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災厄を撒き散らすは、彼 02

 家に戻ってため息をつきながら部屋に入る。

「おかえり」

 ああ、いると思ったけどさ。

 ヒルが椅子に座って、机に置いてあった本を読んでいた。

「ただいま、ヒル」

「両親死んだんだな」

 彼がここに来るのは何も私だけが理由じゃない。

 父が彼を気に入っていたので二年前もよくこの家に招かれていた。

「そうだよ」

「残念だ。彼らにも会いたかった」

 ヒルがそういって勉強机の椅子から立ち上がる。

 私はカバンを床に置いて自分も座り彼を見上げた。

「街に来るなら、皆にばれないように来れば?」

「無理。残念なことに有名人でね」

 彼は皮手袋を外した。

 ざらざらの肌は病気によって触れただけで他人を侵す。

 私、以外は。

 喪服のような格好は暑くないのかと少しだけ心配になる。

「夏でもその格好はどうかと思うけど」

「暑さも寒さもほとんどかんじないから。でも不思議で、文に触れているときは温かいがわかる気がする」

「光栄なんだろうね」

 ヒルは床に私と同じように座るとその手を私の手と重ねた。

 私以外の人も直接接触や皮膚の粉末が粘膜につきさえしなければいいだけなのに。

 毒自体は変化に強くないから加熱や消毒で弱毒化するし。

 殺菌すればいいんだっけ?一度しか彼から説明を受けていないからうろ覚えだ。

 他人が絶対的な忌避を見せる理由は死ぬからなのだろうか。

「痛くない?」

「オレはね」

 ヒルはこのときだけは大人しい。

 悪意なんて感じられないし、道すがら犯罪を重ねるような男には見えない。

 手首の血管から微かに感じる脈拍も落ち着いている。

「どうなるか……わかって戻ってきたの?」

「ああ。それでも文に会いたかった」

「そう」

「綺麗になった」

 ヒルのざらざらに乾いた言葉が私をなでる。

「ありが……とう、ちょっと嬉しいかな」

 耳から伝わった言葉が体を震えさせる。どことなくそれが嬉しい。

「お茶入れてくる。紅茶でいい?」

「ああ。笹部先生も千里も元気そうだな。千里はとても見違えた」

「そうだね。そういう話をしよう」

 台所に降りてから触れた片手を抱え込む。

 鼓動が早いのがとまらない。


 包帯のスキマから彼は器用にお茶を飲む。

 ちょっとぬるめにして、彼の飲みやすいようにした。

 温感が乏しいから気をつけないと彼は火傷をする。

 まあ実際はすぐ治るから気にも留めていないようだけれども。

 味覚もあまりないはずなのに、私が入れると美味しいといってくれる。

「そういえば、文のお姉さんに会おうと思ったんだ」

「ああ。史緒姉は今回先に裏のほうの依頼受けたから」

「昨日の夜に窓から見たよ。優しいお姉さんだね」

「優しすぎるんだよ」

 一度話をしてみたいとヒルが呟きながらお茶請けのお団子を口に運ぶ。

「あの、さ。ヒルはいつまでいるの?」

「しばらく。少し気なることがここにある」

「気になる?」

「そう」

 詳しいことはヒルは無言の中に隠してしまう。

 それから、会わなかった2年の間にあったことを話して、高校のことも話して。

「名前覚えておこう。うっかりで殺さないように」

「子供でも女でも容赦ないものね」

「全て等しい人間だからな」

 相変わらずの判断基準に安心してしまった。

 彼が立ち上がる。

「さてと、帰る。……文」

「何?」

「オレと、来れないか?」

 差し伸べられた手を、私は少し考えて手に取る。

「駄目、タイミング悪いよヒル。姉が戻ってなかったら考えてたかもしれないけど」

 彼の皮手袋を持って、その手に乗せた。

「そうか残念」

「待機している警官さん、殺さないでね。下まで見送らないから」

「わかってる」

 部屋の扉が静かに閉じられた。

 カーペットに横になると、彼の歩く振動音が聞こえる。

