三ノ二.変態とわたし
ファレスは口を半開きにして眉間に皺を寄せた。
「―――あの、私の自惚れでなければ、それは嫉妬なのでは……?」
嫉妬? ヤキモチってこと?
「何それ、なんかわたしがファレスのこと好きみたい―――って違う! そうじゃなくて! ただ、無視されたままお別れするのが嫌だったから!!」
「しかしヴィエナには優しくするのに、とか笑顔が、とか思うということは、里緒も私にそうされたいということでは?」
顎に手を当てながら冷静にツッコむファレスに対し、わたしはムキになって言い訳する以外ない。
「はぁっ!? ばっかじゃないの、そんなわけないでしょ!」
それを聞いたファレスの表情が一瞬でニヤリと嫌な笑みに変わる。なんだその笑い方ー! 初めて見たけどすごく嫌な予感しかしない。
「なるほど……。これがツンデレというやつですね? 弟から聞きました」
弟、って第三王子のセイか! わたしの部屋でマンガ読み漁って、いつの間にか日本語マスターしてたのか!
要らない知識身につけたな……。最近会ってないけど、今度来たら説教しなければ……って、至近距離にファレスの顔が!
「近ッ! 何!?」
「ツンデレというのは、少し攻めればデレに転じるものなのでしょう? ですから、試してみようと思いまして」
そう言いながら目の前に形の良い唇を近づけるファレス。全力で両手を使って押し返す。
「無理! デレない! 絶対!」
「……ではツンツンということですか? 大丈夫ですよ。ウトゥヌ神曰く、私はマゾらしいですから、ツンツン大歓迎です」
「な、何が大丈夫なんだ、何がっ!」
一体、ウトゥヌ様と何の話をしてるんだ?
また違った変態になってるじゃないかー!
嬉しそうにニコニコする変態から距離をとり、ジト目で睨む。
ツンツンかマゾかは置いとくとしても、ファレスがこうして変態っぷりを発揮して、わたしがそれを諌める、っていうこの関係はすごくしっくりする。
言いたいことを我慢するより、ぶちまけあってる方が良い。
ファレスは、わたしには感情を出せると言っていたけど、それはわたしにとっても同じかもしれない。ファレスには無遠慮に何でも言えてしまう。それって色んな意味で凄いことかもしれない。
「―――決めました。やはり、私は貴女を諦められそうにありません。
一度ヴィエナ神殿に行き、ゆっくりヴィエナを説得してみます。夫婦だった頃の私と、今の私では違う人格なのだと、分かってもらおうと思います。
時間は掛かるかもしれませんが、待っていてください」
優しい顔で、わたしの頬に手を添えるファレス。
急に心臓がバクバクと鳴り出す。
でもだめだ。
彼が本気だと分かるからこそ伝えなきゃいけない。
「ごめん―――ファレスが戻って来るなら嬉しいよ。けど、だからって気持ちに応えられる自信はないんだ。だって、ファレスの事は好きだけど、同じくらいウトゥヌ様も好きだから。
ファレスは王子だし、モテるし、ヴィエナ様も居るんだし、わたしなんかのためにそこまでしなくて良いのにって思う」
自分の気持ちが分からない。
だけどファレスの気持ちは嬉しい。
矛盾している。
わたしはズルくて嫌な女だ―――。
「良いんです、私がそうしたいだけですから。私の身勝手で貴女を苦しめている自覚もあります。里緒が気にする必要は全くありません。寧ろ貴女は被害者です」
「そんなこと、は―――」
甘えちゃダメだって思うのに、勝手に流れる涙を拭ってくれる指が優しくて胸が痛くなる。
「それに、今回のことで神族と会話出来るようになってウトゥヌ神とは対等になれた気がします。だから焦りません。これからです。
里緒―――待っていてくれますよね?」
涙の伝う頬に、そっと口付けが落ちた。




