49話 メイジ村
北の塔を目指して山道を歩いていた僕ら。
日が傾き始め、山の中での野宿になりそうな事を心配していた所にクルミの一言。
「……大丈夫」
「……この先に村があるから」
リナに代わって地図も探知スキルも使わずスタスタと先導するクルミ。
そんなクルミの後を追うように僕達はついて行った。
暫く歩くと木の隙間から民家らしき物が見えてくる。
迷うことなく進むクルミを追いかけていくと、山の中腹に何件もの家が建つ集落?というか村がある。
村に着いた頃には空は赤く染まって間もなく日が落ちるであろう時間になっていた。
「こんな所に村があるなんて」
「クルミは知っていたんですか?」
周囲を見渡しながらモモがクルミに問いかけた。
「……うん」
「……この辺りは、知ってる道だから」
モモの問いにクールなクルミが必要最小限で答える。
「でもこの感じじゃ宿屋とか無さそうね」
村にはひとけが無く一瞬廃村かと思う様な静けさであり、点在する民家や山小屋の様子を見てリナが呟く。
「……こっち」
クルミが見知った感じで迷うことなく歩き始める。
暫く歩くとクルミは一軒の古民家の前で足を止める。
「古風で趣のある古民家ですね」
その家がボロい事をを上手くオブラートに包んで説明してくれるモモ。
コンコン
クルミはその家の扉をノックする。
暫くすると家の中から声がする。
「こんな時間にどなたかな?」
「……わたし」
クルミがその声に向かって簡潔に返事する。
カチャ
その一言だけで扉の鍵が開き、ゆっくりと扉がひらく。
「ぉお、クルミじゃないか」
「久しぶりじゃのぉ」
出て来たのは老齢な男性。
しかも顔見知りという体で気さくにクルミに話かける。
「カシューじいちゃん」
「おひさ」
なんかいつもと違う感じでフランクに話すクルミ。
「お知り合い?というかご家族ですか?」
その様子を見たモモがクルミにそう問いかける。
「家族……みたいなもの」
クルミがいつもの感じの喋りでボソリと呟く。
「ささ、皆様方も中へどうぞ」
カシューじいちゃんと呼ばれていた老齢の男性はそう言い、僕達は家の中へと入っていった。
家の中は割と広めで家具は少なく綺麗にまとまっている。
見た感じアルプスに住んでいるおじいちゃんの家の中といった雰囲気である。
「とりあえず座って下され」
木で出来たテーブルと椅子の方を見ながらおじいちゃんがそう言い、奥へと歩いて行く。
クルミが普通に座り、僕達もそれに続いて椅子に座る。
「今日はどうしたんじゃ?」
クルミにカシューおじいちゃんと呼ばれていた老齢の男性は人数分の水の入ったコップをトレーに乗せて戻ってきた。
「北の塔に向かってる」
クルミはみんなにコップを配りながら説明する。
「ほぅ」
おじいちゃんは相槌を打ちながら椅子に座る。
「……ぇと、こちらの方は?」
モモが改めてクルミに聞き直す。
「カシューじいちゃん」
クルミはクールなので簡潔に名前だけ紹介する。
「ふぉっふぉっふぉ」
「そうさな」
「ワシから説明するか」
クルミの簡潔な説明が足りてないと察したおじいちゃんが話し始める。
「ワシはカシューという、この村の村長的な役をやらせてもらっておる」
「と言ってもあまり人はおらんで、村と呼べるか怪しいぐらいじゃがな」
「クルミとは……そうさな」
「家族、というか育ての親って所ですかな」
カシューと名乗った老齢の男性は優しい笑顔でクルミを見ながら微笑む。
「……ということは、クルミはこの村出身という事なんですね」
説明を聞きながらモモが確認する様に聞き直す。
「出身……とは少し違うかの」
「クルミは戦災孤児だからの」
カシューおじいさんは優しい顔をしながらも少し哀しげに説明する。
「ここより北にある死の大地と呼ばれる場所は魔族との戦いが絶えず行われており」
「クルミの様な子が時折こちらの国にまで流れて来る事がある」
「そんな幼いクルミをワシが世話していた、といった感じかの」
「その後、クルミは運良く王城に行く事となり、この村を離れたがの」
「それでも時折この近辺に用事がある時などに、村に顔を出してくれてるという訳じゃ」
