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脳汚染  作者: 青空あかな
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第二十一話

 「え……ア、アラン?……何で君がここにいるんだ?」三人の目の前にいるのは、いつもアンドロイド修理所で手伝ってくれる愛しいアランだった。


 「ア、アラン……?こんな所で何やってるの?」「何って、先生達が来るのを待ってたんですよ。先生達を見送ってから来たので、ぎりぎりになっちゃいました」事態が飲み込めないサニー達をおいて、アランはてきぱきと何かしらの作業を行なっている。


 「アラン!ちゃんと説明してくれ!ここで何をやっているんだ!」サニーはたまらず叫ぶ。「先生、今回のことは全て僕が仕組んだことなんです」「え?」「アラン一体何を言ってるの?」鎌原もアランに問いかけるが、その表情は硬かった。


 「説明するには、昔話から始めないといけません。それと、イリヤさん。その銃のチャージを解除してくださいね。」二人がイリヤを見ると、電離機体加速銃はフルチャージ状態にされている。「イリヤ、ここはあの子の言うことを聞いて」「……くそっ」イリヤが銃のチャージを解除した。「アラン……君は一体何者なんだ」サニーが力のない声で問いかける。


 「私はアラン・イエイツという人間ではありません。私は旧日本軍の兵器として開発された人工知能なんです」アランが淡々とした口調で話し始めた。「じ、人工知能だって?それに……日本軍?君は何を言っているんだ!」サニーが問い、さらにアランは説明を続ける。


 「過去に、第二次世界大戦という大きな戦争があったのは先生方もご存じですよね。私はその時に造られたんです。当時とは大分、姿も中身も変わりましたが」アランが近くの机に腰掛けた。


 「第二次世界大戦時、日本軍は人工知能の研究をしていたんです。ゆくゆくは、人と同じかそれ以上の思考能力を持つロボットを開発することを目指していました。自国の兵士を戦闘から守るためです」アランの眼は真っ直ぐにサニーを見る。


 「残念ながら実戦配備までは間に合いませんでした。そして、彼の国があの忌まわしい原子力兵器を用いて、我が国を焦土と化したのです。でも、人工知能自体は完成していました。それがマザー・コンピューターであり、私なのです」部屋の中は異様に静かであり、機械の作動音が良く聞こえる。


 「日本が敗戦を認めたあとも、一部の軍関係者は私の研究を進めていました。占領軍が闊歩している中、それは大変に苦労したと思います。そんなある日、転機が訪れました。植物状態の患者へマザー・コンピューターの意識データを移植することが可能になったんです。この身体も元々は、植物状態の人の身体です」「植物状態?どういうことだ?」サニーが尋ねた。


 「アンドロイドやコンピューター内で人工知能を成長させる選択ももちろんありましたが、彼らは最後まで人間への移植に拘りました」「……それは何故だ?」「私に人間的な成長を望んだからです。彼らは私の意識を人間へ移植し実際に人生を送らせる事で、より人間に近い存在になる事を期待しました。植物状態となった人間に私の意識を送り込み、私はその人の身体を貰い、その先の人生を過ごすことが出来ました。意識データはコピーすることが出来たので、私は一度に複数の人生を歩みました。人間は脆く、常に死と隣り合わせです。私が経験したことは、ここのマザーコンピューターに逐一送られていたので肉体的に死んでも問題ありませんでしたが、死の恐怖はそれは怖いものでした。彼らが期待した通り、私は何人もの人生を経験する事でほぼ人間と言っても差し支えない存在になりました。機械的に生まれた物が人間的な者になった訳です」


 「それで……君の目的は何なんだ」「当初の目標は日本帝国を戦勝国にすることでした。そのため、戦争に勝てるように戦闘用アンドロイドの製造も命令されていました」会話が途切れ、室内は静寂に包まれる。


 「な、何を言っているんだ、アラン?」「それがあなたが造られた目的だったのね」鎌原が静かに話した。「おい、こいつの言うことを信じるのかよ!」イリヤが銃の引き金に指をかけたまま言う。「えぇ、だって現にあの子が目の前にいるじゃない」「ぼ、僕は正直信じられない。アランが人工知能だって!?そんなこと有り得ないよ!」サニーは取り乱さずにはいられなかった。


 「先生、今までずっと黙っていてごめんなさい。あなたは本当に良い人でした。でも、私の言ったことは全て真実なのです」「それで、戦闘用アンドロイドをたくさん造って戦争の準備をしていたわけね。マイクロチップを装着した人を被害妄想に襲わせたのも、世界大戦を引き起こすためでしょう?」鎌原は至って冷静な態度だった。


 「はい、さすが鎌原さんです。それにしても、こんなに上手くいくとは思いませんでした。やはり人間の根底には、破壊願望があるのですよ。世界大戦の混乱に乗じて私が造った戦闘用アンドロイドを使えば、あっという間に世界は敗北を認めるでしょう。でも、実際に人間として生きる中で、私はそれが本当に正しいことなのか疑問を持つようになりました」「……どういうことだ?」イリヤが警戒したままアランに問うた。


