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ガチャ爆死で異世界召喚されたけど、スキルが『無料10連ガチャ(99%低レア)』と『コメント欄』しかない ~ゲーム知識でがんばります~  作者: ころにゃん


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第6話 レベルが止まらないんですけど(前編)

異世界7日目。


朝起きたら、世界が変わっていた。


いや正確には、世界じゃなくて私のステータスが変わっていた。


「……え?」


レベルは「Lv.1」のまま。でもステータスに、昨日までなかった項目が増えてる――



**【桜庭ひなた】**


Lv.1


経験値ボーナス:×10(チュートリアル完了ボーナス発動中。残り3日)



10倍。


経験値が10倍。


「ちょっと待って。なにこれ」


隣でリルアがすぅすぅ寝てる。朝からステータスの変化に動揺してるのは私だけ。


エルナさんに昨日言われたのを思い出す。「勇者召喚から1週間のチュートリアル期間が終わると、経験値に倍率がかかるそうです。後発や経験の浅い勇者様が追いつくための救済システムですね」


後発救済。ソシャゲで言うところの「新規応援キャンペーン」。サービス開始から数年経ったゲームが新規ユーザーを呼び込むためにばら撒くやつ。


でも10倍はやりすぎじゃない?


『これはアツい』


『経験値10倍、後発救済の鬼仕様』


『周回のお時間です(白目)』


コメント欄が朝から沸いてる。


「ひなたちゃぁん……おはよ……」


リルアがもそもそ起き上がった。寝ぼけた顔で私の腕にしがみついてくる。銀色の髪がぼさぼさで、後光が寝起きでぼんやりしてて、かわいい。


かわいいけど今それどころじゃない。


「リルア、起きて。大変なことになった」


「たいへん? 魔王?」


「魔王じゃない。経験値が10倍になった」


「……それ、たいへんなの?」


「たいへんだよ。ソシャゲーマーにとって経験値倍率キャンペーンは睡眠を捨てるイベントなの」


「すいみんをすてる……?」


リルアが不安そうな顔をした。後光がちょっとしょんぼり。


「比喩だよ比喩。……半分くらいは」


ちなみに毎日の深夜0時ガチャは回してる。回してるけど、結果はN9R1かN10のどっちか。戦闘用の消耗品が補充されるだけで、特筆すべきことは何もない。虚無のポーションと壊れやすいビンが安定供給されてるのはありがたいけど、それ以上でもそれ以下でもない。ソシャゲーマーの日常だ。



