第四話 灯りを絶やすな(5)
『VRMMO -関東封鎖戦域-』
第四話 灯りを絶やすな(5)
残り時間、一分。管理室には、ルークと古賀がいた。発電機の音は安定している。照明は最小限。水は処理され、医務室には飲料用の容器が並んでいる。十一人のうち、二人のプレイヤーが安全ログアウト中。残りは休息と警戒を交代していた。
《00:00:10》
十。九。八。
「本当に十二時間見たな」
古賀が言った。
「壊れた設備は、直した直後が一番怖いので」
「それは俺の台詞だ」
三。二。一。
《タスク完了》
《灯りを絶やすな》
《主目標:達成》
《追加目標:達成》
《負傷者死亡:0》
《設備停止:0》
《報酬が解放されました》
管理端末へ、第三七号周辺の地図が表示される。これまで空白だった道路、排水路、住宅地の一部。安全が保証された地図ではない。それでも、紙の古い管区図より情報が多い。続いて、医療品と飲料水の受け取り位置が示される。
《施設内物資受渡口》
「施設内?」
古賀が眉を寄せる。管理端末の施設図で、灰色だった区画の一つが点滅している。機械室のさらに奥。図面上では、土砂で埋没したはずの資材搬入口。
《認証コードを送信しました》
《受渡口を手動開放してください》
浜田へ連絡し、入口警戒を強化する。ルーク、古賀、浜田の三人で資材搬入口へ向かった。通路の奥には、腰の高さほどの小さな鋼鉄扉があった。外へ直接つながる扉ではない。古い搬送用の受け渡し箱らしい。認証コードを入力する。内部で機械音がした。扉を開く。中には、樹脂製の箱が二つ置かれていた。飲料水。医療品。施設周辺の紙地図。それから、見覚えのない布製腕章が一枚。灰色の地に、小さな雀の印が縫い付けられている。
古賀が搬送箱の奥を照らす。
「向こう側に、通路がある」
「人が入れる大きさですか」
「箱を外せば、ぎりぎり通れる」
図面では埋まっている。だが、物資はそこから届いた。第三七号には、自分たちが知らない出入口がある。そしてスズメは、その出入口を使える。浜田が銃を構えた。
「追うか」
「今は追いません」
ルークは搬送箱の扉を閉める。
「物資を確認して、通路はこちら側から封鎖します」
「相手との連絡路だぞ」
「相手の侵入路でもあります」
浜田が満足そうに頷いた。
「信用していないな」
「仕事は信用しています」
腕章は、物資箱の上へ残した。意味はまだ分からない。現地協力者の印なのか。次の仕事への招待なのか。あるいは、第三七号が誰かの領域へ組み込まれたという警告なのか。管理室へ戻ると、新しい通信が届いていた。
《スズメ:報酬は届いた?》
《受け取った》
《じゃあ、次の相談》
同時に、入口警戒中のプレイヤーから緊急通信が入る。
《正面扉の外に人がいる》
ルークが立ち上がる。
《人数は》
《三人。武器は見えない》
《一人は子供》
管理室の画面へ、外部監視映像が表示される。雨の止んだ公園。鋼鉄扉の前に、三つの人影が立っている。高齢の男。若い女性。その女性へしがみつく、小さな子供。女性が、扉へ向かって何度も頭を下げている。音声設備はまだ壊れていた。だが、唇の動きは読めた。助けてください。水を得た。医療品も得た。ベッドは十八。使えるのは半分。食料は十一人分にも足りない。敵かもしれない。囮かもしれない。扉を開ければ、第三七号の場所と内部を知られる。
開けなければ、少なくとも今いる十一人は守れる。管理端末に、新しい表示が現れた。
《未登録NPCを確認》
《保護申請:3名》
施設の全員が、画面とルークを見ていた。第三七号を維持するだけなら、答えは簡単だ。扉を閉じたままにすればいい。だが、最後の命令はまだルークの中に残っている。生存している全人員を脱出させろ。あれは最終試験の命令だった。もう試験は終わった。ここから先は、誰にも命じられていない。
「管理責任者」
真壁が医務室から出てきた。
「どうする」
判断するのはルークだった。ルークは外部映像を拡大する。子供の唇は青い。女性は片足を引きずっている。高齢の男は、胸へ何かを抱えていた。銃ではない。工具箱だった。
「入口室を隔離します」
ルークは言った。
「外扉だけを開けて、三人を入口室へ入れる。武器確認と負傷状態の確認が終わるまで、内扉は開けない」
「囮だった場合は」
浜田が聞く。
「外扉を閉じ、入口室で止めます。全員を正面へ集めない。機械室側の警戒も維持してください」
「食料は」
「足りません」
「水は」
「三人増えれば、余裕はなくなります」
「それでも入れるのか」
ルークは頷いた。
「入れます」
管理端末へ手を置く。
《外部防護扉:部分開放》
低い警告音。十二時間守り続けた第三七号の扉が、再び動き始める。灯りを守るために、扉を閉じた。今度は、人を守るために、その扉を開ける。鋼鉄の隙間から、朝の光が差し込んだ




