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電車を降り、息を吸う。
鮨詰めなのはいつものことだけど、
今日は酷かった。
誰だよ甘ったるい匂いさせてたの。
会社員であれはアウトだろ。
新人の俺でもわかるぞ。
「本日オープンでーす」
「ども」
悪態つきながら歩いていると、
目の前に紙が差し出され
反射的に受け取る。
本日オープン……カフェ?
“カフェオレがおすすめ!”
何気なく目を落とす。
その下。
小さく書かれた文字。
「本日限定クーポン」
一瞬、止まる。
これ、
使えるくね?
カフェ。
クーポン。
軽い。
理由になる。
デート、できるくね?
「期限:本日」
おお、神よ。
甘ったるさに耐えたご褒美ですか。
カフェの店員さんもありがとう。
通うね、たくさん頼むね。
……いや待て。
まだ誘ってもねえよ。
まずは、
約束を取りつけないと。
部署につくと、既に一ノ瀬が座っている。
最近、来るの早い気がするな。
「おはよ」
「お、おはよ」
うん、いつも通り。
……いつも通り、か?
この距離が当たり前になってきたな。
「一ノ瀬」
「な、なに…?」
そんな驚かなくても良くない??
数ヶ月隣にいるわけよ?
なんならホテル行った仲よ?
……それがだめなんか。
「駅前でクーポンもらった?」
「クーポン?」
「今日しか使えないらしくて」
貰った紙を一ノ瀬に渡す。
視線が、少しだけ紙に落ちる。
「帰り、一緒に行かん?」
「一緒に……?」
一瞬、間。
ほんの少しだけ、目が泳ぐ。
やばい?
重かった?
早かった?
「……あ、いや」
慌てて言いかける。
引くなら今。
まだ間に合う。
でも、
ここで引いたら終わる。
「無理なら全然いいけど」
一応、逃げ道だけ用意する。
一ノ瀬が、少しだけ顔を上げる。
「……行きたい」
小さい。
でも、はっきりした声。
「……いいの?」
思わず聞き返す。
「……うん」
今度は少しだけ、頷く。
……よっしゃ。
ガッツポーズしたい。
いや、してる。
心の中でめちゃくちゃしてる。
「じゃあ、終わったら行く?」
「……うん」
それだけ。
それだけなのに、
なんか、すごい。
デートだ。
いや違うか。
違うけど、
ちょっとそれっぽくね?
落ち着け俺。
パソコンを起動する。
今日はしんでも、
定時で退社。




