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テクニカルアタック

 自転車をこいで家に戻ると姉のほかに沙門さんがいた。

「いらっしゃい、沙門さん」

「おじゃましてるよ、文ちゃん」

「お帰り文」

 テーブルに資料広げているし、仕事の話か。

 お邪魔するのも悪いし部屋にいよう。

 そう思っていたら、インターホンが鳴った。

「私でるね」

「ああお願い」

 家は便利なスピーカーフォンがついていないので、玄関まで歩いていく。

「はい?」

 ロックを開けて顔を出す。

「やほ、文さん」

 浅木さんと知らない男女が二人。

「いーれて?」

「ああ、どうぞ姉もいますので。でもその前に」

「ん?」

 スリッパのまま某師匠直伝の蹴りを彼に打ち込んだ。

 あっさり勢いを殺されてしまった。わかっていたけどね。

「……浅木、お前また何かやっただろ」

 後ろで見ていた男性がボソリと突っ込む。

 ええ、この人あの3人を連れてチャレンジメニューに突撃しました。

 久星に聞いたときは唖然としましたよ、しかもHPにレポートで載ってたし。

「念書忘れましたか」

「あ、いっけね。つい。ほらHPに載せたのは表の記事だけだから」

「裏の記事もあるのか!」

 私が叫んだのを聞いて姉がやってくる。

「どうした……って」

 威力は弱めの蹴りが浅木さんに飛ぶ。

 私ももう一度チャレンジした。

 だがしかし、姉妹そろってさばかれた。

「何で。連れて。来た?!」

「今井休みだったし、赤沼もちょうど空いたから」

 史緒姉のため息がその場に吐かれた。


 AIの初期メンバーが我が家に揃う。

 姉が2番目に若いという発言をしたが、その通りだった。

「初めまして、えっと文ちゃんですね?私、今井有梨子いまいありこです。よろしくね」

「初めまして。会田文です」

 目の前で今まさに握手を交わした女性は少女で通る。

 化粧をしていなければ私や千里と同じと言っても違和感が無い。

 リボンを編みこんだ髪がおしゃれで、フェミニンなレースが縫い付けられたワンピースも似合っている。

「赤沼も挨拶しないと駄目ですよ」

 呼ばれた男性は、ちょっと私のほうを見てから黙った。

赤沼生守あかぬまいくもりだ。すまんな、家に入って」

「別に、浅木さんの暴走には慣れました。会田文です」

 目の色が沈んだ人だ。

 握手はしないが、その手には無数の火傷の跡や仕事人の様子がうかがえた。

 A・IとI・Aだな。

 手の感じで見るに今井さんが情報で、赤沼さんが技術か。

「文、お茶いる?」

「うん。飲む」

 史緒姉はもう今日は何も言うまいと決めたのだろう。

 今井さんと話しながら姉は緑茶をいれている。

「文さんー」

「何ですか、カニバリスト」

「今度檜たち4人で美味しい料理作るから、遊びにきてほしいな」

「あの3人に技術を見に付けさせるのは構いませんが、心まで植え付けませんように」

 返答にならない返答をする。

「ああ、これだよ。姉妹クオリティ。素晴らしい」

「姉と妹だとニュアンスが大分異なると見ているがな」

 赤沼さんが持ってきた菓子に手を伸ばす。

「だからあなたの標的にはならないと思いますよ。マーダラー」

 同じ菓子に手を伸ばした。

「史緒が言ったか」

「いいえ、何人も見てきたので。9割は死ぬか発狂するか捕まっているので姉のように野放しにはしませんよ。しかも自分の手元に置いておくと訳分からない」

 つまりは経験則なのだ。

 日常的に殺人をこなす人ってどうしてこんなにも深い色の目をするのかも疑問だけれども。

 考えながら開けようとすると開かない袋に四苦八苦する。

 赤沼さんは私の手から袋を拾い上げて開けてから渡してくれる。

「オレはお前みたいな人間を殺すのは金詰まれても断るな」

「あら、ありがとうございます」

 美味しいお菓子だ。

 二人でその後は黙ってお茶が来るまでお菓子を食べていたら、姉に仲良いといわれた。

 違うと思ったが口にはださない。

「んで、何か来て面白かった?」

「はい!」

 今井さんが嬉しそうに笑う。

 この5人の中で癒し担当だな、彼女。

「文ちゃんも可愛いし、史緒さんいいなぁ。私も妹がほしいですー」

