22.飛んで火と刃に入る春の虫
新章 バージョン0【天竜城の御触書】編 のスタートです。
「うーん……こんなものですか」
「同数……ぐぬぬ」
陽も傾き始めた頃ですか。山ほど集めたミミズもようやく無くなりました。
そして釣りで採れたのはこちらです。これだけ採れれば《夜霧》さんも満足でしょう。
○ウグイ
品質:E+
川で釣れたおいしい魚。
……ウグイですかー、これが双方で20匹ずつ。品質はEからE+とちょっとだけばらついています。
と―――ちょうど、ルヴィアの配信が始まりましたね。場所は城の前、夜霧さんからの報せどおりに進展があるようです。
釣り終いをしながら配信へと耳を傾け続けていれば……《紗那》様が出てきました。
やっぱり昨夜見た夜霧さんと比べると雰囲気が真逆。おどおどしているようで誠意もあり芯が通ってる紗那様と、のらりくらり堂々と人を振り回そうとする夜霧さん。
ですが、顔は瓜二つで顔の横線がなければほんと見分けがつきませんね……。いえ、表情で全然見分けは付きそうですが……。
〔〔グランドクエストが発生しました:船屋敷鼠掃除〕〕
〔〔グランドクエストが発生しました:田園街道の化生〕〕
〔〔グランドクエストが発生しました:酒蔵地下の不思議迷宮〕〕
「……グランドクエスト指定の初めてのダンジョンは三つですか……って、《田園街道の化生》はまさか……」
「暗示されていたかのようなドンピシャですわね……」
「まあ手近ですから、行くしかないでしょう。というより、下手したら帰り道ですよ……」
「あー、それどころか確定で帰り道に入口があるみたいですわ」
「行きますか……」
選択の余地がないくらい近くにダンジョンが湧きました。夜霧さん狙ってませんか。
いえ、むしろ夜霧さんに遭遇できたからこそ、ダンジョンの近くに誘導するようなクエストが発生した……と捉えるのが正解でしょうか?
掲示板では私の他にも夜霧さんに遭遇した人はいるらしく、それぞれ三か所をランダムで指定されたようです。ちなみにここの川魚は私達だけのようです。
なお遭遇できた人からして、一番道路で猫状態の夜霧様に遭遇できた人に限られているようでした。他の人の場合は、塀の上から眺めて来るだけだそうですよ。
他のポイントは六番街南の釣り場、十番街の河らしく……やっぱり暗示してますね。ダンジョンの名前を見るとだいたいそれっぽい場所にもなっています。
「それじゃあ向かいますか」
「《DCO》初のダンジョンですわね、どうなっているのか楽しみですわ」
「というか……市街やこういった場所に堂々とダンジョンができるんですね」
「歩いていたらダンジョンでした。とかそんな事件もあるかもですわねぇ」
もし本当にそうなのであれば、歩いていたらいつの間にかダンジョンに入っていました。があり得るほどに自然に配置されている事もありそう。
それでも初心者から上級者まですべてが攻略に関わるのだから、本当にそんなちょっとしたことがクリアに関わったり……うん、十分にあり得ますね。
そうなってくると些細な情報でも見逃せなくなってきます。特に掲示板に出てくる情報に関しては要注目になっていくでしよう。
しばらく来た道を戻るように歩き進めていけば―――。
「あ、ここですね。見覚えのない道が出来てます」
「ご丁寧に石柱と注連縄がありましたものね……行きの際に何だろうとは思っていましたが……」
「ある意味予想的中と言いますか。こういう地点、今度から覚えておいたほうがいいでしょうね」
はい、実は先程走っている最中に見つけていたのです。
田園で、しかもお地蔵さんや祠がある訳でなく一組の石柱とそれを繋ぐ注連縄があるという不思議な場所が。
その時は道などなく、ただ柱が立っているだけ……というところだったのですが、今見てみれば何処かへと続く道が出来ているではありませんか。
どう見てもダンジョンの入り口です。それに、私達だけでない人々が提灯や松明の明かりを片手にここを探したり、入って行ったりしていますね。
そうやってダンジョンの入り口らしき場所から見回していれば……あ、今暗闇の中にゲンゴロウに突っ込まれてバランスを崩し、田圃に落ちるプレイヤーが。
起き上がろうとしたところでカエルに襲撃を喰らい、袋叩きにされて死に戻り……南無三、やっぱり田圃に突っ込むのは危険、と。
ここに戻って来るまでも何度か弾丸ゲンゴロウの襲撃やカエル達とも遭遇しましたが、やっぱり王都到達を前提に作られているだけあって手こずります。
それに今は夜。やや明るいとはいえ、視界があまりよろしくない中で遭遇する訳ですから……完全に不意打ちで来るんですよね。
昼に比べれば弾丸ゲンゴロウの視界が狭まっているのか、よっぽど田圃に近づかない限りは数は飛んできませんが。
「それじゃあ入ってみましょうか。私達明かり無いですけど」
