二ノ二.眠れる美少女
一人で道端にぽつんとしゃがみこむ少女は六~七歳くらいだろうか。
腰まで伸ばされたプラチナブロンドのサラサラストレートヘア。
真っ白な肌に、ぽってりした真っ赤な唇。
抜けるような透明感をもつスカイブルーの瞳。
それを覆う睫毛はバサバサ音がしそうな程に長い。
誰もが美少女と評するだろう。
しかし、どこか気怠げなのが気になる。
せっかくの宝石のような瞳は半開きだし、口元はやや「へ」の字。
よく見れば白い肌は青白いと言った方が良いかもしれない。
それらはどこか生気に欠けているように見える。
絵美佳はそんな少女の目の前にしゃがみ込み瞳を輝かせながら「お嬢ちゃん、かわいいぃぃね!」と声を掛けた。
―――まさかのナンパ?!
「あ、アメあるよ。いる? ほら、あーんして?」
明らかな不審人物っぷりを発揮している絵美佳だが、少女は疑いもせずこくりと頷くと、本当にあーんとされてしまった。
―――だめだよ、知らない人から物をもらっちゃ!
薬物混入されてたらどうするんだー!
「ヤバいヤバいヤバい。可愛すぎるぅぅ! アタシのこと、おねえさまって呼んでいいよ?」
「あ、あのー、絵美佳さん? あなた、そーゆーご趣味が……?」
「うるせっ! ……あー、ごめん、お嬢ちゃんに言ったんじゃないんだよー。こわくないからねー」
わたしには低い声で怒鳴りつけるくせに、女の子には猫なで声でニコニコしながらヨシヨシと頭を撫でている。
少女はかくんと首を傾げ「おねえさま?」と可愛らしい声を聞かせて、きゅっと絵美佳に抱きついた。
「ぅああーー! ダメっ、鼻血出そっ!」
絵美佳は口元を手で覆って興奮している。
絵美佳の反応は少々変態的ではあるが、確かに極上の可愛さだ。
こんな無防備な美少女、簡単に絵美佳みたいなのに誘拐されてしまうだろう。
近くに親御さんとかいないのかな?
「あなた一人なの? おうちの人は?」
「おうち? 供の者? どっか行った」
見た目の年齢の割にずいぶんと幼さの残る話し方をする。
もしかしたら異国の子で、言葉があまり分からないのかもしれない。
それに「共の者」って言葉から察するに、身分の高い家の子だろう。
ますます一人にしといちゃいけない気がするんだけど……。
飴玉を頬に入れ絵美佳に抱きついたままの少女の瞳が、すぅっと閉じかけた。
はっとしたように見開き、閉じる、を繰り返している。かなり眠そうだ。
絵美佳はそんな少女を「おねえさまが抱っこしてあげる」と抱き上げた。
「絵美佳、どうするの?」
「こんな可愛い子をこんなトコで寝かせておけねーよ。攫われるに決まってる。アタシが連れてく」
「いや、それを誘拐というのでは―――?」
「ちげーよ! 保護するんだよ、保護! 神殿に連れて行こう」
「保護かぁ、なるほどー! 巧い言い訳教えてくれてありがとう!」
「う、うるせっ!」
あら、顔が真っ赤だ。からかい過ぎたかな。
話している間に、絵美佳の腕の中ですぅすぅと寝息を立て始めた少女。
絵美佳とわたしは小声になって会話を続行する。
「ごめんごめん。でも保護するのは良いけど、お供の人が探しに来たらどうするの?」
「さあ。だからって放っておくわけにもいかないし」
それはそうだけど―――まぁいいか。
困った時は神殿へ! っていうのがこの辺りの常らしいし。
昔のウトゥヌ神殿は厳重に管理され、関係者以外の立ち入りは一切禁止されていたという。
けれど二百年程前の神官長がその制度を改め、一般にも開放して日中の参拝を自由にした。
それに伴い、神官たちのもつ医療の知識を民間にも役立たせ、病院としても機能するようになった。
また相談事に乗ったり、拾得物を預かったりと、警察的な役目も担うようになったのだ。
それを考えれば神殿が迷子の保護をしてもなんらおかしくないはず!




