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ガチャ爆死で異世界召喚されたけど、スキルが『無料10連ガチャ(99%低レア)』と『コメント欄』しかない ~ゲーム知識でがんばります~  作者: ころにゃん


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第12話 一人の信仰で、十分です(前編)

異世界15日目。


総選挙翌日の朝。


祭りの後の静かな朝だった。


窓の外では、会場の撤去が始まってる。ステージが解体されて、投票箱が運び出されて、のぼりが畳まれていく。3日間の熱狂が、少しずつ片付けられていく。


空にはもうランキングボードは浮かんでない。ルミナの名前も、金色の光も消えた。


いつもの街に戻ろうとしてる。でも、空気がまだ少しだけ——湿っぽい。泣いた跡みたいに。


リルアがベッドの中でもそもそ動いた。


「……ひなたちゃん、おはよう」


「おはよう」


「今日は……何するの?」


「ギルドに行って、護衛クエストの完了報告。あとは——帰る準備かな」


「そっか」


リルアの後光がゆっくり灯った。朝の穏やかな光。昨日よりは安定してる。でもまだ少し、揺れの名残がある。



ギルドに行った。


エルナさんが受付カウンターに戻ってた。いつものギルド制服。切れ長の目。ポニーテール。


「おはようございます、桜庭さん」


「おはようございます。護衛クエスト、完了報告です」


「はい。——クエスト達成報酬を処理します」


エルナさんがてきぱき書類を片付けてくれる。報酬は予想以上に多かった。3日間の日額に加えて、モンスター退治の追加報酬。


「これだけあれば、しばらくお金には困りませんね」


「ですね。おいしい物でもたくさん食べようと思います」


エルナさんがくすっと笑った。昨日の涙の跡はもう見えない。でも目の奥に、何かがちゃんと残ってる。



ギルドの入口で、メロが待ってた。


3Dの体で、ちゃんと立ってる。ピンクの髪が朝の風に揺れてる。立体的に。横から見ても消えない。


「ひなたさん」


「メロちゃん。おはよう」


「おはようございます」


メロが深くお辞儀した。3Dのお辞儀。ちゃんと奥行きがある。


顔を上げた時、目が赤かった。昨日、泣きすぎた跡。でも——笑ってる。


「本当に、ありがとうございました」


声が震えてるけど、ちゃんと話せてる。


「ひなたさんがチラシを受け取ってくれなかったら、ゲリラライブもしなかったし、3Dにもなれなかったし——」


「メロちゃんが歌ったから、みんなが聴いてくれたんだよ」


「でも、最初に聴いてくれたのは——ひなたさんです」


メロの目がうるんだ。また泣きそう。この子は泣きスキルが高い。


「メロちゃん、これからどうするの?」


「アイドル、続けます」


メロの声がしっかりしてた。昨日までとは違う。


「ルミナさんの分も。——次の総選挙で、もっと上を目指します」


「うん。応援してる」


メロがぱっと顔を上げた。


「ありがとうございます。あと——」


メロが近づいてきて——私をハグした。


3Dだから。ちゃんと厚みがある。ちゃんと温かい。腕が背中に回ってて、ぎゅっと。


「ひなたさん。ありがとう」


「……うん」


メロが離れて、次にリルアの方を向いた。


「リルアさん!」


「メロちゃん!」


リルアがにこにこしてる。後光がぽわぽわ。


「メロちゃん、がんばってね!」


リルアの後光がメロを照らした。最初に出会った時と同じ、あたたかい光。


メロの目が輝いた。


「はい! ……ひなたさんの女神さん、あったかくて好きです」


リルアが照れた。後光がぽわぽわ明滅してる。


「えっ、えへへ……ありがとう……」


メロが笑った。3Dの笑顔。きれいだった。


『推しが3Dになって、こんなに嬉しいことあるか(泣)』


『メロの進化グラ見てみたい。前回のR絵も良かったけど』


「いつか、リルアさんの後光をステージライトに、もう一度歌いたいです」


「うん! いつでも照らすよ!」


リルアの後光がぽわっと。約束の光。


『リルアさんの後光。本当に美しい(感動)』


メロが手を振って、会場の方に走っていった。3Dの足音が、石畳に響く。



帰り道。


王都からの街道を、いつもの面々で歩いてる。


私、リルア、レクト、セラフィーナ、エルナさん。


天気がいい。青い空。白い雲。普通の、穏やかな午後。


「こっちの道が近道です!」


セラフィーナが元気に指を指した。右の道。


全員が左を向いた。セラフィーナの方向感覚は信用できない。ここまでの旅で何度も実証済みだ。


左の道を歩いた。


