90.夏だ!海だ!……何もおかしくはない、いいね?
「はい、というわけでー」
「今日は配信するんですわね?」
「まあ、殆どルヴィアの方へと行っていると思われるので、こちらは奇特な方……」
「……とは言えないほど、視聴者数はありますわね」
翌日。《DCO》で初のゲーム内期間限定イベントが開催されることになりました。
それに合わせての久々の配信ですが、大方ルヴィアの方や他のところに流れるだろう……とは思っていたのですけれど、なんだか視聴者が五桁に迫りそうなくらいいますね……
まあほとんどが同時視聴なのだと思いますけど……そう思いたいです、私は看板ではなく一人のプレイヤーですから。ええ、腕の立つプレイヤーです。
イベントの話に戻りますが、火曜日くらいから告知されており、確認はしてはいましたが……その時の内容は、こちらのとおり。
《Event:陽光煌めく幻界の海》
夏だ! 海だ! バカンスだ!
四方浜にはビーチがある。奪還攻略への感謝と期待を示して、今年の夏はそこを来訪者たちに貸し切ってくれるらしい。
普段は戦いや生産に明け暮れる来訪者たちにも、少しは羽を休めてもらおうということらしい。
スイカ割りもよし、ビーチバレーもよし、バーベキューの用意もあるそうだ。
この世界の海は綺麗だから、(消されていて読めない文字列)海に入ることだってできるだろう。四方浜では水着の販売も行われているのだとか。
……どう見ても怪しい文面ですね。まあ《四方浜》の方であればふわふわクラゲも来ないと思うので、確かに綺麗でしょうし海に入れるとは思います。
レジャー関係の施設もあったのでその辺に関しては間違いはない……とは思うのですけれど、前々から海にはアレが見えてますもんね。
それもあって、どうにも打ち消し線が気になるところ。何か見えているようで見えないこういうことをするのは《九津堂》の十八番とするところですが……
それはさておいて肝心のイベントなのですが、四方浜への転移をすることで参加が出来るようです。
レベル帯に合わせたサーバーに飛ばされるそうですが、まあもちろんの事私達は最高難易度のところでしょうね。
昨日ジュリア達が連れて来た面々は……もしかしたら一段階下に飛ばされているかもですけれど。それはそれで。
では、早速ジュリアと共に転移。
〔イベントエリアに入りました。レベルを検索中……検索完了。イベントサーバー「A」に転送されました〕
……はい、知っていましたとも。でしょうね、とも。
コメントには『そこに送られなきゃおかしい』だとか、『他に送られるとパワーバランス壊れるだろ』等々。間違ってはないのでしょうけど、上には上がいるので。
周囲を見渡せば、どうやらイベントマップは四方浜の砂浜のようですね。それも結構外れの方らしく、後ろの方には見慣れない森があります。
ちょこっとルヴィア達が見えたので、画角に映らないように人混みに紛れてちょっと離れた方へ。いつの間にか反射的に避けるようになってしまいましたね……
「まあ、案の定難易度が高いサーバーですわよねぇ……」
「私達はいつもの動きをすればいいだけですから、ある意味では気楽なんですけどね」
「それもそうですけれど……さて、パーティの募集をしておき……」
「見つけましたー!」
ジュリアが早速パーティを組むため、このフィールドにいるメンバーリストを読もうとした矢先に声が掛けられました。
私にとってはここ三日間毎日聞いてきた声であり、続けて聞こえたその他の面々についても知ったもの。
配信のコメント欄? 配信は《万葉》行き道中の熊撃破タイムアタックの時が最後ですから、みんなが配信に映るのは初めて。羨む声もあれば、ある意味被害者だとか。
むしろ『パーティを組む人がいたんだ』とか、『二人に追いつける逸般人がいたのか』だとか酷い言われ様。さすがにそこまで言われるほどやっては……やってましたね。
しかも一部の名前見覚えありますね、確かイノシシコンビと呼ばれる方でしたか。聞き及んでいる限りルヴィアがシメにいくとは思いますが、今度は私からもシメに行きますか。
「クレハさんとジュリアさんも見つけましたー!」
「トトラも! トトラも見つけたのだ!」
「私達も相当してるもの。仕方ない」
「ふむ。まあでもいつもの面子が集まるならそれに越した事はないじゃろ」
まずはイチョウさん、トトラさん、ルナさん、カエデさんのいつもの仲良し魔術師メンバー。