 ヒルが階段を降りて外に出たのをそれで確かめて体を起こす。

 空になったカップを見ながら頭を抱えた。

「やばい」

 何がやばいのかはわからないが言葉だけが先行した。

 下田さんが私の声を呼んでいるのが遠くで聞こえる。

「はい」

 ちゃんと反応をして、立ち上がった。


 ご飯の準備をしていると、ちゃんと姉は帰ってきた。

 てっきり今夜は帰ってこないと思ったのだけれども。

 姉妹二人でのご飯。

 今日は空気が重い。

 姉は怒っているというよりは不貞腐れている。

 そんな顔されたってさ。

「私、史緒姉がAIの仕事でヒルについて受けなかったら話してたよ」

「……それはつまり、今の私には話さないことがあるってこと?」

「そういうこと。どこまであいつらに聞いた」

「ほとんど。かな」

 トセとレイめ、やっぱり嫌い。

 ほとんどっていったいどこまでだ、うまく秘密を持たないと今の姉にはばれる。

「ならそれ以上話すことなんてないよ」

「あのね、文」

「史緒姉、ヒルはいい人だよ。それを悪く言うなら、私も考えがある」

 ご飯の途中だけど立ち上がった。

 姉の顔を見れば、不安と苛立ちが混じっている。

 ギシギシとどこからか嫌な音が聞こえてきそうだ。

 軋轢のような心のきしみ。

「それが、私にだけだから。周りが排除しようとするのもわかっている。けれども、それっておかしいことじゃないんだ。いい子すぎるのも嫌だもの」

 嫌だな、うまく言葉にできない。

 階段を上る間に深呼吸を二回して、自室に戻ってからベッドに倒れこむ。

 枕に頭を沈めたら何か硬いものが頭に当たった。

「……ヒル」

 地図がひとつ、携帯電話がひとつ置いてあった。

 電話のアドレス帳にの中に入っている番号はひとつだけ。

 嬉しいのか悲しいのかわからないまま、私は電話を握り締めて目を閉じた。


 さすがに今日は何かが入っているようなことはなかった。

 血のにおいはこびり付いていたが先生が片付けてくれたのだろう、見た目はいつもどおりの下駄箱。

「文。ご飯一緒に食べよう」

 授業を終えた小向先輩が教室に顔をのぞかせてお弁当箱を揺らす。

 いつもと異なる昼休みに少しだけ珍しそうな顔をみながする。

「はい、ご一緒します」

 包帯を頭に巻いていたし、足も少しひきずっていたが彼の対応はいつもと変わらない。

 そんな彼と昼食を取るために、昼食の入ったビニール袋を取り出した。

「アイちゃん」

 檜が心配そうに声をかけてきたが一瞥するだけにした。

「またね、檜」

 そっけなくそういって、小向先輩に駆け寄る。

 千里が黙って檜に近づくのが見えた。お願いねと思うしかない。

 生徒会室でお弁当を広げる。ここも昨日ぐちゃぐちゃになっていた長机などは整頓されていた。

「お弁当なんですね」

 小向先輩のお弁当を覗けば、かなり栄養バランスを考えられて作られたお弁当の中身が見えた。

「ヒルがいるとな。あいつどこに悪意置いてくるかわからないし」

「違いないです」

 コンビニで買ったお弁当に毒とかよくある話だ。

 以前はそれで数十人単位で病院に運ばれたからな。

 確かあのときはおとそに手をひたしたんだっけ。

 でも今回は冬じゃなくて夏な分服装が目立つから発見確率は高めだと思う。

「檜君たち露骨に避けたね」

「怖いですから。わかってくれると思いたい」

「そっか」

 先輩と逆に私はコンビニのサンドイッチを開けた。

 姉を避けるためにお弁当じゃなくてサンドイッチに切り替えたのだ。

「何人死ぬかな」

「さあ?普段はこの市にいないと思いますから」

 まだ血の残っている生徒会室に誰も近づこうとは思わないだろう。

 普段は生徒会執行部のメンバーがそろうここも今日は遠くで声が聞こえるぐらいだ。

「ギルとトミーが心配していた」

「彼らにも注意を促しておきたいですね。だいたい……」

 サンドイッチを口に入れたところで携帯電話がなった。

「もしもし?」