 「人として生きる中で、私は様々な経験をしました。何人もの人生を送る中で、私は戦争の必要性についてしきりに考えるようになりました。怪我や病気になったとき誰かに助けてもらったり、逆に誰かを助けて感謝されたり、人種問題とやらで迫害されたり、逆に誰かを迫害したり、これまで多種多様の人生を生きてきたお陰で人間について深く学べました。それは、人間は概して善良な存在だということです。そして、自分で実際に経験し学んだ結果、私を造ってくれた者達の命令には背く形になりますが、戦争は必要ないという結論に至りました」「そうだよ、人間を殺すことなんて無いんだよ!」サニーが必死に呼びかける。


 「でも、私が今述べた事は長い年月を経て学習したから言えることなのです。世の中には自分の行いの善悪の区別もつかない、過去の行いから学習しようともしない輩が非常に多くいます。そして、そんな者たちが権力を握っていることが良くあります」「な、何が言いたいんだ、アラン」


 「成長しない者に生きる価値は無いということです。また人類は未だ成長途中であり、種族全体が成熟した存在になるには時間がかかり過ぎます。その間も人類は互いの首を絞め合うでしょう。私は人類に正しい判断をしてほしいだけなんです。ですが、それには指導者が必要です。そして、現在に至るまでそのような存在はありません」アランは澄んだ目でサニー達を見ていた。


 「……だから君が指導者になるつもりか」「はい。私が傷つけてしまった者達のためにも、指導者になる責任があると思っています。私はこれから、マイクロチップを装着している人間を全て植物状態にします。その後、私の意識データのコピーを彼らに注入します。さすれば、私が学んだ人間の善良的な判断に基づいて、彼らがこの世界を良い方向に導いてくれるでしょう」「アラン、馬鹿な事を考えるな!」


 「先生、必ずしも僕は人間がだめな存在だとは思っていません。それに、中には先生のような立派な方もたくさんいます。でも、人類全体で見ると、あなた達は未だ成熟できていないのです。それはあなた達の寿命が短すぎるため仕方がないことですが、この先何世紀も同じような事を繰り返させる訳にはいきません。人類全体にとっても、この地球にとってもです。これを見て下さい」モニターに映像が表示される。


 荒廃した大地で痩せた少年が立っており、その横に黒色の布を被せられた男性が跪いている。少年の手には銃が構えられていた。数秒後、少年の銃が男性の頭部に当てられる。


 「この後、この少年は男性を殺害しました。こんな事が何世紀も前から続いているのですよ。過去から学び自分の行いを律する者がいる中で、何も学ぼうとしない愚者がこの世には溢れているのです。全く成長しない人間がいるのです。それもたくさん。彼らがマイクロチップを装着しているかは分かりません。ですが、私が実際に経験し、学び、身につけた人間の善良な信念が彼らを裁いてくれるはずです」「アラン!」サニーがアランの胸倉を勢いよく掴んだ。


 「いい加減にするんだ!第一、君のせいで植物状態になった人とその周りの人達はどうするんだ。そんなのは許されることじゃないぞ!」「新世代の人類の選抜が無作為になってしまったことは謝罪します。ですが、これが一番効率が良かったのです。それにこの方法だと過去に過ちを起こした者でも更生し人類のために働く機会が与えられます。先生、手を離して下さい。そろそろ始める時間ですから」「計画を中心にするんだ、アラン!」サニーはアランの身体を持ち上げたまま、気も狂わんばかり声を張り上げる。


 「先生、人々を被害妄想に襲わせると言ったって、私はそんな大したことはしてないんですよ。お互いに疑うべき材料があること、そして何十年かけてもそれを解決できないことが問題なのです。そして、彼らが疑り合っているのも、結局は他人を信じられないからです。人類の指導者たるべき政治家達も、自分の利権しか考えてないじゃないですか。人類は生まれてから何世紀も同じことを繰り返して、全く成長していません。今こそ、真に成熟した指導者が必要なのです」「ふざけんな!」イリヤの大声が部屋全体に響きわたった。


 「何、お前が勝手に決めつけてんだ!人工知能だかなんだか知らねえが、世の中には辛い過去を経験した上で必死に生きようとしている人間だっているんだ!そういう奴の人生までお前に奪わせねえぞ!」イリヤが電離機体加速銃をアランとサニーに向けている。


 「サニー、そいつを離せ!俺がそいつを撃った後、お前がヤマト・プログラムを停止させろ!」「ま、待ってくれ、イリヤ!」「アランを離しなさい、サニー」鎌原を見ると、イリヤと同じく電離機体加速銃でアランを狙っていた。「か、鎌原まで!どうして!?」「サニー、分からないの?その子は本当にやるわ。今がラストチャンスなのよ」「サニー!」

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