91.実際のイベント内容を隠すのは常套手段
あれやこれやとありましたが、《DCO》初のイベントは始まりました。
パーティ内ではしばらくは私の対策について結構語り合われてたようですが、スルーしておきます。
一番知っていると口にするジュリアも情報が古いですね、逐次私も動きを更新しているんですから、別れた時と同じだとは思わない事ですよ。
さておき、真面目に相対するとして一番厄介になりそうなのは……確定してしまっているジュリアを除けば実はイチョウさんとルナさん、カエデさんの三人。
ルナさんとカエデさんは付き合いが長いのもあるのですが、その分各地を転々としている二人ですからね。あちこちの戦闘を経験している分、侮れない物があります。
イチョウさんは単純に配信を見込み過ぎているからか、動作がわかり息が合う……つまりは、合わせるために徹底して私の動きを研究されているんですよね。
まあ、今対策を練っても仕方ありません。実際対峙して打ち合わないと分からない事も多いですからね、遠隔や魔術の人に対しては弓を使いますけど……
「それじゃあ、俺達はまず何やるかね。リーダー?」
「ではまず……素材集めのお手伝いからですね。とはいえ何が必要になるかは不明なので、指示が下りるまでは片っ端からですけど」
「まずは準備運動しておけ、ってことだなア」
イベントの話に戻りまして、開始に当たってイベント説明文の表記内容が変わっていました。
《Event:陽光煌めく幻界の海》
夏だ! 海だ! バカンス……なんてできるわけあるか!
四方浜にはビーチがある。奪還攻略への感謝と期待を示して、今年の夏はそこを来訪者たちに貸し切ってくれる……ようなのだが、何やら事情があるようだ。
昼王都は現在、港を封鎖されている。四方浜湾に巣食う海の怪物に航路を塞がれ、船を出すことができない状態だ。しばらく膠着していた四方浜湾だったが、最近になって奴は港町を襲って被害を与え始めた。
奴を倒さなければ海路を使えないし、港町に被害が出続ける。これまでと同じく汚染されたボスを倒すため、王代理の《悠二》は来訪者に頼ることにしたようだ。
とはいえ、浜辺を貸し切ってくれることには違いない。怪物の脅威さえ取り除いてしまえば、青い海も綺麗な砂浜も君たちのものだ。
スイカ割りもよし、ビーチバレーもよし、バーベキューの用意もあるそうだ。この世界の海は綺麗だから、怪物さえ倒せば海に入ることだってできるだろう。四方浜では水着の販売も行われているのだとか。
激しい奪還の戦いの最中、この機会を逃す手はない。凶悪なボスを協力して倒し、幻想の浜辺でみんなで遊ぼう!
……多分何か隠しているだろうな、なんて思っていたのですが。その文面は半分以上隠れていたようですね。
最序盤の《四方浜》で聞いていた、何なら先日イチョウさんとの会話にも出て来た四方浜湾内に棲む怪物が今回の凶悪ボスだ、とのこと。
遠目から見るだけだと相当な巨躯でしたし、最近は海岸沿いにいると湾内の方でよく目にされていたとか。フラグはバッチリだったんですね。
そして、現在のイベント進捗がこちら。
Phase1:準備
・まずは役割分担を決めよう。全体を統括する指揮系統を確立し、情報を集めながら手分けして準備を行う必要がある。
何事もリーダーが一番の重労働だ、信頼できるプレイヤーを皆で選出するのがいいだろう。
情報が集まってきたら、その情報通りの準備を始めよう。冒険者は素材集めを、生産職はアイテムクラフトを。怪物の来襲は近い、準備は時間との戦いになりそうだ。
進捗:25%
Tips:期間中、イベントエリア内では限定素材が入手できる。
イベントが終了すると限定素材とそれを材料にしたアイテムは消えてしまうが、イベント中に重宝する多くのアイテムは限定素材がなければ作ることができない。重点的に集めた方がよさそうだ。
リーダーこと総大将は案の定ルヴィアが担がれました。その統率の下で情報収集に関しても迅速に進んでいるようで、既にボスの名前まで上がってきているようです。
それに関してはあとでもいいのですが、やはり大蛸の化け物でしたね。ボスが水属性という情報が入るなり、ジュリアとカエデさんはがっくりと肩を落としていました。
ジュリアにとっては何時もの様に飛んでいれば、かつ持ち前の機動力があれば特にこれといった難は無い筈でしょうけど。
と、ふと気になる事案が出て来たので、素材集めをしつつちょっとそのジュリアに聞いておきましょうか。
「ジュリア、《フィーレン》の戦線って水曜日中に決着付いた筈では?」
「ああ、それですわね。昨日の招集、一日開けた理由がそれなんですのよ」
「あれはなかなかに酷い……とまでは言わないけど、戦場が指揮を無視してたからねえ」