「これくらい慣れてしまいましたものねー。田舎の夜なんて真っ暗闇ですもの」
「《世界樹》の明かりがあるだけマシなんでしょうね……それでも、ここは一番道路や二番道路に比べると暗いですが……」
「森を挟んでいて、明かりを遮っているからというのもありそうですが……」
《世界樹》のある側を見れば、西側にある少し樹高のある森が世界樹からの明かりを遮り、この一帯を真っ暗……とは言いませんが、夜道と言うにちょうどいい明るさにしています。
森から離れた一番道路などの側は夜でも比較的見通しが良く、明かりもあったので全く気にはなっていなかったのですが。
さて、それでは入ってみましょうか。外から見るとここから先に道がありますが、実際の道としてはそのまま田圃になっているようです。
「……へぇ、ダンジョンの中はこうなっていますか」
「うわ、眩しいですわねぇ……さっきまで暗かったですから、これはちょっと……」
ダンジョンの中へと足を踏み込めば、景色ががらりと変わりました。いえ、正しくは周囲が唐突に夜から昼へと切り替わり、空には月ではなく燦々と輝く太陽が浮かんでいます。
周囲の景色は昼の田園へと切り替わり、見えていた王都の外周部が見えなくなっています。先程まで暗闇の中に居たので、とんでもなく眩しい……。
先に入った面々も目を慣らすために少し棒立ちになっている様子。というより、このダンジョンの出入口付近だとMobに襲われないようですね。
私達も目を慣らしていれば、先遣していたであろうプレイヤー達が戻って来たようで少し声を掛けてみましょうか。
「あの、このダンジョンはどういった構造になっているんですか?」
「ん? おう、お前さん決闘モードの……最初はここを選んだってワケか、こりゃ心強い!」
「あ、あはは、それはさておいての……」
「はは、わかってるわかってる。この先がどうなってるかって話だろ?」
そのうちの一人、大柄な人間の男性が私達を見るなりにいっと笑って応えてくれました。
どうやらこのダンジョン、迷路のようになっているようです。それに道すがらに湧くMobを一定数倒すと近くの濁っている田圃の色が澄んで、その付近で涌いてくる数が減少するとか。
涌いてくるMobは外と同じ弾丸ゲンゴロウとカエルが二種がいるようで、遠目にこのダンジョンのボスが待ち構えているであろう場所も見えているそう。
「ありがとうございます。後続の方や掲示板で攻略情報を共有した方が良さそうですね」
「そうだな、休憩がてら書き込んで、ついでに来た連中にも伝えとくとするよ。頑張ってくれよ」
「そちらも頑張ってください、その様子だと……主なダメージ元は弾丸ゲンゴロウですか」
「身体が大きいと当たりやすいみたいでなぁ、ま、それでも一発は軽いんだが……」
「キャスターの範囲魔法がオススメですわ。まとめて始末できますもの」
「お、いい話を聞いたぞ。次出る時キャスターを募集していくとしよう」
そんな感じに軽い会話をし、目が慣れた頃合いで私達は出発。……しようとしましたが、夕飯に呼ばれてしまったので、このセーフエリアで一旦ログアウト。
ジュリアは先行できないところが悔しいのか、ぐぬぬ、と言いたげな顔を見せています。母に怒られる前に向かってしまいましょう……。
――◇――◇――◇――◇――◇――
夕飯や風呂などの所要を済ませてから再度ログイン。
今日はやれる残り時間が少ないためできるだけ情報を集められるようにしましょうか。
明日さえ行ってしまえば春休みが終わり学校が始まるまで暇になるので、ログイン時間は多く取れはするのですが……。
再びダンジョンに入り、改めてダンジョン出入り口のセーフエリアから出発。道は広めで、往来くらいは楽に出来るようです。
それから……歩きながら遠目に見渡せば、はるか遠くに柵に囲われた場所がうっすらと見えます……あれがボスと戦う場所でしょうか。
外の田園とは繋がっている様子はないので、このダンジョン内部のみの地形のようですね。この辺りはまだ田圃の水が澄んでいますが……おっと、ここから先は濁っていますね。
そっと腰に下げている刀の柄へと手をやりつつ、ジュリアも槍を握ります。一歩踏み込む、と。
「ジュリア、ミドリカエルが二匹。ゲンゴロウの迎撃をお願いします」
「わかりましたわ。お任せあれ!」
踏み込んだ途端、濁った田圃から緑色のカエルが二匹飛び出してきました。
外のより少し大きいですが、個体は変わらない様子。すぐに抜刀して《薄月》でミドリカエルが行動する前に片割れを斬りつけ。
さらに二撃加えつつ、飛び込んできたもう片方を回避。同時、背後を何かが掠めて飛んでいく感覚、次の瞬間には火弾が飛ぶ音。
慣れてきたのかジュリアは《ファイアバレット》で弾丸ゲンゴロウを撃ち落としてるようですね。動体視力どうなってるんでしょう……私が言えたことではないのですが。
