第18話 引いたカードで、生きていきます(エピローグ)
朝の光が、カーテンの隙間から、差し込んできた頃、私は、目を、開けた。
リルアの後光が、私の頬を、薄く、照らしてた。
ロウソクサイズ。
私だけを、照らす、明かり。
——これが、私のリルア。
『お疲れ様でした』
『エンディング、確認』
『ガチャは、爆死でも、人生は、UR』
『R女神のひなた、神回でした』
『推しを、推せた、最高の人生だった』
『「引いたカードで、戦う」』
『「引いたカードで、生きていく」』
『感動した』
『泣いた』
『一生の、宝物』
『この物語を、観られて、よかった』
『運営、最後まで、爆死ガチャありがとう(褒め言葉)』
『N+R縛りで、世界救った神プレイ、お疲れ様でした』
——コメント欄が、笑って、最後の、お祝いを、してくれた。
◇
数日後。
街は、いつも通り。
ギルドで、エルナが、いつも通り、受付してる。クエストの依頼、報酬の精算、新人冒険者への説明。事務的な顔。データスイッチ、たまに、入る。
レクトとセラフィーナが、街の北で、修復作業を、手伝ってる。SSR勇者、力仕事に最適。
セラフィーナが、街の道を、案内する係を、買って出た。
「こちらです、最短ルートは——」
セラフィーナが、自信満々に、指さした。
「いえ、こっちは、東です。西、お願いします」
「あ、はい——」
しばらくしてから、観光客の集団を案内するセラフィーナが、街の門を抜けて、隣の畑のあたりまで連れて行ってしまっていた。観光客は「すごい、こんな景色まで案内してくれるなんて」と感動してた。
セラフィーナの方向音痴は、街の名物として、別ジャンルで活用されてた。
『セラフィーナさんの方向音痴、健在』
『最後まで、変わらない安心感』
『SSR女神、最強の弱点保持』
『観光ガイドとして再就職、方向音痴を「秘境ツアー」として商品化(運営は無関係)』
レクトは——
その日の夕方、ギルドの食堂で、エルナと一緒に、料理を、作ってた。
「私は、お前の手料理を、覚える」と、本人は宣言してた。
聖剣で野菜を切ろうとして、エルナに止められてた。「レクトさん、まな板で、包丁です」「ふんっ……ふんっ、では、包丁で」
聖剣で切ったら、まな板が真っ二つになる。SSR勇者、生活力ゼロ、健在。
『SSR勇者、料理スキル0からスタート』
『エルナさんが、あらゆる生活スキルを、レクトちゃんに移植中』
『これは、長い戦いになる』
『ふんっ、構文、まだ生きてる』
私とリルアは——いつも通り、宿の部屋。
朝の、ガチャ。
「いつもの、無料10連、回そ」
「うん」
ベッドに、リルアと並んで、座った。手を、重ねる。
光が、はじけた。
——灰色、灰色、灰色、灰色、灰色、灰色、灰色、灰色、灰色——灰色。
```
┌─ 無料10連結果 ─────────────┐
│ ① N:粘る糸 │
│ ② N:壊れやすいビン │
│ ③ N:メッセージカード │
│ ④ N:虚無のポーション │
│ ⑤ N:粘る糸 │
│ ⑥ N:壊れやすいビン │
│ ⑦ N:一瞬だけ凍る水 │
│ ⑧ N:メッセージカード │
│ ⑨ N:虚無のポーション │
│ ⑩ N:壊れやすいビン │
└────────────────────────────┘
```
「Nだ」
「Nだね」
「N10連だ」
「えへへ、いつも通り」
私たちは、ベッドに、倒れた。
『N10連』
『安定のN!』
『運営、あいかわらず仕事しない(清々しい)』
『N10連の確率は約38.7%、平常運転です』
『確率ニキ、最終回でも仕事してる』
『でも隣にR女神いるから実質勝ち』
『壊れやすいビンの安定供給、家計助かる』
『朝のガチャでN10連、夫婦の朝食みたいで尊い(百合豚採点)』
『おじさん、その採点基準何』
『R女神からのデイリーN貢ぎ、永久保存』
リルアが、私の腕の中で、ぽわぽわしてる。
「ひなたちゃん」
「ん」
「これからも、よろしくね」
「うん」
「ずっと、一緒?」
「ずっと、一緒」
リルアが、ぎゅっ、と、私の腕に、抱きついた。
ロウソクサイズの後光が、私の胸の上で、ぽわぽわ、ぽわぽわ。
私は、窓の外を、見た。
朝の空。
普通の、空。
ヴァニタスは、もう、いない。
——いろんな、カードを、引いてきた。
Nのアイテム。Rの女神。SSRの勇者。SSRの女神。元・勇者。
そして、コメント欄っていう、最初の、スキル。
全部、引いたカード。
全部、私の、カード。
「リルア」
「ん」
「これからも、引いたカードで、生きていこうね」
「うん」
「リルアと、一緒に」
リルアが、目を、閉じて、笑った。
