二ノ一.おそろい
*二章に入ります
翌朝、神殿に戻ってもファレスは眠りから覚めていなかった。
寝顔は安らかだけれど、倒れてから既に一五時間が経過している。
けれど神殿は医学に長けた者が多い場所で、簡易的な病院としての機能も持っているから任せておけば大丈夫なはず……。
神官長が健康に問題はないと診断してくれたし、ウトゥヌ様もついていている。
わたしに出来ることは、ただ無事に起きてくれるのを祈ることだけ―――。
絵美佳に会うと、皆と同じ女性神官見習いの衣装を身につけていた。
裾に唐草模様に似た金の刺繍がぐるりと施されているゆったりとした白いチュニック。
それにくるぶしまでの丈のぴたりとした黒いレギンスに似たパンツだ。
「ど? 結構似合うだろ?」と、ドヤ顔の絵美佳。
昨日の格好よりも記憶の中の彼女の雰囲気に近くて、なんだか懐かしくなった。
なぜ見習いの格好をしているのかと聞けば、客人扱いがイヤで自分から働きたいと言い出したのだそう。
彼女も神子候補だから常人以上の魔力を所有しているはず。
神官としての素質は問題ないのだと思う。
でも「お客さん扱いされるより働く方が気楽」だなんて、明るく元気な「絵美佳ちゃん」らしいな。
そんな絵美佳の初仕事として、わたしが付き添って二人で街へお使いに出ることになった。
神殿で常用するものや食料は配達されるものが多いけれど、細々したものや急に入り用になった物を買い出しに行くのは見習いの役目。
外出時は、いつもウトゥヌ様が一緒だ。
けれど、今日はファレスを診ていてもらうようにお願いした。
過保護な彼は、何かあればすぐに念じて(テレパシーで)呼ぶように、と釘を刺して見送ってくれた。
ウトゥヌ様との距離が遠くなければ、心の中で強く呼ぶだけで彼に伝わるんだって。
神と神子の絆って凄い。
この街は神殿を中心にして形成されているため、利便性がとても良い。
商店や集会場、学校、役所など、主要施設がすべて徒歩圏内だ。
絵美佳に案内をしながらゆっくり歩いても、目的の雑貨店には十五分程度で到着した。
顔見知りになったばかりの、気前の良い店主に挨拶をする。
彼は絵美佳を見て「へぇ」と驚いた声を上げた。
「君たちよく似てるねー。こっちはお姉さんかい?」
「ちょっとオッサン、アタシのが年下なんだけど。それに姉妹でもなくて、普通の友達だよ」
友達!? 今、友達って言った!
うー、これは嬉しい。
知り合いでもご近所さんでもなく、ちゃんと「友達」だと思ってくれてるんだ!
ちょっと感激で涙が滲みそう……。
「え! あーこりゃ失礼。よく似てるし、君のがしっかりした感じだからさ」
「……おじさん、それはわたしがぼんやりしてるように見えるってこと?」
「あ! いやいや、これまた失礼。君は―――って、ああもう余計な事を言うのはやめるよ。ほら、サービスしてあげるから二人とも機嫌なおして」
―――おじさん、何を言い掛けた?
しかし似てると思われるのは分かる気がする。
わたしもこちらの世界の人を見る時、同性で歳も近く、髪の色や体型が似ている人が並んでいると、判別に悩む時があるから。
外国人は外国人を見分けにくいものなのかもしれない。
買い物を終え支払いを済ませると、おじさんに「ほら、サービスだ」と何か手渡された。
わたしと絵美佳に一つずつ差し出されたそれは、小さなガラス玉のようなものに、焦げ茶色の革紐を通したペンダント。
紐の端を摘んで目の前に持ち上げて見ると、太陽の光を通して乱反射した。
ごく淡いローズピンク色をしたガラスが、キラキラと光を集めて周囲に虹が散る。
「わー、綺麗……」
魅入っていると絵美佳も真似して虹を作り出し「ホントだ。凄いなー」と感嘆の声を上げた。
「うちのかみさんの試作品なんだ。もう少し改良してから店に出そうと思ってな。良かったら持っていきな」
「え。こんなキレーなの、タダで貰って良いのか?」
「ああ、その代わりまた頼むよ」
「ちゃっかりしてんなー。でもありがとよ」
「ありがとうございます! 大事にします!」
わたしたちは早速それを首から下げてみる。
「うん、いいね。似合う似合う。益々姉妹みたいだ」
絵美佳と顔を見合わせる。確かに同じ服で、同じペンダントをしたわたしたちは仲良し姉妹に見えるかもしれない。
少し―――いや、かなり照れくさい。
絵美佳も人差し指で頬を掻いているから同じ気持ちなのかもしれない。
不意に、小学校でお揃いの物を持っている子たちが羨ましかった思い出が甦ってきた。
―――これでまた、わたしは初体験をしたことになる。
順調に引きこもりだった分の人生を取り返している気がする。
わたしのやり直し人生は意外と順調だ。
絵美佳のおかげだね!
おじさんにもう一度お礼を言ってから店を出て、二人してガラス玉を覗き込みながら歩いていると、絵美佳が「あれ……?」と何かに気づいたように訝しげな声を発した。
その数秒後、突然の大声。
「うあああああああああ!」
「わわわ、なにごとっ!?」
周りの人もびっくりした顔でこちらを見ている。
絵美佳はそんなことには全く頓着せず、今度は猛ダッシュ。
彼女が向かった先には―――ゴスロリ風の黒いフリルたっぷりのドレスを纏った少女がいた。