——30分後。


「……ここ、どこ」


街道じゃなかった。果樹園だった。りんごみたいな赤い果物がたわわに実ってて、いい匂いがしてる。


「道、間違えましたね」


エルナさんが冷静に地図を確認した。「左は遠回りルートでした。セラフィーナさんの言った右が正解です」


「ですよね! 私が言った通りです!」


セラフィーナが後光をキラキラさせてる。でも私たちはもう左に来てしまった。


「……戻るの面倒だな」


「あ、でもこの果物、おいしそうじゃないですか?」


エルナさんがノートをめくった。「この果実、鑑定すると——回復効果つきの食材ですね。市場価格1個5ゴールド」


リルアが目を輝かせた。「おいしそう! 食べていい!?」


結局、果物を摘んでお昼ごはんにした。おいしかった。回復効果もあった。


セラフィーナが正しい道を指してたのに、全員で間違えた方に行って、でも結果的に収穫があった。


「セラフィーナコンパスの逆を行くと、なぜか食料が手に入る」


「それはコンパスとして機能してるんですか……?」


エルナさんがノートに「セラフィーナの方向感覚:逆方向にボーナスが発生する傾向(要追加検証)」と書き込んだ。



果物を食べながら歩いてると、ふと思った。


——一昨日の夜のこと。レクトとセラフィーナとのこと。


(……まあ、女の子同士だし。変なことにはならないよね。子供できるわけじゃないし)


何気なく、口に出てしまった。


「まあ、女の子同士だと子供できないだろうし、気楽でいいよね」


空気が、凍った。


リルアとレクトとセラフィーナが、同時にこっちを向いた。


「えっ」


「えっ」


「えっ」


三人の声が揃った。


「……何?」


「ひなたちゃん……生まれるよ?」


リルアが不思議そうに言った。


「は?」


「この世界では、女性同士でも子供は生まれます」


セラフィーナが淡々と言った。いつもの敬語。


「……知らんのか」


レクトが呆れた顔をしてる。


「えっ??? 女の子同士で生まれるの??? どうやって???」


三人の顔が、同時に真っ赤になった。


リルアの後光がぽわぽわぽわぽわ明滅。レクトの耳が紅色。セラフィーナのシャンデリア後光がちかちか。


「そ、そういうことは人前で聞くものではありません……!」


セラフィーナが顔を両手で覆いながら言った。


「知りたいなら……自分で調べろ……」


レクトがマントの襟で顔を隠してる。


「えへへ……ひなたちゃん、それはね……えっと……その……えへへ……」


リルアが何も説明できてない。顔が真っ赤。


「え、みんなそんな反応するってことは、結構ドキドキする方法なの!?」


「言うな!!!」


三人の声が揃った。二回目。


「桜庭さん、この世界の生殖に関する基礎知識は、ギルドの図書室にありますよ」


「エルナさんは知ってるの?」


「知識としては把握しています」


エルナさんの耳がちょっとだけ赤い。


『この世界の性教育、気になる(真剣)』


『ひなたさんの常識が地球基準なの忘れてた(盲点)』


『女の子同士で子供できる世界……最高では???(結論)』


『百合ハーレムの最終形が見えた(予言)(早い)』


コメント欄が大騒ぎだった。



レクトが何か言いたそうにしてる。


「レクトちゃん?」


「……別に」


「何か言いたいことあるでしょ」


「ない」


「あるよね。顔に出てるよ」


レクトが耳を赤くした。


「……あのメロとかいうアイドル。お前のおかげで票が伸びたのだろう」


「え? まあ、ちょっとだけ手伝っただけで——」


「お前は『ちょっとだけ』と言うが、昨日の会場の空気は——」


レクトが途中で口を閉じた。


「レクトちゃんも1票入れてたでしょ」


「い、入れてない!」


「入れてましたよ、レクトさま。護衛は投票券もらえないのに、自腹で10ゴールド払って買ってましたよね。メロさんの投票箱に」


セラフィーナが方向音痴と同じ精度で暴露した。


「セラフィーナ!!!」


レクトの耳が真っ赤になった。マントの襟を立てて顔を隠す。


「し、仕方がないだろう! あの歌は——声が——」


「きれいだったもんね」


「……ふんっ」


レクトが大股で先を歩いていった。でも——耳が赤い。ずっと赤い。


エルナさんが小声で「記事にまとめてもいいですか? "3票アイドルの奇跡"」と言った。


「もうちょっといいタイトルにしてほしい……」


「では、"N勇者とR女神が起こした選挙革命"は?」


「大げさすぎます」


「データ的には革命です。3票から1000票超は前例がありません」


エルナさんの表情が、ちょっと変わった。


(ルミナさんを記事にする。その次は——何を記すんだろう)