ザックリではあるがクルミの生い立ちと流れを説明するカシューじいちゃん。
「もしや……こちらは王国の方々かの?」
カシューおじいさんはクルミを見ながらそう呟く。
「……うん」
クルミは僕達を見ながら頷く。
「ぇと、自己紹介がまだでしたね」
モモがそこまで言いかけた所で、
「ここからは私に任せて!」
今まで静かだったリナが急に元気よく話に入って来る。
「私はこの国の王国騎士団、団長のツンデリーナ(リナ)よ」
「そしてこちらが、この国の姫であり治癒と浄化の聖女モモ姫様よ!」
「そんであの冴えない顔してるアイツは勇者的な何かよ」
みんなの紹介をしてくれたのは良いけれど、僕だけ紹介が雑でテキトーなんですけど。
なんてちょっぴり不満気な顔をすると、リナはドヤ顔で返してきた。
なんやねん!ってツッコミたかったが、モモがまぁまぁ〜的な顔をしていたのでやめておいた。
「ぉお、そうでしたか」
「すまんのぉ、こんなボロ屋で何のおもてなしも出来ず」
「そうだ、よければ晩ごはんなどいかがです?」
「とは言え、王城の食事にはとてもかないませんが……」
カシューおじいさんがそう言いながらクルミをチラ見する。
「食べる!」
その問いにクルミは食い気味に答えた。
「いいんですか?」
「こんな時間にお邪魔した上に」
「ご飯までご馳走になっちゃって」
僕はカシューおじいさんに向かってそう言う。
こういう時は一応マナーとしていいんですか?ラリーをしておくのだ。
「いいんですじゃ」
「クルミもお腹をすかせてそうだしの」
そんな会話をしていると……
グゥ〜〜〜
もちろんクルミのお腹の音である。
「私も手伝う」
そう言ってクルミとカシューおじいさんは慣れた手つきで食事の準備をしてくれた。
「「いただきます」」
並べられたのは具だくさんシチューとパン、いわゆる伝統的なアルプスご飯だ。
「カシューじいちゃんのご飯は控えめに言って、最高」
「このパンとスープのマリアージュが口の中でトロけて」
「しっかりした具が満足度を上げて」
「とにかく控えめに言って最高です」
ご飯の事になるとクルミは饒舌になり、美味しさを余すことなく説明してくれる。
僕達は食事をしながら北の塔に向かっている事や、伝承の勇者についての話をした、主にモモが。
「それにしてもこんな所に村があるなんて」
「私も知らなかったです」
食事をしながらモモはカシューおじいさんに問いかける。
「まぁ、ここは隠れ里みたいなものじゃからな」
「人払いの結界も張ってあるし」
手元のシチューを食べながらカシューおじいさんは話す。
「結界?」
モモがその言葉に食い付き聞き返す。
「この村は元々とある隠居した魔導師が住んでおっての」
「人里から離れて暮らすため、人払いの結界が施してあるじゃ」
「その魔導師の影響かメイジ村、と呼ばれておるんじゃが」
「その結界により普段は人や魔物はが入って来れない様になっておるんじゃ」
「まぁ、時折迷い子が紛れ込む事はあるがの」
そう言ってカシューおじいさんはクルミをチラ見する。
「あれ、でも私達は普通にこの村に入れたみたいだけど」
リナが軽くツッコむ。
「クルミは普通に入って来れるからの」
「この子は色々と特別でな、そのおかげか王城に行く事になったからの」
カシューおじいさんは優しげな目でクルミを見る。
モゴモゴ
クルミが何か言いたげだが口にいっぱい頬ばっている為、言えてない。
すると代わりにちびシャドウが出て来て喋る。
「ワイはそんなでもない、師匠が凄いんやで」
「そうさな」
そんなクルミとちびシャドウを見て微笑みながら話すカシューおじいさん。
ちびシャドウを見てもカシューおじいさんは驚く様子も無いので、クルミの能力については承知済みなのだろう。
カシューおじいさん側も僕達がちびシャドウを見てもビックリしていない事を察すると、ボソリと呟く。
「そうか……良き人と出会ったんじゃな」
「おじいさんは……シャドウちゃんを知っているんですね」
モモがおじいさんの様子を見て問いかける。
「そうさな」
「こう見えてもクルミも昔やんちゃだったからのぉ」
優しい顔をしながら遠目で懐かしむような喋りで話すカシューおじいさん。