東の草原。朝8時。


1体目のスライム。


虚無のポーション入り壊れやすいビンを投げて、粘る糸で足を止めて、短剣で核を突く。いつもの手順。


ずぶ。ぱきん。


倒した。


——ぴろん。


聞いたことのない音が頭の中で鳴った。



**【レベルアップ!】**


Lv.1 → Lv.3


HP全回復 MP全回復



「え?」


体に、ぶわっと活力が戻った。さっきまでの戦闘の疲れが嘘みたいに消えて、足が軽い。視界がくっきりする。全身の細胞が入れ替わったみたいだ。


これが、レベルアップ。前世のゲームで画面越しに何千回も見たあの演出が、自分の体で起きてる。


スライム1体で一気にLv.3。しかも全回復。10倍の暴力だ。


「すごい……1体で2つも上がったの?」


ソシャゲのレベリング期間のあの感覚だ。スタミナが溢れる前に次を回して、気づいたら朝になってるやつ。


ソシャゲーマーの脳内で、スイッチが入った。


「リルア」


「な、なに? ひなたちゃん、目が怖いよ?」


「レベルが上がると体力が全回復する。つまり、死ぬまで狩り続ければ、無限に戦えるってことだ」


「理論がおかしいよ!?」


『ここから本番』


RTAリアルタイムアタック始まった』


2体目。投げて、止めて、刺す。


ぴろん。Lv.5。全回復。


3体目。ぴろん。Lv.7。


4体目。ぴろん。Lv.9。


「ひなたちゃん、光りっぱなしだよ!?」


「止まらない。レベルが止まらない」


『ぴろんラッシュwwwwww』


『ひなたちゃんの目が完全に周回マシーンのそれ』



午前中だけで、Lv.1からLv.14まで上がった。13レベル。スライムを8体倒しただけで。10倍の暴力。


サポートアイテムは全部使い切った。でもLv.14になって攻撃力がCに上がった。午後からはアイテムなしで短剣一本。もう腕の力だけで核に届く。


ぴろん。Lv.15。そこから先は地獄の周回が始まった。


「スタミナポイントが溢れる……! レベルアップで全回復するうちに消費しないと……!」


「スタミナポイントって何!? ここ現実だよ!?」


「リルア、索敵! 次は!?」


「あっちに3体いるけど……ひなたちゃん、顔が死んでるのに体が元気で怖い!」


16時。Lv.20。大台に乗った。体が軽い。短剣が指揮棒みたいに軽い。スライムの動きが止まって見える。これが「ステータスの暴力」。


17時。Lv.22。日が暮れかけてきた。


「……あと1体」


「ひなたちゃん。"あと1体"を3回言った」


「今回で本当に最後」


「それも3回聞いた」


リルアにツッコまれるようになってきた。成長してる。リルアが。



夜になった。月が2つ出ている。リルアがあくびをしてる。後光がねむねむモードで明滅してる。


でも、私は止まれない。レベルアップによる全回復は、どうやら眠気のリセットも含むらしい。つまり、寝なくていい。


「ひなたちゃん……もう寝ようよぉ……」


リルアが私の背中におぶさってきた。


「むり……ねむい……」


「リルアは寝てていいよ。おんぶして戦うから」


「そんな勇者さま嫌だ!」


背中にやわらかい感触と温かい体温を感じながら、私はスライムを狩り続けた。リルアの後光が背中でピカピカ光るから、照明代わりになってちょうどいい。


『ブラック企業も裸足で逃げ出す勤務実態』


『女神(照明係)』


『効率厨の成れの果て』


『レベルアップのファンファーレが目覚まし時計』


深夜。Lv.25。リルアが背中で完全に寝落ちした。寝息がすぅすぅ聞こえる。


後光がうとうとと明滅して、背中をぼんやり照らしてる。


背中のぬくもりが心地いい。これだけはレベルアップじゃ手に入らない。


……でも手は止めない。



**〔8日目〕**


朝5時。リルアが腕にしがみついてるから抜け出せない。「むぅ……だめ……あと5ふん……」と寝言で阻止された。


5時30分。出発。Lv.26からスタート。8時にLv.30突破。10時にLv.33。スライムの挙動パターンを完全に覚えた。


『経験値10倍 × ソシャゲーマーの執念 = バグ』


12時。Lv.35。昼食をスキップしようとしたらリルアに怒られた。


「ごはん!」


「あと3体——」


「ご! は! ん!」


リルアが私の短剣を取り上げた。後光が赤っぽく明滅してる。怒ってるのが光でバレてる。


「ひなたちゃんは食べないとダメ! レベルアップで回復するのは体力だけ! お腹は空いたまま!」


「……正論すぎる」


『R女神の正論パンチ、クリティカル』


ほんのり甘い木の実の残りを食べた。リルアが満足そうに後光をぽわぽわさせてる。


14時。Lv.37。


「ひなたちゃん、すごい。すごいけど、目が怖い」


「ゾーンに入ってるだけ」


「ぞーん……」


18時。Lv.40。


『おい40って。始めて1週間の冒険者のレベルじゃないだろ』


『新規応援キャンペーンを悪用してる(悪用じゃない)』


帰り道、リルアの膝枕で回復。「おつかれさま」と頭を撫でてくれた。後光がぽわっとあったかい。


この回復だけは、レベルアップじゃ代わりにならない。


スライムだけじゃ経験値効率が落ちてきた。スライムの次は「東の草原・奥地」のゴブリン。経験値3倍。


ゴブリンはスライムと違って知能がある。武器を持ってる。こん棒とか、錆びたナイフとか。


「怖い?」


リルアが聞いた。


「……ちょっとだけ」


本当はけっこう怖い。スライムは核を壊せば終わりだけど、ゴブリンは血が出る。斬ったら赤い血が出る。


でもソシャゲーマーは効率を求める生き物だ。スライムを10体倒す時間で、ゴブリンを3体倒した方が経験値は上。


「リルア。後ろにいてね」


「うん。でも、無理しないでね」