エルナさんの切れ長の目がキラキラしてる。


「では、"N勇者とR女神が起こした選挙革命"でいきましょう」


リルアが——後ろを振り返ってた。


王都の方を見てる。ルミナが消えた空を。


もう何も浮かんでない。ただの青い空。


「リルア?」


「……ううん。行こう」


リルアが前を向いた。後光がぽわっと灯った。



宿に着いた。


夕飯を食べて、それぞれの部屋に入って。


夜。


ベッドに座ってる。私とリルア、二人きり。


窓の外に月が出てる。この世界の月は二つ。大きい月と小さい月が並んでて、銀色の光が部屋に差し込んでる。


リルアが——口を開いた。


「ひなたちゃん。昨日言いかけたこと……話してもいい?」


「うん」


リルアがベッドの上で膝を抱えた。後光がゆらゆら揺れてる。


「ルミナさん、すごかったね」


「うん」


「たくさんの人に応援されて……最後は、女神になっちゃった」


「うん」


「私……少しだけ、羨ましかった」


リルアの後光がしゅんと暗くなった。


「たくさんの人に応援されて、2Dから3Dになれて、最後は女神に……すごいよね。私は何百年も女神やってるのに、後光がロウソクで、ランクはRで」


「リルア……」


「配布女神のまま。いろんな勇者さんのところに行って、すぐに他の女神と交換されて。誰も私を選ばなかった」


後光がさらに暗くなった。ロウソクの半分くらい。消えかけてる。


リルアの声が震えてた。


「ルミナさんみたいに、たくさんの人に応援されたら——私ももっと光れるのかなって。もっと強くなれるのかなって」


「……」


「ひなたちゃん一人の応援じゃ、Rのままで。後光はロウソクのままで。ルミナさんみたいにシャンデリアにはなれなくて——」


リルアが膝に顔を埋めた。銀色の髪が揺れてる。


沈黙が落ちた。


月明かりだけが部屋を照らしてる。


リルアが——顔を上げた。


「でもね」


後光が、ゆっくり戻ってきた。


「——ずっと考えてたの。昨日の夜から」


「考えてた?」


「うん。ずっと」


リルアの目がまっすぐ私を見た。


「ルミナさんは、みんなの応援で女神になった。でも、女神になった瞬間——みんなのところからいなくなった。もう、ファンの人たちの隣にはいられない。たぶん違う世界を救いに行くんだ。」


「……うん」


「あのおじさん、泣いてたでしょ。投票券をいっぱい持ってた人。推しが女神になって嬉しいはずなのに——泣いてた。だって、もう会えないから」


リルアの後光がぽわっと明るくなった。


暗かった光が、戻ってきた。


「私ね」


リルアが言った。


「いなくなりたくない」


後光がぽわっと灯った。ロウソクの灯。小さくて、弱くて、でもあたたかい光。


「ひなたちゃんの隣にいたいの。ずっと」


「リルア……」


「SR女神にならなくていい。R女神のまま、ひなたちゃんの隣で——ロウソクみたいな後光で——あったかく光ってたい」


私の目から、涙が出た。


止められなかった。リルアの言葉が胸の真ん中に落ちて、何かが溢れた。


「だから、私はひなたちゃん一人の応援でいいよ」


リルアの声があたたかい。震えてない。さっきまでの揺れがない。


「たくさんの人じゃなくていい。ひなたちゃんが信じてくれてるから、私はここにいられる」


後光がぽわっと、いつもよりちょっとだけ明るく灯った。


ロウソクじゃない。ランタンくらい。


「——それが、私の女神の形」


リルアが笑った。泣いてるのに笑ってる。涙がぽろっと頬を伝って、後光に照らされてキラキラ光ってる。


「えへへ……自分で決めたの、初めてかも。いつもは、行きなさいって言われて行って、交換されて戻って。でも今回は——私が決めた。R女神のままでいるって」


「……リルア」


「ん?」


「R女神でよかった」


声が震えた。自分でも驚くくらい。


「私の女神が、リルアでよかった」


リルアの目から、涙がぽろっと落ちた。


笑ってるのに泣いてる。


「えへへ……ありがとう、ひなたちゃん」


後光がぽわぽわぽわ。


部屋中があったかい光で満ちた。ロウソクがランタンになって、ランタンが部屋全体を照らして。


壁に映ったリルアの影が、あったかく揺れてる。


(私は爆死した)


ガチャでR女神しか引けなかった。


スキルは2個。装備は全部N。ステータスは最底辺。


でも——


(このR女神が私の隣にいてくれることが、一番のSSRだ)


ふと——ルミナのことが頭に浮かんだ。


信仰を集めすぎて女神になった。ファンの応援がルミナを変えた。


信仰で——女神は強くなれる。


(……待って)


リルアだって女神だ。R女神。ロウソクの後光。でも——今、ランタンくらいに明るい。私が「信じてる」と言っただけで、少し明るくなった。


(信仰で女神が強くなるなら——私の信仰でも、リルアを支えられるんじゃないか?)


何ができるかはまだわからない。でも、少なくとも——


(私はリルアの味方だ。一番の、たった一人の信者だ)


(この子のためにできることを、私は考え続ける)


気づくのが遅かったかもしれない。1話の時からそうだったのに。この子が手を握ってくれた時から、ずっとそうだったのに。


コメント欄が静かに、でも確かに流れてる。


『R女神、推せる』


『N勇者とR女神。それでいい。それがいい』


『推しは推せる時に推せ。——今だ』

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