「統率が上手く出来てなかった、くらいにしか聞いては無かったんですけど」
ルヴィアの配信で、フィーレンにて統率が足りず戦闘が長引いた旨の発言が出てきたので、それについて聞いておくことにしました。
その件については掲示板でも噂になっていたので、聞きかじり程度になるのですが。それなら、実際その場にいたジュリア一行に聞くのが早いし詳しいと思ったので。
「最初は良かったのですが、後半に行くにつれて後退と進撃の指示、それに補給物資が滞るようになりまして」
「一時は私達だけで戦線を支えてた時間もありましたのよ? カエデさんには苦労を掛けてしまいましたわ」
「あれは仕方ないしのう。ジュリアがリソース無視して小型狙いの空爆を仕掛けなければどうなっていたやらじゃし……」
「野良も上手い具合に情報伝達出来なかったってところもかな。みんな《万葉》みたい動けばに上手く行くだろうって慢心もあっただろうさね」
「結局のところ、指揮系統が形骸化してしまっていたのですわ。いざとなったときをルヴィア姉様に丸投げしたツケでもありますわね」
「そういえば、ルヴィアがいないのはフィーレンが初でしたね。それででしたか……」
コメント欄の方でも同様の反応が上がってますね……一応、アフターとして運営にPVに纏められていたのを見たのですが、あの足並みの揃わなさはそれが原因でしたか。
軽度とはいえ指揮の練習ができるのは現在はレギュラークエストしかありませんからね。指揮を執った《盃同盟》の面々もやっていたのを見たので、形だけとはいえ出来ていたのはそこもあるでしょう。
ただ、レイド級の大人数を綺麗に動かすにはやはり実際の経験をする以外にはなかったわけで。まあ、あとは……こればかりはどうしようもないですが、まだ信頼に足るカリスマを持つ人間が足りなかっただけかもしれませんから。
ジュリアに丸投げ、という策もあったでしょうけど……私と違って顔があまり知られてませんし、一般には脳筋みたいな扱いになってますからね。
「ルヴィア以外でもしっかりと別の意思決定が出来る人が増えるようにならないと二の舞になりますからね……」
「MMOの黎明期って感じはしてある意味では好きなのですけれども、まあ頼り切りはよくないですものねえ……ねえお姉様?」
「だからって私に振らないでくださいよ、多分私が執っても昨日のが限界です。あれも後方に《盃》の方がいたのでそれぞれに方針を伝えて動いてもらったんですから」
「昨日のは僕から見ててもいいリーダー合議制だったと思うよ。ああいう動かし方の方が僕は賛成」
「てっぺんが何でも決めるよりかはいいもんだしなァ……おっと、タラムそっちにクラゲが飛んだ」
「おっと。《グルームロア》」
複数分野のリーダーは居たほうが話をしやすいですから、そうしたんですけれどね。あの動き方は総大将がいない場合の動き方なんですが……
ある意味では、最終決定を総大将がするか話し合って決めるかの違いくらいですけど。前者のデメリットは最終決定で迷ってしまうと後が滞り、後者だと意見が合わなければ紛糾してしまうところですね。
どちらかにしてしまえば、後も話が付けやすいんですけどね。今回のフィーレンの件は前者の悪いところが出てしまって、各個で動かざるを得なくなってしまったてところでしょう。
しれっといつの間にか覚えていた《闇魔術》を放ったタラムさんを横目に私は蟹を刻みます。上からも大方の方針が伝わってきたみたいですね。指示通りに動くとしましょうか。
「撒き餌、銛と錨、鎖が新しく作れるようになっているとのことで、とにかく片っ端から素材を持ってこいとのことですね」
「よくわからん岩に覆われた亀がいたのは鉱石類か……」
「蟹の殻とかヒトデは何に使うのだー?」
「砲弾にでも使えるんじゃないですかね……?」
「開始前から適度に狩っていた面々のお陰で、最低限必要な分は既に確保できているそうなので……とりあえず届けますか」
「経験値はとってもおいしいですけどー、できるだけここで消耗はしたくないですしねー?」
「賛成じゃ、ここであんまり消費し過ぎるとボス用の余剰リソースを減らしてしまうしのう」
「ヒーラー達がそう言ってるし、従うが得策だね。準備運動にはなっただろうし」
「では意見一致ということで、一度撤退しましょうか。きっと最前線に駆り出されるのであるだけ温存はしておきたいですし」
納品のために離れ過ぎずで散会していたパーティを招集して、臨時のクラフター組合拠点に移動開始。
これはある種の確定事項のようなところがありますからね。トップ勢に名を連ねる私達二人は色々と酷使されそうですし、何なら今回ばかりはみんな巻き添えです。
みんなそれ覚悟で集まって来ているのでしょうから、今更確認を取るまでもないのですけれど。というか、今更嫌がっても多分多数決で押し切られますし。