「あっはっはっは、なんだかんだ合わせられるって言ったら私もそっちの扱いされそうだねえ」
「おいおい。俺だってまだまだ速度に目が追い付いてない時があるんだぜ。だからまあ斥候してるんだけどさ」
「《決闘》をいつか挑むって言ってたけど、追いつけないから無理って溢してたのサスタさんが言ってたって聞いたよ」
「サスタぁ! ったくよぉ……」
近接のフロクスさんとアマジナさん、それに弓使いのタラムさんといった物理火力メンバー。
「悪い悪い、いつやるのかって思っててそう言ってたからなあ。ついついな」
「挑むなら相応のスピードが要ると思いますから、私も腕を磨いてから挑戦したいですかね……」
「俺ァやるならやるが、一番不利だからやめとくぜ」
「でも一度はやってみたいよなあ。負ける前提でもな」
「そりゃあわかる」
そしてタンク組のサスタさん、ウケタさん、カルパさんですね。
何だかんだと全員Aサーバーに配属されたようです。多分配信を見てこちらに寄ってきたのでしょう。
「カルパさんが一番利口ですわね。まあでも、全員とタイマンしてもいいんですのよ?」
「ええ、右に同じく。もっとも、負ける気はしませんが」
「ほら見ろ、それなりに一緒に戦った面子に対しても完勝宣言がぽんと出るから怖えんだよこの二人は」
コメント欄にもこのメンバーを見て『あちこちで名を馳せてる連中集めてるあたり、やっぱり同類は同類が集まるのね?よね?』いう文言が見えますね。
とりあえず本題にも入らないとですから、コメント欄に関してはしばらくスルーしましょう。手持ち無沙汰の幼馴染組まで相手にするとキリないですし……
実際のところ、このメンバー二人ずつくらいなら負ける気しないんですよね。それぞれの苦手なところ、結構見えてますから。
それを補うために彼、彼女らはそれぞれペアで組んでいるのでしょうし、だとしてもですが。ここにいるメンバーでまともにやり合わないとキツいのはジュリアくらいでしょう。
「それはさておいて、全員Aサーバーでしたか。それならパーティも組みやすいですね」
「ほう、早速昨日の経験が活きるな」
「つっても昨日は昼組夜組をとっかえただけに近い編成だったからな……なんか案あるのか?」
「一応は。全員の動きは見せて貰いましたし、今回はバランス良くやりましょう。要望はありますか?」
「イチョウはクレハさんと一緒がいいですー!」
「トトラもクレハと一緒がいいのだー!」
「なら余とルナはジュリアのほうじゃの」
「魔術的にも、ジュリアは合わせやすい」
「キャスター組は確定ですわね。あとは近接組ですけれど……」
昨日実際に組んだり話し合ったりとしていたので、お互いの細かい動きなどの得手不得手は把握できてるようですね。
なのでさくさくっとパーティを組んでしまいましょう。開始まではスムーズに行けそうです。
「ではパーティを発表します。それぞれにパーティ招待を送りますね」
「……なるほどな、だいぶ分かりやすいしやりやすいメンバーに固まったな」
私の方はサスタさんアマジナさん、トトラさんにイチョウさん、タラムさん。
私自身がいざとなれば《居合術》でタンク役を引き受けることも出来るので、サスタさんタンク一人で受け持ってもらう形ですね。
イチョウさんもこれなら負担も少なく、時折弓に切り替えての援護射撃も出来るでしょうから、安定すると踏んだのです。
アマジナさんは私と速度が合わせやすいので、飛び込む時に一緒に動く役割となります。なんだかんだと移動速度、結構早いんですよ。
「こっちもやりやすいな、ガンガン攻めろってことか」
「この編成はそういうことだと思われますわ。ねえ、お姉様?」
「その通りです。ジュリアが近接攻撃を仕掛けるのに飛び回ると思うので、それなら全体的に前寄りの方が動きやすいと思いまして」
ジュリアの方はカルパさんとウケタさん、フロクスさん、ルナさんカエデさんですね。
こちらは遠隔組を要望のあった二人に絞り、前線に出て全員で殴る事をメインに据えたメンバーです。
守るより攻めるジュリアを遊撃としてカルパさんとウケタさんで後方を守り、経験の長いカエデさんをヒーラーに据えた形となりました。
フロクスさんもこれなら心置きなく前に出て殴れるでしょうし、固まっている分カエデさんヒールがしやすいという予想の元ですが。
「裏に狩り場があるらしいが、そっちに行く予定は?」
