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神官見習いの日常  作者: 伊代
二章
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三ノ四.終

「―――そういえば、絵美佳がね、良いことを教えてくれたのだよ」

「絵美佳―――ですか?」

「ああ。今のままでは欲しいものは手には入らない、とね―――だから、我は少し自分に正直になろうと思う」

「は、はぁ……」

 よく分からない。なぜ今そんな話を?

 それに、さっきからウトゥヌ様の真顔がなんだか少し怖いんだ。


「里緒は先ほど、味は大丈夫だと言っていたけど、味見はしたのかい?」

「え、あ。しませんでした……!」

 しまった。部屋に引きこもって料理もしたことがなかったわたしの辞書に「味見」なんて言葉は存在していなかった。

 でも元々キヤル自体を食べたことがないから、味見しても正しい味かどうか分からなかったと思うけど、こうなったら平謝りするしかない。


「ご、ごめんなさい。分かります、美味しくなかったんですね?! 作り直します!」

 しかし頭を下げるわたしを、ウトゥヌ様は低い声で一刀両断した。

「だめだな。許さない」

「えええ」


 いつも優しさいっぱいで、何でも笑って許してくれるイメージしかないウトゥヌ様。そんな彼を、酷く怒らせてしまった。

「そ、そんなに不味かったんですか!? ど、どうしよ」

 どうしたら許してもらえるのかとパニックになりかけ言葉を紡いでいる途中で、口の中に固い塊が放り込まれた。

「んむ!?」

 更に、ウトゥヌ様の指先がわたしの唇に押し当てられている。

 もしかして、これは「味見してみろ」ということだろうか。


 舌を擦りつけるようにしてキヤルを吟味してみたが、特別不味くはない。

 内心、ベタに砂糖と塩を間違えたりしたのだろうかと焦っていたのだけれど、普通の砂糖を使った甘いお菓子の味がする。

 不思議に思ってウトゥヌ様を見上げた次の瞬間、柔らかな感触が唇に落ちた。

 銀色の綺麗な長い睫毛が目の前にあって、わたしの低い鼻がウトゥヌ様の高い鼻と触れる。


 驚きから短く息を吸い込むと、口の中のキヤルが勝手に動き出した。

 甘い塊をゆっくりと溶かすように動く柔らかなものは―――

「!?!?」

 し、舌だ。う、ウトゥヌ様の舌がああああぁぁ!!!


 ど、どうしたら良いの!

 沸騰する頭で、とりあえずウトゥヌ様の胸を押して抵抗してみるが、逆に背中と首の辺りに手を回されて密着し身動きがとれなくなった。

「な、ななな、なにをっ」

「味見の手伝いだよ」

「ふぁあッ!?」

 短く告げられた後、またオートでキヤルが溶け出す。

 味見って手伝うようなものなの!? 絶対間違ってるよね? これって何か違う行為だよね?? これが神様の常識ってわけじゃないよね!?!?


―――どうしよう。

 拒否しなきゃって思うのにイヤじゃない。

 イヤじゃないってことは良いってことなの!? どうなのわたし!!

 わたしはウトゥヌ様のこと好きなの? じゃあファレスのことは??

 あああ、全然わからない。

 身体どころか脳味噌まで硬直し、されるがままになってしまう。


 するとキヤルを溶かしていた舌が、唇の表面から口の中すべてを確かめるように動き出した。

 キヤルとは違う、何か別の甘さに体中が支配され、もう何も考えられない。


 どれくらいそうしていたのか分からず、ようやく解放された時にはなんだか唇がじんじんと腫れっぽい気がした。

 ぼーっとするわたしを前に、ウトゥヌ様が自身の唇をぺろりと舐めとる。

 うわあ、なんかすごくエロい。


「こんなに美味しいものを試さないなんて、勿体なくて許せないだろう?」

 クスリと悪戯っぽく微笑むウトゥヌ様は神様というよりも小悪魔のようだ。

 だけどふと真顔に戻って、わたしの前髪を長い指先でかき分けて耳に掛けてくれた。

 その耳元に、とろけるような美声が流し込まれて、またもや脳内が沸騰しそうになる。

「王子が戻ってくるまでに、君の心が我に向くよう解かしてみせる」

 そして、いつもの優しい額へのキス。

「愛しているよ、里緒―――」





 それから―――。

 たった二週間ほどでヴィエナ神の説得に成功したファレスは、さっさとウトゥヌ神殿に戻ってきた。

 そのまますぐに神殿務めを再開し、表面上はそれまでとなんら変わりない日常が戻った―――のだけれど。

 わたしたちの関係はそれまでと大きく変わる事になるのだった。




拙い文章をここまで読んで下さいましたことに感謝申し上げます。


現在、別シリーズ「秘密の手記」を連載開始しております。

高校での恋愛をベースに、コメディタッチで綴る学園生活です。

よろしければそちらでもおつきあい頂ければ大変嬉しく思います。

それでは、ありがとうございました。


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