ルヴィアの方では既にレイドの編成を始めているようで、第二班のメインアタッカーとして預かりたいとか言われてますけど。役割を貰うのなら、きっちりとこなすまでですが。
「それにしても、なんというか……」
「イベント限定素材とは一体何なのか疑いますわね……」
各々が集めてきた素材を見ると、よくもまあクラゲやヒトデなどなどから獲れたなと思う素材がどっちゃりと。
ヒトデの死骸にカニの殻、クラゲのゼラチンなどの素材まではわかるのですが……岩亀の岩塊、カニミソ、クラゲの毒針、カニばさみ、珊瑚の欠片などなど……
ついでに飲み込んでいたのか鉱石もありますね。これが一体どうなって必需品に加工されていくのか見物です。
ゲームにおける生産職は、基本的にある程度はこれとこれを組み合わせたらこれができる、というのがよくありますけど。今回ばっかりはかなり飛躍したものが出来そうですね……
集まったものを届けようと臨時広場へと向かえば、当然の事ながら困惑した顔を浮かべているクラフターの面々がいました。まあ、それもそうですよね。
「おう、クレハか……」
「心中お察ししますよ。斜め上を行った素材だらけですから……」
「全くだ、とりあえず岩系はこっちだな。とはいえ、スチールとか上質な鉄が取れるのはいいんだ」
「スチールとなると一段階上の素材の先見せですかね。つまり鉄と合わせる新素材が出てくるということですか」
「かもなぁ……鉄じゃ今回の化け物は引っ張れねえってことでもあるが……お、こいつは上質だな、質がいいと取れる量が増える」
「質がいいと必要量が減るんですね。となると……狩場は経験値もそれなりに良いですから、引き続き狩り続ける面々に頼りましょう」
先出しの新素材情報ですね。近いうちにスチールを使ったものが出回るということでしょう、期待しておきますか。
まあ、先に店売りの方は条件ありとはいえ一段階上の特殊武器が明日から販売されるそうですけど。それでもクラフターの最高級品であれば僅かに上回りますし、頑張ってほしいですね。
「クレハ達はどうすんだ?」
「おそらく最前線に投げ込まれるので、今のうちにひと休憩しておこうかと」
「そうか。それほど時間掛からずクエスト進行に必要なものは作れるだろ、まあ待ってな」
「では、海岸の方にでも……」
「おっと、その前に聞いておきてえことがあるんだ。昨日のレギュラークエスト達成で新しい武器やらの取り扱いが始まる予定なんだってな?」
「あ、そういえばまだお伝えしてませんでしたね」
「どういう武器が提供されるのか気になってな、聞かせてくれや」
「私も実際見るまではわかりませんが、巫女たちに聞いた程度になりますけど……」
「それだけでも参考になるからな」
昨日一区切りがついたレギュラークエスト《夜草神社からの輸送護衛》。その報酬のひとつとして《翡翠堂》での野菜・果物の販売開始とは別に、もうひとつ報酬がありました。
一定回数の参加とクリアが条件となりますが、彼女たちからの信頼の証として開放されたのが花シリーズの武器です。アクセサリもあるそうなので、そちらも楽しみですが。
それなりの値はするのですが、従来の店売り武器に比べて大きく威力は上がるそうではあるのでかなりの戦力アップが見込めそうです。
しかもそのシリーズは追加効果として、レギュラークエストの達成回数によっても威力が変動するとか。詳しい上限はまだ明らかになってないので、何とも言えませんけれど。
ただおそらく、さすがに《唯装》ほどの性能は無いとは思われます。入手までの繋ぎといった趣向が強いでしょうから。
「条件ありだが購入できる分威力は抑えてありそう……なんだが、条件達成で性能は上がるってか」
「はい。私も購入してみるつもりなので、それで確認はしてみますよ。制作できる最高級品のほうが性能が僅かに高いとも聞いてますが」
「そいつはよかった。新しい武器にお株を全部持ってかれるのは勘弁願いたいモンだしな」
「最高性能まで高めるのも相当な回数参加しないといけないかと思われますから、それまでにはより強いものが作れるようになるでしょうし」
「そうだな。新しい技術も磨かないといかんな……」
またそれとは別に貢献度もあったのか、稲花さんに渡したいものがあるのでまた後日来てほしいと言われているので神社にも向かわないといけませんね。
さて、新しい武器についての話もひと段落したところで戦闘を予定されている砂浜へと向かいましょうか。
ちょっと材料が意味不明ですが、なんとクラフトするとちゃんと物は出来上がるそうです。
それと猪神戦の後にちょっと触れてますが、詳しい話はまたあとになります。お楽しみに。