「うん!」
——最初の夜の、窓辺。
私が、月を、見ながら、リルアと一緒に、寝た夜。
「引いたカードで、戦うの。この子と、一緒に。」
そう、言った夜から。
ずっと、ここまで、来た。
ガチャは、爆死だった。
——でも。
私の隣に、リルアが、いる。
私の腕の中に、ロウソク後光が、いる。
私の頭の中に、コメント欄が、いる。
街には、レクトと、セラフィーナと、エルナが、いる。
——これで、十分。
いや、十分以上だ。
「リルア」
「ん」
「私、爆死してよかった」
「えっ」
「リルアを、引いたから」
リルアの後光が、ぽわぽわ、ぴかぴか、明滅した。
「えへへ」
「ありがとう、リルア」
「えへへ、ひなたちゃん」
「ずっと、一緒だよ」
「うん。ずっと、一緒」
『泣ける』
『R女神とN勇者の、爆死から始まった、奇跡の物語』
『「引いたカードで、生きていく」』
『この物語に、出会えて、よかった』
リルアが、私の腕の中で、笑った。
「ひなたちゃん」
「ん」
「コメント欄に、お礼、言いたい」
「共有、入れる?」
「うん」
私は、コメント共有を、オンにした。
リルアの脳内に、コメント欄が、流れ込む。
『お、共有きた!』
『リルアちゃんに直接届く!』
リルアが、にこっ、と、笑った。
「みなさん、ありがとう」
『どういたしまして』
『こちらこそ、ありがとうございました』
『泣いた(号泣)』
「ヴァニタスの時、みなさんの信仰が、わたしを、URにしてくれました」
『当然だ!』
『俺たちの尊いは、信仰だ(再放送)』
『リルアちゃんのために叫んだ甲斐があった』
「えへへ。だから——ありがとう。ずっと、ずっと、ありがとう」
リルアの後光が、ぽわぽわ、ぽわぽわ。
『泣いた(二回目)』
『リルアちゃんの感謝砲、致死量』
『もう一生ついていく』
——いい雰囲気だった。ここまでは。
『で、リルアちゃん、質問いい?』
「うん、なに?」
『赤ちゃんの作り方、教えて』
——は。
「え」
『女の子同士で赤ちゃんってどうやって作るの?』
『ヴァニタスはひなたちゃんとリルアちゃんの赤ちゃんになるんだよね?』
『あれ、比喩? ガチ?』
『創成の女神のコピーなら、ワンチャンガチでは?』
「コメント欄! 最後の最後にとんでもないこと聞かないで!」
「あの……」
リルアが、ちょっと、顔を、赤くした。
「えっ」
「あのね、ひなたちゃん」
リルアが、私の腕の中で、もじもじ、した。後光が、ぽわぽわ、明滅してる。恥ずかしい時の、あの光り方。
「……その……女の子同士の……赤ちゃんを授かる方法、教えてあげるね」
——え。
「えっ」
『えっ』
『ガチで!?』
リルアが、もっと赤くなった。
「あのね……子供ほしい、って、お互いに思いながら……」
「うん」
「1日の間に……10回……二人同時に、いったら……」
——10回。
「赤ちゃん、授かるの」
——10回!?
『10回!!!!!!!!!!!!』
『1日10回同時イキ!!!!!!』
『ハードル高すぎて草』
『いや待て、さっきの夜で3回同時にいってたよな?』
『あと7回……いけるのでは……?』
『女の子同士の赤ちゃんの作り方、思った以上にハードル高い』
「リルア、それ——」
私は、リルアの顔を見た。
リルアは、真っ赤だった。でも、目は、本気だった。
「思った以上に、ハードル高い条件だった……」
「えへへ……そうなんだ……」
「そうなんだ、じゃないよ……」
でも。
——でも。
ヴァニタス戦の時、リルアが言った言葉。「ひなたちゃんとの赤ちゃん」。あの時の、リルアの顔を、覚えてる。
比喩じゃなかった。
最初から、リルアは、本気だった。
「リルア」
「ん」
「近いうちに、赤ちゃん、作ろうね」
リルアの後光が、ぽわっ、と、膨れた。
「ヴァニタスも、待ってるだろうし」
ヴァニタス——浄化された後、リルアの中に、小さな光として、残ってる。
「うん」
リルアが、私の胸に、顔を、埋めた。
「ひなたちゃんとの赤ちゃん、産むから」
後光が、ぽわぽわ、ぽわぽわ。
『泣いた(三回目)』
『もうダメだ涙腺が』
『R女神、最後の最後に、母親宣言』
『N勇者とR女神の子供、レアリティいくつだよ』
『N+R=UR説(愛の方程式)』
『いや、引いたカードで育てるんだろ』
『それな』
「えへへ」
「うん」
ロウソク後光が、私の頬を、ぽわぽわ、暖めた。
窓の外で、メロちゃんの歌声が、街に、流れ始めた。
——引いたカードで、戦った。
——引いたカードで、勝った。
——引いたカードで、これから、生きていく。
この子と、一緒に。
——いつか生まれてくる子と、一緒に。
——おわり。




