食人鬼による殺人事件 04
何が何でも魚と言いきって、回るお寿司を食べにきた。
「オレ肉がよかったなぁ」
「栄養偏るぞ」
「浅木さん。お魚もお肉ですよ。魚肉」
浅木さんと沙門さんを眺めながら赤身を口にする。
黙ってれば、世間一般でいう美男だ。
「あ、それならオレは人様の前では言えない肉が好きだ」
「その言い方だとオレの好物も当てはまるな」
「黙れ、この変態ども」
姉は穴子を口に放り込む前に呟いた。
私も心の中で発言していたのは内緒だ。
「史緒姉、次エビにしよう」
「ん。玉子焼き後で箸休めで頼もうか」
胃のキャパシティはお互い少なめなので、姉妹で一皿を分け合う。
5年前と同じ連携が取れるのは血のなせるワザか。
「姉さんの仕事って儲かるの?」
半日の回転寿司は今まで誕生日でしか来たことの無い高いほうのお店だ。
お詫びのこともあるだろうが、ちょっと気になった。
「少なくても一皿100円の一番下の回転寿司じゃない店に来るぐらいには。それに派遣組は歩合制なのも関係しているかしら。必ず適した仕事がいつもあるわけじゃないし、皆気まぐれだからね」
姉は、4人。と言葉を口にした。
おそらく歩合制じゃない人間の数だ。
「姉さんと沙門さんと、あと2人?」
「頭と営業と技術と情報。私、メンバーの中で2番目に若いんだけど」
「いいことだよ。お仕事できてるんだもの。あ、貝取って」
「はい、貝柱」
本当ならもっといい気分で夕飯食べてる予定だったのに。
「……やっぱ姉妹だ。オレ来て得した。眼福だよ愛染」
「んー、目に毒だと思うのは性だ」
この2人、そんなことしか考えてないのか。
しかしそれを無視して食に走っている姉も姉だし私も私だ。
食事の邪魔は誰もさせない。ってか邪魔されると悪い意味で体が痩せる。
胃のキャパシティと体の消費カロリーのバランスが壊滅的なのだ。
「依頼、あれだけじゃないよね沙門さん」
「女の子の親からの依頼は全てこなしたよ」
「そう。浅木さんにあえてああやって女の子連れてくる必要があったんじゃないかと思ったのだけど、気のせいか」
姉のお寿司を持っていた指が止まる。
姉さん、本当に心のひっかかりと思考停止と思案中はわかりやすいんだから。
「だから、沙門に送り届けさせたのってことかな。文」
「別にいいけど。これ以上友達に関わると突っ込むよ。わかってるでしょ史緒姉」
「手厳しい」
「別に。この中で一番気心知れてるだけ」
「……気をつける。お互い友人は大切だものね」
この会話の間にも箸は進んで2人で協力して積み上げたお皿の数はちょうど10枚。
どうやら思い出したらしい姉は、目線で男2人の言葉をさえぎっていた。
正しい。聞くと爆弾が飛ぶネタだし、姉はそれを重々承知している。
「どこまで知ってる?」
仕上げの緑茶を冷ましながら問う姉の一言が、今日一番に鋭い。
「知らないことを幸せと思えないのかな、姉は」
その返答には私も浅木さんに発した言葉より冷たさを出した。
数拍の無言。
「「姉妹の会話じゃないからやめよう」」
同じタイミングで発言し、場のブレイクスルーをして話題を変えた。
解決策は、最後の一皿を何にするか相談すること。
「まさか史緒の会話に入りこめない時が来るとは」
「愛染。メシに集中しよう。このままだと夕飯中途半端で終わる」
どうしても量が少ないから男の人と来ると彼らの食事を待つことになってしまう。
姉の携帯電話に着信が入って、彼女が席を外す。
「文さんは、史緒と仲悪いの?」
浅木さんはその隙に訊いてきた。
「いいえ。姉のことは好きですけど。仲も良いですよ、たまに一緒にお風呂入るぐらい」
