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マリー・パスファインダー船長の七変化  作者: 堂道形人
泰西洋の白波

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猫「騒がしくなりそうだな。拙者も念入りに爪を研いでおくとしよう」

総勢17名の海兵隊員が乗り込み、24名と1匹となったフォルコン号。

船の臭いまで変わりそうだ!

 全くもって都合が悪い事に、フォルコン号の同時に8人まで使える第二船員室は空いていた。士官室もちょうど一つ空いている。

 断ろうにも。私自身がたった今言ってしまったのだ。私掠免許状を持つフォルコン号は、泰西洋近海で治安活動中だと。


「御世話になります!」「ああ、いい船ですね!」「食料の樽を船倉に入れていいですか!」「武器庫をお借りします!」


 アイビス海兵隊……兵隊さんと船乗りを混ぜ合わせ、煮詰めて濃くしたような、海の戦士の皆さん……みんなデカい。ゴツい。


「ウラド君! また会えたな!」「ハハハ、俺達がこっちに来ちまった!」

「あ、ああ……宜しく頼む」


 ああ……数時間だけどウラドは彼らの仲間にされた事があるのね……

 ロイ爺とアレクは引きつった笑いを浮かべる。


「ハハ、ハ、悪い夢じゃな……」

「どうなるのこの船。あははは」


「この船の厨房は立派だな」「これは期待出来そうだ」

「ちょっと待って!? 私これからあいつらの分の食事も作るの!?」


 勝手に厨房を覗いて盛り上がる海兵隊員……アイリさんは半ギレである。

 カイヴァーンとぶち君などは、物陰に隠れてしまった。



 エルゲラ艦長は、少し申し訳なさそうに言った。


「海賊の追跡の方を引き受けていただけるとは思いませんでした。かたじけない。我が艦はロングストーンへ文書配達に参ります。どうかご無事で!」


 帆を張り増して、ポンドスケーター号は北東へ転進して行く。




 シハーブ諸島は端から端まで400kmくらいの海域に、概ね七つの大きな島がある海の要衝だ。

 一番近い所では南大陸と100kmくらい離れているのだが、この辺りの南大陸沿岸は延々砂漠が連なる無人の荒野だった。

 しかし海に囲まれたシハーブ諸島ではそこそこの降水がある。それは西の島に行く程顕著だそうだ。

 フォルコン号の行く手に見えて来たのは、諸島の中で一番南大陸に近い島、マリキータ島だが……なるほど、緑はあまり見られない。


「あの……ここってコルジア領ですよね? アイビス人が出しゃばっていいんですかね……ダルフィーンに行ってコルジア海軍に頼んだ方が」


 ダルフィーンはシハーブ諸島の中央の島にある、シハーブ諸島最大の港だ。ここから250kmぐらい離れている。

 シハーブ諸島はコルジアが領有を主張していて、それは概ね認められている。


「もう話は通ってるよ。この海賊は前にアイビス海軍が見つけたけど逃がしちまった奴なんだ……つーか、軍艦が返り討ちに遭ってな」


 なるほど。本物の海賊ですね。

 それ無理なやつ! フォルコン号じゃ絶対無理なやつ!


 オランジュ少尉はもう元々この船に乗っていたかのようにのしのしと船内を歩き、海兵達に仕事やら配置やらスケジュールやら割り当てて行く。


「エルゲラ艦長はどういう意見だったんですか……」

「あいつは杓子定規だからなあ。タルカシュコーンから回って来た急送文書を抱えたまま、海賊退治なんか出来ないって言って。万一の事があったらその文書も届かなくなるって言ってよう」


 ああ……何故私は文書配達を引き受けなかったのか……



 マリキータ島は南北に細長い50km程の大きな島だが、今はほぼ無人島だという。山と崖、岩と石と砂、僅かな草と苔。そんな島に見える。

 海岸には入り江も点在するが港などはない。


「こういう航路でもない、まともな海図も無い所には近づきたくないのう……」


 フォルコン号は帆を減らして航行している。ゴリラの皆さんもプロでいらっしゃるので、測深作業や見張りは完全にお任せ出来るようだ。ていうかうち、普段あんまり測深ってやってないよね……測深が要るような冒険航海してないし。

 暗礁って怖いのね。航海はいつも水夫任せだから知らなかったよ。酷い船長も居たもんだ。

 見張りが四人、測深棒を持つのが二人、操舵手に合図する係が二人……うーん。本当の船ではここまでするのかしら。


「それで、海賊はこの辺りに居るんですか?」

「この海峡のどこかに潜んでいるんだが南大陸側じゃあないと思う。あっちじゃ水も汲めないからな」

「あの、肝心な事なんですけど」


 これを言うのは私の仕事ですよね。海兵さんが海賊を退治するのは立派な事だし、一市民として出来る範囲でのお手伝いはしたいと思いますが……出来ない事は出来ないときちんと言わないと。


「本船は武装してないですし、本物の海賊と洋上戦なんか出来ませんよ」

「それでどうやって治安活動してたんだよ」

「ご近所の小さな悪とだけ戦うんですよ、うちは」

「……相手は400人くらい居ると思う」


 転進!本船はこれよりヤシュムに戻ります!不精ひげ、総帆展帆!