「お昼休みか?」

「ええ。どうしましたヒル」

「今ひとり殺そうかと思っているんだけど、浅木って男知り合い?」

 ……ヒルの律儀さに救われたな浅木さん。

 サンドイッチを食べながら答えた。

「姉の知り合いですね」

「そうか。腕が立つが準備不足。足の骨一本だけで済んだタフネスだ」

「強いと思いますよ、彼」

「ちょっと貰っていくよ。こいつの食事に興味がある」

「わかりました。姉にそう伝えておきます」

「食べに来る?」

「いいえ、あまり大きく動くと老公に怒られますから」

「いいこだな、文」

 電話が切れる。

「ヒルなんだって」

「食人に興味を持ったようです」

 小向先輩が頭痛の気を抑えるようにこめかみをもむ。

「五体満足だといいけどね」

「大丈夫でしょう、たぶん。サディストではありませんから」

 サンドイッチを食みながら次の彼の行動を考えた。

 順当に行くなら材料の調達か。


「ただいま」

「あ、お邪魔してます文ちゃん」

 今井さんと沙門さんがが居間にいた。

 史緒姉の姿が見えない。

 普段彼らがいるときは何か荷物を取りに行ったりしない限り居間か台所にいるのだが。

「史緒姉は?」

「今ちょっと愛染さんとケンカして自室にこもってます」

「浅木さんのことで?」

「え、すごーい!何でわかったの?浅木ったら駅前で突然行方知れずになって……」

 続きそうになった言葉をさえぎるように伝えた。

「だってヒルから殺していい?って連絡ありましたし」

 二人がこちらを向いたまま固まる。

「えっと」

「いちよう、殺しては駄目といったんですけど。たぶん今人肉解体してるんじゃないですか?足の骨一本で済んだらしいですよ」

 目を白黒させている今井さんをの横をすり抜けて台所の冷蔵庫を開けて麦茶を取り出す。

「文、説明してもらえるかい」

「簡単ですよ沙門さん。ヒルは私と連絡取れるって話です」

 麦茶は煮出したものが美味しいと思う。

 冷やすのに時間がかかってしまうが、水出しでは得がたい風味が出る。

 沙門さんが顔をしかめた。

 この人は姉のことについて考えているときは比較的顔に思考が出やすい。

「……史緒が頭抱えている理由か」

「あの場に私がいる理由をきちんと考えるべきだったんですよ」

 後悔先に立たずと笑って言って、冷蔵庫からお手製プリンを取り出す。

「今井さんプリン食べます?」

「ありがとー。もらうね」

 後ろから肩をぐいとつかまれた。

「何ですか?」

「場所は」

「わかりません、うざい」

 にらみ合いをしていたところを、仲介に入る今井さん。

「愛染さん、文ちゃん怒らせちゃだめです。文ちゃんもかわいい顔が台無し」

 さてとここでどう出ようかな。

「そうだな、沙門さんが史緒姉と昨日私が帰った後何を話して聞いたか、それを教えていただければチャンスはあげますよ?」

 今井さんにプリンを渡してから、ヒルとの連絡用の携帯電話を目の前に出す。

「また下に戻ってきますから、考えておいてください」

 これがただ、AIとして仕事を請けただけなら私の対応も変わっただろうが、レイ経由の依頼なら私は容赦をしないし、敵対心を出しておく。

「……赤沼を呼んである。そのときで構わないか?」

「ええ。姉のフォロー、私がしますか?それともあなたが?」

「オレがやる」

 なら手は出さない。

 部屋に戻って枕もとの地図にさっそく点をポチリと打った。

 駅前で事件そのいち。


 ノック音に勉強机でのうたた寝から目覚める。

 地図はいちようしまっておく。

「はい」

「赤沼だ。文二人で少し話がしたい」

「どうぞ」

 目をこすりながら、ドアのほうへと体を向ける。

 少し寝すぎたかなご飯時だ。

「寝ていたか?」

 全身黒服仕事仕様の赤沼さんにうなづき返した。

「少しだけ。それで何か?」

「浅木のことで取引をしたい」

 その提案に目を細めてしまった。

 うん、やっぱりこの人とは話がしやすいな。

