 私は船長もやっているがお針子もやっている。

 ロヤーちゃんはお母さんの花嫁衣裳を持っていて、少し気が早いけどと言って見せてくれたので、私が少し手直しをさせていただいた。

 美しい衣装を着た彼女に、それで、どっちにしようか? 的な事を聞いてみたら……やはり、苦笑いしていた。本当に困ってるんだろうなあ。




 翌朝。再集合した水夫達の前で、私は昨日聞いた、アイビス人っぽい船乗りで、誰かに追われている為身を隠しているアルバトロスさんの話をする。


「それは……確かに気になる噂じゃな」

「この村に現れたのは半年くらい前だって。タルカシュコーンで居なくなってから三、四ヶ月後ですよね」


 ロイ爺がうなずく。アレクは空を見上げ、指折り数える。


「どこから来たとか、どこに行くとかは聞いていないの?」

「その人、誰かがそういう事を聞くと笑って誤魔化すんだそうです……」

「ああ、それはフォルコンだな」


 なんでも適当に肯定する不精ひげはさておき、私もそのアルバトロスさんが父フォルコンである可能性は低くないような気がする。名前からして何だかなあ。


 アルバトロス『船長』は帆のついたボートを一人で操って現れ、暫くは村に数日おきに立ち寄り、魚や交易品を持ち込んで物々交換をして暮らしていたそうだ。

 しかし夏頃、村の為に麻の布を集めて来る航海を請け負い、それをやり遂げた後はあまり姿を見かけなくなり、九月以降は誰も見ていないという。


「他の村人にも聞いてみましたけど、ここ一ヶ月くらい誰も見てないのは本当みたいですね。5mくらいの長さの、三角帆を張ったボートに一人で乗っていたそうです」



 ファラアラの人々に何度もお礼を言って、私達はボートで陸を離れた。フォルコン号は再び海を行く。


 沿岸の景色が少しずつ変わって来た。低木や草に覆われた丘にだんだん荒地が混じり、地肌の見えた場所が多くなって行く。


 時々は集落もあり漁船や筏も見掛けられるがそれもだんだん少なくなって来た。砂漠が近づいている。

 漁船に、時には集落にボートを寄せ、贈り物などをしながらアルバトロス船長の事を聞いてみたが、教えてくれる人は居なかった。ただ、知っていて隠しているなと思われる人も何人か居た。



「皆さん……ほんとごめんなさい」


 そしてファラアラを離れた翌日の夕方。

 私は元気が無い時のカイヴァーンのように萎れていた。単に旅立ちの普段着を着ていて船酔いが酷いというのもあるが。


「それを言わんでくれ。わしらの方にも負い目があるんじゃ。金が無いからと言ってフォルコンの捜索を打ち切ってしまったのはわしらなんじゃ」

「そうだよ。今こうしてフォルコンさんを探せるようになったのは、たっぷりお金を稼いでこんな船まで借りてくれた船長のおかげなんだし」


 ロイ爺は申し訳なさそうに眉をハの字にする。アレクが相槌を打つ。


「フォルコンが出て来たらいいなとは思うが、船長は今後ともマリーに頼みたいな。フォルコンとは風の吹き方が違うよ」

「我々もフォルコン船長を探し出したい気持ちは同じだ。マリー船長には感謝こそあれ、お詫びをされる筋合いなどない」


 不精ひげはまた適当な事を言うが、ウラドがこういう話をしてくれるのは珍しい。


「だけどもう海岸線は砂と岩だらけになっちゃっいましたし……そろそろ沿岸を離れて、シハーブ諸島の方に行きましょう……そこで真面目に品物を仕入れて、ヤシュムに戻りますかね」


 私は東の陸地を見つめる。丘の上にはまだ少し草地や低木も見えるが、海沿いは砂と岩だらけだ。夜になると海から発生した霧が、低い土地を僅かに潤すようだが……こんな場所ではもうモロコシも穫れないのではないだろうか。