「でもまあ本職の海賊はそのうち50人くらいじゃないかな。残りはうんと南の海岸から狩り集められた人達だ……ほら、見せてやる」


 何ですか。走り書き……?



 この手紙を心ある軍人さんが読んでいる事を信じる。

 タルカシュコーンよりはるか南の海岸から、ゲスピノッサが戻って来る。前触れの部下が闇市で商品の引き取り手を探している。

 商品は350人を超えるそうだ。

 彼らは取り引きの為にマリキータ島と南大陸の間のどこかを訪れる。

 私は彼等の阻止を試みる。貴方もそうしてくれると嬉しい。

 キャプテン・アルバトロス。10月5日

 』



「おいだめだって、大事な証拠品だよ、あげないよ」



 私は走り書きを抱きしめ膝をついていた。たちまち涙が溢れる……


 父の字だ。間違いなく父の字だ。航海日誌や私への手紙でいつも読んでいる父の字だ。

 タルカシュコーンでレイヴン海軍の船を盗み、パンツ一丁でサメだらけの入り江に飛び込み、行方を眩ませていた父。

 その為に仲間の水夫達には大変な苦労をさせた。みんな危うく船も仕事も失う所だった。

 一体何の為にそんな事をしたのか。


 それで死んでしまったのか。生きているというのなら何故現れないのか。

 自分の母親が亡くなった事も知ろうとしない。勿論墓参りにも来ない。

 娘が泣いていても帰ってこない。

 正直、いっそ死んでいてくれと思った事すらある。


 だから今、涙が止まらない。


 ほんの四日前に書かれたと思われる父の手紙。

 キャプテン・アルバトロス。ほんの5mの小舟を一人で操り、泰西洋で暮らしていた父は今、人類の大敵と。奴隷商人と戦おうとしているのだ。


「だめだってば! おーい、フォルコン号の人、頼むよ! あんた達の船長の様子がおかしいよ!」



 荒れ狂う、私の心の海。100mの高波がうねり渦潮が駆け巡る。しかしそんな海でさえこの男を止める事は出来ない! 荒波砕ける船上に立ちはだかり不敵な笑みさえ浮かべる……その男の名は!! キャプテン・アルバトロス!!

 だけどその正体は!! 本当の名前は!!

 世界一のヒーロー!! キャプテン・フォルコン!!

 いや服は着ろ! 服は着ろよ!! パンツ一丁で出て来るな!!



「解ったよもう。実際民間船一隻じゃどうしようもないしな……せめて居場所を見つけるのを手伝ってくれよ、その後はコルジア軍に通報してくれればいいから」


 ゴリラ……いや、オランジュ少尉が何か言っている。

 私は妄想を振り払い立ち上がる。


「ちょっと待って下さい! それじゃあアルバトロス船長はどうするんですか!」


「うん。俺達は船を降りて戦うよ。なんとか奴らを足止め出来ればいいんだけど」


「アルバトロス船長は!!」


「い、いやその人については解らないよ、この手紙でしか見た事ないし。そりゃもし本当に味方に来てくれたら協力し助けたいとは思うけど」


「だいたいコルジア軍なんか呼びに行ってる時間あるんですか! 最短で来たって何十時間もかかるし来るかどうかも解りませんよ! 貴方達ね!! 前から思ってたけどあんた達海軍は物事を喋る順番がおかしいんですよ!!」


「ちょ、ちょっと待ってよ何の話だよ、おーい助けてくれフォルコン号の人」


「最初からこの手紙を見せてくれてりゃエルゲラだって帰しませんでしたよ! 何勝手に帰ってるんですかあの人! 目の前に海賊が居るかもしれないのに! とにかくこうなった以上私らだけでやるしか無いじゃないですか!!」


 とりあえず私とオランジュ少尉の間に入ろうと思ったのだろう。近くまでやって来ていた不精ひげが呟いた。


「よく解らないけど、何となくこうなるような気はしていたぞ」

位置関係の参考:

ヤシュム→カサブランカ

シハーブ諸島→カナリア諸島

タルカシュコーン→ダカール


現実世界のこのくらいの位置とお考えいただけると助かります。

ただし現実世界の風土、距離、位置関係と一致しているわけではありません

m(_ _)m

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