「提示条件は?」

「AIの内部情報と引き換えにヒルの情報について。外には出さないし、そちらも外に情報を流さないことだな」

「プライベート情報ではなくて、一般的に一年ぐらいかけて調べれば出てくる情報でいいですか?病気のこととか、犯罪経歴とか」

「ああ。とにかく情報が欲しいと今井も言った」

 ……いけないいけない口元がゆるむ。

 おそらく彼独断だ。

 姉や沙門さんがそんな条件を出すとは思えない。

 その条件提示を私が飲む理由がわからないはずだ。

「いいですよ。ありがとうございます」

「決まりだな」

 私は本棚の偽造本を抜き出して一枚のSDチップを取り出す。

「どうぞ、データ化していたほうが早いでしょう?コピーとっておいたんで、あとは携帯の電話番号ぐらいかな?」

 赤沼さんがそれを受け取り、扉を開ける。

「行くか。外食だが、もう3人は先に行ってる」

「史緒姉相当まいっているな。」

 私をおいて赤沼さんと二人きりにした。

 一度許しているとはいえやっぱりちょっといつもと行動が違う。

「言ってやるな、それだけ浅木に信用を置いていたんだから」

「強いだけじゃ駄目ですよね、世の中」

「まったくだ」

「赤沼さんのほうが好きですよ、浅木さんよりもね」

「こいつは」

 ケタケタ笑って彼の後ろをついていく。

 脈絡の無くつぶやいた自分の言葉が面白くて仕方がない。

 苦笑する彼の姿もまた笑いを誘うポイントの一つだ。


 ファミレスにてサラダをひたすら食べる。

 本日はそんな気分なのだ。

 今井さんは赤沼さんから手渡されたチップをタブレットで読みこんで黙読している。

「確認終わりました。条件のデータはこちらのチップに入れておきました。個人連絡先は抜きですが」

「ありがとう、今井さん」

 姉はその様子を黙ってみているし、沙門さんはちょっと気に入らなさそうだった。

 データを受け取って、携帯電話につなぐ。

 探し物データはどこかなっと。

「何探しているの?」

「んふふ、秘密です。っとあったあった」

 その項目を見ながら私はヒルに電話した。

 少し長めのコールの後に出るのは浅木さんだった。

 心配はしていなかったがちゃんと生きているようだ。

「文?」

 番号表示に名前が出たのだろう。こちらの名前を彼が呼ぶ。

「浅木さん、ちゃんと生きてましたね」

「生きてる生きてる、史緒いる?」

「今ものすごく不機嫌そうにエビピラフ食べてます」

 電話の奥で笑い声が聞こえた。

 それと同時に悲鳴が聞こえて、浅木さんが叫んでいる。

「ヒルうるさいから轡外さないで!そっか、怒ってる史緒に変わって?」

 姉に電話を渡して、姉のピラフを取って自分が食べていたシーフードグラタンをそちらにうつす。

「……一期君?」

 スプーンを口にくわえたままなんてお行儀の悪いことをしてしまった。

 姉が浅木さんを名前で呼ぶなんて初めて聞いた。

「ううん。怒ってないよ?怒ってないからね?ただね、心配したんだよ?」

 いや史緒姉怒ってるでしょ、たぶん浅木さんもわかってるよ。

「いつ戻ってくる?うん、うん。仕事忘れてないよね?うん。一期君だめだよ」

「史緒さんが学生時代のしゃべり方に、お説教モードだ」

「今回は連絡をきちんとしなかった浅木が悪いからな。今井、タバスコ取ってくれ」

「はいどうぞ。でも赤沼は妙に文ちゃんと仲がいいですね」

 今井さんはそれが不満そうだった。

「ある意味相思相愛だからな」

「ああ、そうですねある意味。正反対ですが」

 タバスコをかけられたピザが赤沼さんによってお皿に乗せられる。

 食べろ、らしい。どうせならタバスコ前をいただきたかったが黙って口にする。

 あ、今までここのピザ食べたこと無かったけど美味しい。

「ロリコンだ」

「……勘違いしていないか今井。何でも恋愛感情につなげるのはお前の悪いクセだ」

「え、違うの?」

「どう考えても違うだろう」