 フォルコン号は進路を変えた。西へ……宵のうちは陸へ吹く海風に妨げられたが、夜中には風が回り、深夜過ぎには5時の風になった。

 不精ひげじゃないけど、確かに天気は大概私の味方だなあ。

 満月に近い上弦の月が、だんだん高度を下げて来る……夜明けまでは居てくれない感じかしら。


「3時方向に明かり……ほぼ併走してる船が居るぞ」


 見張り台のカイヴァーンが言ったのは午前三時、私の自主夜直があと一時間で終わろうかという時だった。


「姉ちゃん? その格好船酔い知らずじゃないんだろ! 危ねえよ!」


 私は旅立ちの普段着でよろよろとネットを登る。


「このぐらい大丈夫……私も海の女っスよ」

「青い顔してやめてくれよ! 見るのか望遠鏡!? ほら!」


 気持ち悪いし手が震えるし真っ暗だし星明りが紛らわしくて何も見えない。


「マスト……何本ですかね」

「カラベルだよ! 多分普通の航路を走ってロングストーンからシハーブ目指して来た船!」

「カラベル……またポンドスケーターだったら嫌だなあ……うえっ……ぐえ」

「姉ちゃん頼むから見張り台の上から吐くなよ!? 皆すごく困るから!」



 その後。私は艦長室に戻り、ぐったりとしたまま眠りにつくが……二時間もせずにアイリに起こされる。


「船長、ポンドスケーター号が。止まれって」


 私は寝不足と船酔いでぐったりと横たわったまま答える。


「ポンドスケーター号、どこですか……」

「5時方向よ、500mくらい離れてるかしら?」

「じゃあ、ロイ爺に言って……振り切っちゃって下さい」


「おじいちゃん! 船長が振り切れって」


 アイリが後ろを向いて言った。私は寝床から転げ落ちるように這い出す。


「待って! 冗談ですってば! 帆をしまって! 停めて!」



 そろそろシハーブ諸島が見えて来ようかという頃に。我々は妙に因縁のある海軍艦に停められてしまった。


「正直、大人しく停まるとは思いませんでしたぞ」


 ボートで来艦したエルゲラ艦長は、いつも通りゴリラを連れていた。この人は海兵隊なのでポンドスケーター号の副長とかではないはずなんだけど……仲良しなんですかね。


「パスファインダー艦長だったな! 協力してくれ、こいつじゃ話にならんのだ!」

「こいつとは何ですか! それに勝手に話を進めないで下さい!」


 別に仲良しじゃないらしい。喧嘩なら自分の船でやってよ。

 私はまだ旅立ちの普段着のままだ。昨日から着たきりだし色々と酷いな私。そういえば顔も洗ってないよ。ちょっとタオルを取りに行こうか……


「どこへ行くのですか! パスファインダー艦長、海軍の用向きですぞ! ロングストーンへ、文書を持ってただちに向かって下さい!」

「それより我々に協力し海賊を追跡してくれ! すぐ近くに居るんだ!」


 エルゲラ艦長とゴリラが交互に言う。


「あの、申し訳ありませんが、ちょっと顔を洗わせていただけませんか……その間に話をまとめておいていただけると助かります」



 私は一度艦長室に戻る。甲板ではエルゲラ艦長とゴリラがもめていて、不精ひげが時々仲裁に入っている。

 着替えもしてしまおう。真面目の商会長……いや、お姫にしようか。

 船酔い知らずの服を着ると、足元も落ち着いて体も軽くなる……しかしこれは吐き気を止める服という訳ではない。まあ船酔いは止まるから徐々には良くなるんですけど。

 私は少し聞き耳を立てる。外ではまだ二人がもめている。まだいいかな。もう少し吐き気が収まってから出ようか。



 五分後。私は艦長室を出た。


「それで! マリーちゃんに何の用ですの!」


 あ、ニスル語で言う必要は無かった。


「い、いや……なんか雰囲気変わってないかお前?」ゴリラ。

「またその目に痛い色の服を……何でもいいから、文書配達を御願いしますぞ!」エルゲラ艦長。


 私は艦長室から取って来た書類を見せる。


「フォルコン号は泰西洋近海で治安活動中ですのよ! これは私掠免許状! これがあれば、文書配達依頼はお断り出来ますの!」

「何ですと!? 何で貴方みたいな小娘がそんな物を持ってるんですか!」

「貴方が私に渡したんですのよ? 御存知なかったの?」


 私は思わずホーッホッホッホと笑いそうになったが、そこまでキャラを作るのはちょっと違う気がしたのでやめた。それに……


「そうですか……ロングストーンにはポンドスケーターが行くしかありませんな」


 エルゲラ艦長はかなりがっかりしている。ウラドを徴兵しようとした人だけど、真面目に仕事をしている人には見えるし。気の毒だったかな。

 ゴリラの方も困ったように眉間に皺を寄せている。


「そういえば俺はまだ名乗った事がなかったな。パスファインダー艦長。アイビス海兵隊少尉、レオン・オランジュだ! 16人の海兵隊員共々、世話になる」


 は?

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この作品は完結作品となっておりますが、シリーズ作品は現在も連載が続いております。
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マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
・不精ひげさんは普段よほど適当なのか、真剣そうな言葉でも全然重みを感じてもらえなさそうです…らしいっちゃらしいですけども。 ・そういえばポンドスケーター号はカラベル船でした。 キャラック(カラック)…
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