「いつもなら全力で狩りに行きてえが、今日はちと軽い運動に留めてえな」
「レベルは前線級よりも少し低いそうですから、本当に運動にしかならないらしいですね」
「そいつぁ歯応えねえな……」
と、実はここから少し離れたところに狩り場があるそうです。内容としては、蟹やヒトデ、クラゲなんだとか。
倒せば後方支援に必要な素材が落ちるそうで、特にクラゲはちょっとだけランクの高い薬品を作るのに役立つとのこと。
昨日の運搬のあと、クラフター組合に持って行っておきましたが……情報としては僅差となりましたが、役に立ったようで何より。
何ができるという話は聞いてないのですが、一体何ができるのやら……あ、何故か蟹からは食料品が獲れるそうです。カニ料理、おいしそうですが。
コメントの方に目を向けると……ふむ、これは伝えておきましょうか。
「……カルパさん、配信コメントで発言がバーサーカーって言われてますよ?」
「おう、配信してんのか。まあ否定はしねえぞ? 戦うのが楽しいからよ」
「自覚はあったんですわね……」
次々と集ったメンバーに対しての第一印象やら、各地で見た時と実際の差などなどでコメントもちょっと盛り上がってる様子。
カルパさんについてはまあ最前線で斧を振るっている姿を度々見かけられているので結構名が知れているようですが、発言が狂戦士とネタにされています。
昨日の大猪とタイマンしていた時もその手の気を見せていましたし、そもそも装備変更後はよりそれっぽくなっていますもんね。ジュリアの言葉もそう間違いではないというか……
他のコメントを見る感じでもトトラちゃんもああ見えて結構やらかしてるようですし、イチョウさんは……もう言うまでもないですね。
「ふふ、私とフロクスはクレハさんが配信をしているのを見て、位置を照らし合わせて来ましたから」
「前から配信もちらちらと見せて貰ってはいたからね。ある程度動きも真似るつもりでやってるんだけど、全然だよ」
「お姉様は素の身体能力が高いですものねえ。アドバイスするにしても一度やった方が楽しめ……いえ、真似しやすそうですけれど……」
「では本格的に、イベントが終わってからそれぞれとタイマンしてみますか」
「逆指名だとォ!?」
「私はアドバイスするにしてもそう多く言えたものではないのですけど……」
『もちろん配信するんだよな!?』というコメントが多く寄せられていますが……まあ、そこは考えておきましょうか。
ある程度察していましたが、ウケタさんもフロクスさんも視聴者でしたか。特にフロクスさんは若干ながら武器の振い方が私の剣術をかなり荒っぽくしたもののように見えましたから。
ウケタさんは受け流し方、身の躱し方の方にその片鱗が少し見られたのでもしやとは思っていたのですが。
飛行を多用するようになってからは、全く参考にならない動きをしているんですけどね……
折角ですからお爺ちゃんも同席させましょうか。飛び道具も含めて、私よりももっと的確なアドバイスも出来るでしょうし。
せめてものの蹂躙劇にならないように、とだけ考えておくしかありませんけど……ジュリアも参加したそうな視線を送ってきているのが怖い限り。
「……あー? なんだなんだ? どういう話の流れだ?」
「お姉様が折を見てこのパーティの全員と《決闘》をしようという計画を立てているのですわ」
ジュリアが別の話をしていた全員の視線が集まったのに合わせ、さもそのように宣伝。覚えておきなさいね……
私もまんざら悪い気もしていないんですが、ちょっと意図していた方向とは違ったものになっているのは許されませんけど。
「それは」
「やべえ」
「楽しそうなのだー!」
「はわわわクレハさんと一騎打ち……」
「僕は勝てる気しないんだけど……」
「ふふふ、酷使された仕返しにはいいかものう……」
「同意。どれだけ当てられるか、試してあげる」
「私もやるに決まってますわ! あ、でも流石に南征の前にしたいですわねえ……」
……あの、さり気にジュリア含めて全員乗り気なの何なんですか!?
という、そんなこんなでまた私の新しいイベントが決まってしまったようです。
これに便乗して幼馴染組まで来たら、その日はぐったりすること確定になりそうですね……
「と、とにかく。イベントもそろそろ始まるのでそっちに行きましょう……?」
全員と決闘をすることになったクレハの未来はどっちだ!なお結果。
今回から期間限定イベント編となります。お楽しみに!