 赤沼さんのため息に、なんだかんだ言ってこの人は今井さんと仲よしだと思う。

「うん、で一期君。そこになんで久星君がいるのかな?え?ああ他の2人もいるの、そう」

 史緒姉、せっかくのもらい物の携帯電話握りつぶすような勢いですね。

 ピザを片付けたところで電話を変わる。

「浅木さん。ちょっと久星にかわって?それとも精肉解体中ですか?お肉が彼だったらしゃべれませんね」

「いやいや、さすがに弟分はバラさないって。のびかけてる大月でいいかな?」

「はい」

 大月がぐったりした声で電話にでた。

 そりゃ元々彼、血は苦手な加工担当だしな。解体作業は肌に合わないのだろう。

「大月、私千里に説明させたはずだけど」

「ええ、わかってます。すいません、手伝わなければ兄が解体中になっていたので」

 さすが新さん。ヒル見てまっすぐサドっけ走ったはいいけど返り討ちだったかな。

「……そう。解体の手伝いだけ?」

「僕はこれから加工の話を。終われば帰されるみたいなので」

「帰されたら即効でヒルと関わった証拠消しなさい。彼を専門で追う賞金稼ぎがいるぐらいなんだから。だから今回関わるなって話を千里がしたの。わかった?」

「わかりました。檜が彼を気に入っているようですが、無理やり引き剥がします」

「お願い。私、檜を殺したくない」

 囁くように呟いたので、この言葉は大月にしかわからなかったはずだ。

「させません。ヒルさんが替わるそうです。手の血はぬぐわないと携帯が壊れますよ」

 大月もやばいんじゃないか、毒舌が無いのはともかく声が優しいし。

「文、ベーコン作ったら食べる?」

「食べてもいいけど、私の友達巻き込まないで」

「男友達と仲がいいのは文らしいと思ったけどな。文、犬がお前の家を見張っているから気をつけて」

「うん、ありがとうヒル。……また来てくれる?」

「会いに行くよ」

 含み笑いで返されて、そこで電話が切れた。

 次はいつ会いに来てくれるかな、しばらくは食肉加工に忙しいだろうけど。

 気づけば、グラタンを食べ終わった史緒姉が私をじーっと見ている。

「何?」

「別に、お姉ちゃん寂しいわけじゃないし。別に文の恋路を邪魔しようとかそんなこと考えているわけじゃない。でもね、ごく一般的な姉のお節介として、やっぱり気になるだけで」

「……は?」

 何をいいだすんだこの姉は。

 目を点にして姉を見ていると姉に今井さんが話しかける。

「やっぱり史緒さんもそう思いました?」

「だよね、有梨子。やっぱりそう見えたわよね。沙門も見えた?」

「見えた」

 訳がわからなかったので赤沼さんに目線をうつして尋ねるように首をかしげた。

「好きか?ヒルと呼ばれる男のことが」

「え、好きですけど。それが何か?」

「それは異性として?それとも親愛や敬愛のたぐいとして?」

 ああ、そういうことか。

 私ヒルのことどう見ているの……かって……。

「……いや、うん。傍にいるの苦じゃないし。話を聞いてもらうの好きだし。素敵だし。紳士だし。あれ?えっと、好き?なのかな?わかんないよいきなりそんなこと言われても」

「文ちゃん落ち着いて。まあそれでわかるけど。大人だからなオレら」

 頬が熱い。

 意識している証拠だといわんばかりに。

「ちょっと顔洗ってくる」

「……文、ヒルはあなたに酷いことはしない?」

 史緒姉の問いに、私はうつむきながらもうなずいた。

 とてもじゃないが顔は上げられない。

「そう、なら好きでいいと思うわ。ごめんね、変なこと聞いて」

「別にいいけど。あああ、もう史緒姉の馬鹿」

 こんなことで顔赤らめてるときじゃないのに。

 気になって、洗いにいく途中で姉のほうを振り向いた。

 目線があうが、いつもの笑みを私に向ける姉がいるだけだった。

 悪いけど史緒姉の秘密は少し抜かせてもらう。

 まずはAIのことから。

 それと、姉が怖いの正体を。

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