「お姉様、ウシガエルが二匹追加です。こちらは私もやります!」
「お願いします……っと!」
ミドリカエルを片方倒せば、すぐにもう片方へ。処理が追いつきそうにないために《斬月》の一撃を見舞います。
大きく削れたミドリカエルに追撃を仕掛ける間に、槍を構えたジュリアが《ジャンプアタック》をウシガエルへと仕掛けて直撃させました。よく当たりますね……。
処理が出来れば周囲を見回して、ジュリアが対応しているものの他にMobがいないかどうかを探します。いない、と思って納刀していれば。
ちょうど飛んできた弾丸ゲンゴロウにカウンターが反応して撃ち落とし。続けて二匹飛んできますが、一匹目はカウンターが発動せず自分の抜き打ちで、二匹目はカウンターで撃ち落とします。
ジュリアの方も始末が終わったようで一息。引き続き警戒を続けつつ、田圃の水面へと目をやります。
「……ほんのちょっと薄くなりましたね」
「これはじっくり進め、ということかと思いますわ」
「まあ早々にクリアしてしまっては面白みもないですからね。じっくり進んでいきましょうか」
「人も多くなり始めたようですし、さくさく行くのが一番かと」
「賛成です」
私達もゆっくりと先へ進んでいきます。水が澄んでいる場所はMobの涌きが少なくなりますが、全く涌かない訳ではないですからね。
周囲を見渡すとやっぱりゲンゴロウに強襲されて慌てふためく面々が多いようで、転げかけたプレイヤーを他のプレイヤーが助ける、なんて場面もしばしばあるようです。
もちろんまだ濁った場所であれば、そのままカエルの群れや弾丸ゲンゴロウによる追撃に晒されていたりしますが。
さて、私達は数度の戦闘を繰り返しつつ先を進みますが……最初の二股の分かれ道に当たりました。
「どちらに進むか、ですわね」
「虱潰しにやるのが一番ですが……」
目的地ははっきりしてはいるのですが、それでもそこまでの道が辿れるほど見えるわけではありません。
見渡せば様々なパーティが先に居ますが、先に進んでいるのかどの道を通ったのか……起伏が少ない平坦な地形なのもあっても判り辛いです。
ある程度近いものであれば、道を辿ってみることもできますが……。
……右手側のすぐ先で別のパーティが戦っているのが見えます。ジュリアの方をつつくと、こくこくと頷き……行く方向は決まったようです。
「左の道を行きましょうか」
「わかりましたわ……結構濁りがあるので、あまり人が通っていないようですわね」
「えぇ、だから、というのもありますが。セオリーとは逆に行ってみるのも一つかと」
「右手の法則、ですわね。確かに、何か見つかればいいものですから……」
というわけで左側の道を辿ることにしました。より濁っていてかつ、人の少ない方へ。
数歩進めば、それだけでゲンゴロウが飛んできました。ものの見事にカウンターで斬り落とします。
ここでふと気づきました。私達の技量であれば……もしかして……
「……ねえ、ジュリア。ひとつ思いついてしまったんですが」
「なんでしょう……?」
「私達、この弾丸ゲンゴロウを簡単に撃ち落とせますよね」
「これぐらいの速度であれば、《ファイアバレット》で簡単に落とせますわね。ついでに《フレイムスロア》で薙ぎ払えば複数体も」
「立っているだけで経験値が稼げて、濁りを取ることができてしまうのでは……?」
「……はっ!?」
そうです。気付いてしまったのです。
弾丸ゲンゴロウは脆い分経験値は少ないですが、それでも二番道路のディアホーンくらいの経験値は貰えます。
カエルはレベルもあるので、ボアよりも少し多いくらい。こちらは別で対処するとしますが。
無理に進行することなく、このまま一反ずつ狩り尽くしながら前線が正解のルートを探すのを待つ……この提案をジュリアにすれば、名案だと目を輝かせ始めました。
「流石お姉様! それじゃあ早速……!」
「《マナポーション》の貯蔵は十分ですか?」
「もちろんですわ! いっそここで上げられるだけ上げてしまっても構わないのだろう、ですわ!」
「ふふふ、やりましょうか……」
こうして敵が寄り付き発生しやすい田端に寄り、今日のログアウト時間までプレイヤースキルの高さを武器にしたレベリングを始めたのでした。
大方一時間ほどで一反でしょうか。無数というほどにあるので、本来は多くの人が通りすがりに倒して浄化していくのでしょうけれど……。
通る人々にぎょっとした目で見られつつ、寝る時間になったのでログアウト。ドロップ品の数は……はい、明日は先に整理してからですね……。
このゲンゴロウ狩りは後に出来るクレハ伝説のふたつめである……
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