「あはは、貸してあげないわよ」

「けちー」

 そんな様子を見ながら沙門さんに呟く。

「私と姉の会話より姉妹のように見えますが」

「うん。否定はしない。というか、文ちゃんはそのままでいいと思うぞ、史緒とのバランスで」

「そうですか」

 黙ってその様子を見ている赤沼さんを私は観察する。

「どうした」

「間違ってたらごめんなさい。姉の恋人?」

 姉に聞こえないように小声で尋ねる。

 男3人がお茶をこぼしたり、吹いたり、お菓子でむせたりしている。

「……この中で一番そう見えるというなら、悪くない気分だな」

「違うのか。あ、布巾どうぞ」

 お茶で手がぬれた彼に布巾を渡しながら、じゃあ姉には恋人がいるのだろうかと考えた。

「文さん、それ史緒の前で厳禁な」

 浅木さんが唇に指を当てて言ってきた。

「姉にテクニカルヒット?」

「うん、しかもそれに無理矢理気づかされた相手が、とんでもない奴で。まだ克服していると思えないから」

 目が笑っていない。

「いないなら、それでいいや。しかしこの手も使えなくなったな」

「この手?」

 友人に話したように、姉の仲間にも話す。

 ……そんなに沈黙を生むような問いなのだろうか、これ。

「史緒が怖い、か」

「ええ、かなり。出来れば即座に解決したいレベルで。そうなった原因の一端はあなた方にあると推測してますが、そうしたところで解消する訳ではないので」

 困ったものだ。

 私がちゃんとしないと姉、暴走するからな。悪くも良くも。

「文。少し出かけれるか?」

 赤沼さんの提案にコクリとうなづく。

「史緒、妹少し借りるぞ」

「え。は?だめ!」

「殺さなかったら一番安全なのはこのメンバーで誰だ?」

「そりゃあ赤沼だけど……」

「安心しろ、悪くて一人妹が消えるだけだ」

 そりゃ私殺されてしまうじゃないですか。

 冗談いいそうに無い人だからよけいに口が悪いな。

 ああ、でもその後の一言のほうが肝が冷えたよ。

「それに殺すならお前が浅木とじゃれてる時に殺している」

「んじゃ、姉さんちょっと行ってくるね」

 お散歩お散歩。


 歩きで川沿いを二人で並んで歩く。

「史緒のことだ。ろくに家出してからのことを話していないだろう」

「あたり。姉は隠す人ですから。いつか私にばれるのに」

「……少しなら話せるぞ。もっとも、あの5人の中で一番最後に入ったから答えられないこともあるが」

「どうして姉は戻ってきたのか、が一番聞きたいですね。」

 おそらく核心を突く質問だ。

「一段落させた。オレがな。見るに耐えなかったから」

「誰か殺しましたか、姉のために」

 隣の男が声をころして笑っている。

「オレはそう見えるか」

「ええ。何となく」

 雨上がりでじっとりと濡れた緑の上を靴で踏みしめる。

 この感触はなかなか心地よい。

「お前を怖がらせるために戻ってきたんじゃないのは確かだ。アレはそういう女だ」

 その言葉の語尾に『お前も妹ならわかるだろう』というセリフが聞こえた気がした。

「史緒姉はそれで生きられますけどね、私はそうは生きれないんです。だいぶ矯正して、こうですから」

「矯正可能ならいいさ。浅木なんかは今でも危うい人生進んでいる。分かっているから史緒に毎回叱られているんだが」

 姉のお叱りは感情がだだ漏れる。

 いつものことだ、昔から変わっていない。

「赤沼さんは、姉のこと殺したいんですよね?」

「いつかな。今は仕事が忙しい」

 良い人だこの人。私に関わってきた殺人者さんとは一味違う。

 ぷろふぇっしょなる、だな。

 私は立ち止まって、彼の手をとった。

「姉のこと、よろしくお願いします」

 指に口付けをするふりをして、にやりと彼の目をみながら笑った。

「……史緒もこれぐらい悪い女だと殺しやすいんだが」

 呆れられながらも頭を撫でくりまわされるのも悪くない。

 でも姉の5年間にこんな人たちがいたなら少し安心できる。

 私の5年間は姉には見せられるものではない。

 それこそ彼女が泣いてしまう。

変人にはそれ用に、普通の人の前でもそれなりに

いもうと と あね が二人

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