「そりゃ、拝みたいって言ったら史緒に叩かれるな。そういえば、自己紹介まだだったか」
ごそごそと財布の中から一枚の名刺を彼は出して差し出してきたので受け取る。
グルメライター 浅木 一期
『一期食道楽』というホームページの名前を見て思い出す。
前に全国ニュースで話題に出てた。
「食品偽装を味で見破った人でしたか」
「そう。あれは許せなくて、ちょっと史緒に怒られながらも暴いた」
大きな企業の食品偽装だったから、圧力とかがあったのだろう。
「ホームページ見たことない?」
「食は足で稼ぐと思ってるので。あまりライターさんの記事を目に留めないから」
「普段はこんなことやってるよーってことで、よろしく文さん」
「会田文です。よろしくお願いします」
この時初めてちゃんとあいさつを交わして、相手に笑顔をむける。
浅木さんは釣られて笑って、頬をかいていた。
「ごちそうさま。ならオレも名刺……」
「間違ってもホストクラブのほう出すなよー愛染。史緒に愛想つかされるぜ」
からかわれて、彼は名刺ケースから白地に黒文字の普通の名刺を出す。
よろずや AI
営業担当 沙門 愛染
……どこからつっこもう。よろずやは姉の何でも屋発言で聞いていたけど。
主に名前とか苗字とか名前とか。
浅木さんの言ってたのって本当にこっちの愛染だったのか。
「やっぱそうなるよな。マジで本名?って」
「お寺関係……ですか?」
当たり障りの少ない苗字について訊ねると彼は頷く。
「実家が寺で。毘沙門の沙門だよ」
「ってことなら納得なんですかね、真言系かな」
名前からお寺の宗派をなんとなく推測する。
愛染は愛染明王という密教系の神様の名前だ。
これ以上は何も聞くまい、彼のプライバシーの問題だ。
なので、姉の会社へ方向を変える。
「これ、どう読むのかパターン考えてましたけど、アイなんですね」
「史緒も含む初期メンバーの名前がね。アイが入るか、イニシャルがA・IかI・Aなんだよ」
浅木一期、愛染、なるほど。私たちの苗字は会田だ。
「単純が一番でしょう名前なんて」
姉が戻ってきた。食べ終わったし、店を出るにもいい頃合だ。
「まったくだね。それじゃあまた明日。帰るよ浅木。」
「あい。あ、文さん気が向いたらでいいからメール送って。件名わかるように」
「わかりました。テスト終わったら、一度メールしますね」
メールについてはあまりうるさく姉は言わない。
「じゃあ文と帰るから。気をつけて帰るように、子供じゃないんだから」
姉は2人に対して二言三言最後に何かを囁いた。
でもきっと仕事のことなので私は知らん顔しておいた。
少しは姉のことを知ることができただろうかと考えて、運転する姉の横顔を見つめる。
「どうしたの?」
「んー。姉とアイの仕事メンバーはどんな関係なんだろうなって独り言」
姉はしばし黙した後、ニッコリと笑う。
こちらを向いて、走行中に。
「あいつらとの関係話すとなると色んな意味で18禁かな?」
「悪かった、15の私には早かった。だから前見て走ってくださいお姉様。地雷踏みました」
妹の私は失言したことを早口で誤魔化した。
欄外人物紹介 (とばしても問題ないです)
沙門愛染 AI営業担当 男
28の警戒心を緩める笑顔が得意な、史緒の元保護者
史緒を拾った当時は元ホストで現在はAIの営業業務をこなす
サチリアジス、得意なことはナンパ(男女問わず)
浅木一期 グルメライター 男
チャームポイントは口元の黒子、ちなみに史緒と高校の同級生
口から出る言葉の端々に食関係でやばいことを言う
史緒と文を並べて眺めるのが気に入ったようだ
食人鬼Aの独白を挟んで学校生活に戻ります




