三ノ三.別れとキヤル
翌日の昼すぎ、絵美佳、ミアーノ、ヴィエナ様、それからファレス達はヴィエナ神殿へと旅立った。
意外なことに絵美佳が大泣きして大変だった。とめどなく涙を流しながら、わたしに抱きついて離れず「絶対すぐに会いに来るから!」と別れを惜しんでくれた。
びっくりしたけど、その気持ちはすごーく嬉しくて、わたしも貰い泣きしてしまったんだ。
「寂しくなったねー。エミカも元気で良い子だったし。それにファレス様の顔が見られなくなるなんて、張り合いがなくなるなぁ」
オルリアが掃除する手を止めてぼそりと呟く。
「そうだね……」
おそらく、他の多くの女性たちも同じ事を思っているのだろう。
けれど、わたしたちはゲートを使えばいつでも会える。
絵美佳と一緒に神官見習いの仕事が出来なくなってしまったのは寂しいけれど、お互いに神殿勤めを続けていれば公式にでも対面することもあるだろう。
―――もちろん、ファレスとも。
夜、自宅へ戻るだけになったところをウトゥヌ様に時計台へと誘われ、昨晩のやりとりを聞かれた。
気恥ずかしかったけれど、ファレスとの事はウトゥヌ様にはきちんと話しておいた方が良い気がするし、神様に隠し事をするのも憚ったので正直に話した。
「待って欲しいと言われて、里緒はなんと返事をしたのだい?」
「気持ちの保証は出来ないけど―――って言っておきました」
「そう……。でも、彼はすぐに戻ってくる気がするね」
小さく独り言のように呟き、そのままウトゥヌ様は黙ってしまった。
「あ! そういえば……」
チュニックのポケットから、小さな包みを取り出し、ウトゥヌ様に「どうぞ」と差し出す。
「これは―――もしかしてキヤル?」
「はい。本当は降誕祭当日渡そうと思っていたんです。でもゴタゴタしていて渡しそびれてしまいました。ごめんなさい」
数日持ち歩いていたせいで、紙袋がクシャクシャになってしまった。
飴みたいなもので日持ちするから、中身は大丈夫だろうけど、贈り物としての体裁は失われてしまっていて、なんだか申し訳ない。
「いや、ありがとう。頂くよ」
微笑んで包みを開いたウトゥヌ様は、中身を見て動きを止める。
「や、やっぱり不格好ですよね……。作り方を教わって自宅で作ってみたんです。材料や分量は間違ってないと思うので、味は大丈夫なはずですが……」
参拝者に配る物はきれいな真四角なんだけど、わたしのは少し歪んでしまった。コツがいるらしく、何回作ってもダメだったから、比較的きれいに出来たものを選んだつもりだった。
「これを―――我のために、里緒が?」
ウトゥヌ様の切れ長の一重の瞳が大きく見開かれて、ゆっくりとわたしの顔を覗き見る。
「キヤルはウトゥヌ様の好物だと聞いたので。本当かどうか分からないけど、日頃のお礼にと思って。けど、ごめんなさい。迷惑でしたよね」
どうせなら、ちゃんとした綺麗な物の方が良かっただろう。わたしの馬鹿!
「どうして? 本当に嬉しいよ。嬉しすぎて食べるのが勿体ないけれど、折角だから―――」
指先で一粒を摘み、口に放り入れるウトゥヌ様。なんだか子供のようで可愛い。
ところが口に含んだとたんに、その麗しい顔が強ばった。
も、もしかして不味かった―――!?