「無理はしない」


嘘。たぶん無理する。でもリルアの心配そうな顔を見ると、ちょっとだけブレーキがかかる。


初ゴブリン戦。


虚無のポーションを投げて、動きが鈍ったところに短剣で——


斬った。


赤い。血が赤い。スライムの透明な液体とは全然違う。


手のひらに伝わる感触が、スライムの時とは比べ物にならないくらいリアルで——


「っ……」


「ひなたちゃん!?」


「大丈夫。大丈夫だから」


大丈夫じゃない。手が震えてる。最初にスライムを倒した時に抑え込んだはずの感情が、ちくりと胸を刺した。


——でも、レベルが上がる音がした。ぴろん。


体力が回復する。頭がクリアになる。効率がいい。


効率がいいから、続ける。


ちくりとした感情は、ぴろんの音で上書きされた。上書きされたことにした。


『……顔色悪くない?』


1行だけ、コメントが流れた。


昼もリルアに怒られ、夕方にLv.46。


帰り道、足がふらついた。レベルアップで体力は回復するけど、精神の疲労は回復しない。


リルアが無言で手を握ってきた。何も聞かないで、ただぎゅっと。


初めてスライムを倒した帰り道と同じだ。でもあの時と違うのは、今は握り返す力があること。


「……ありがと、リルア」


「ん。えへへ」


後光がぽわっとした。



8日目の夜。ベッドに倒れ込んだら、リルアが隣に潜り込んできて、いつものように腕にくっつく。


「ひなたちゃん」


「ん……」


リルアの手が、私の頬に触れた。ひんやりしてて、やわらかい。


「朝から、ちょっとずつ暗くなってた。レベルが上がるたびに目はキラキラしてたけど……笑ってなかったよ」


……気づいてたんだ。


ゴブリンを斬った感触。赤い血。ぴろんの音で上書きしたつもりの、あの感情。


リルアは、全部見てた。


「……私、大丈夫だよ」


「うん。大丈夫じゃなくても、隣にいるから」


リルアの後光がロウソクくらいにぽわっと灯って、暗い部屋をやさしく照らした。


あったかい。


「……おやすみ、リルア」


「おやすみ、ひなたちゃん。明日も一緒だよ」


リルアの後光がぽわっと明るくなった。



**〔9日目:経験値ボーナス最終日〕**


レベルが上がるほど、次のレベルまでの経験値が重くなる。昨日まではぴろんぴろん鳴りっぱなしだったのに、今朝はゴブリン4体でやっと——


ぴろん。


Lv.50。


大台。半世紀(レベルの話)。


『大台おめでとうございます』



**【桜庭ひなた Lv.50】**


攻撃力:C+


防御力:C


素早さ:B


魔力:D+



素早さがBに到達した。ステータス欄に初めて「B」の文字が並んでる。


「ひなたちゃん! Bだよ! Bが出たよ!」


「すごいよ。レクトちゃんのAの一個下」


「じゃあすごい!」


『素早さだけならB級冒険者相当』


レクトちゃんとのレベル差はまだ約50。でも3日前はLv.1だった。確実に前進してる。



ギルドに帰ってエルナさんにレベルを報告したら、帳簿に目を落としながら、ぽつりと言った。


「……前世で、こういうレベリングの効率記事を書くのが好きでした」


「え?」


「い、今のは忘れてください!」


エルナさんが真っ赤になって帳簿で顔を隠した。帳簿の端がぶるぶる震えてる。


「……エルナさん、今度ゆっくり話しませんか。前世の話」


「っ——!」


帳簿が、ぱた、と閉じられた。


「……考えておきます」


帳簿の向こうで、声だけが聞こえた。隠しきれてない赤が、耳の先まで届いてる。


……いつか、ちゃんとこの人の前世の話を聞きたいな。



事件は帰り道に起きた。


草原の奥地から街に帰ろうとしていた時。背後の茂みが、ばきっ、と鳴った。


木が折れる音。地面が振動する。


振り返ると——茶色い毛皮の壁が、目の前にあった。


大きい。立ち上がったら3メートルはある。丸太みたいな前足に、ナイフみたいな爪。額に、赤い星のマークが光ってる。


「っ——ミラクルベア!?」


注意エリアにいるはずの敵。こんな手前に出てくるなんて聞いてない。……なぜ、ここに。考える余裕はなかった。


『出た』


『出ちゃった』


ミラクルベアがこちらを見た。小さな目がぎろりと光る。額の星マークが赤く脈動してる。


「ひなたちゃん……!」


リルアが私の背中にしがみついた。後光が恐怖で明滅してる。ぱちぱちぱちぱち。


背中を見せたらリルアを守れない。逃げられない。


「……戦う」


短剣を抜いた。手が震えてる。スライムの時の震えとは違う。これは本物の恐怖。


『Cランク以上推奨だぞ。クリティカルされたら一撃で終わる』


わかってる。でもリルアが後ろにいる。


ポケットの粘る縄が1本だけ。


粘る縄を熊の足元に投げた。前足に絡みつく——けど、丸太みたいな脚力でぶちっと千切れた。


短剣で切りかかった。浅い。全然浅い。C+の攻撃力じゃ毛皮を貫けない。


ミラクルベアが前足を振り上げた。額の星マークが赤く脈動——


「——っ!!」


本能で横に跳んだ。素早さBの反射神経がなかったら終わってた。


ばごん、と。私がさっきまで立ってた場所の地面が、えぐれた。


クリティカルヒット。当たったら終わりだった。


「ひなたちゃん!!」


リルアの悲鳴。


もう一度振り上がる前足。額の星がまた脈動する。


避けた。ぎりぎり。頬を風が切る。


3回目。


避けた。でも体勢が崩れた。片膝をつく。


4回目——


避けられ——。体が崩れる——。


その瞬間、背後の空気が震えた。


経験値ボーナスの最終日。こんな時に、こんな敵が。スライムやゴブリンと比較にならない圧倒的な力の差。C+のステータスは確かに上がったけど、でも所詮はまだ初級者。リルアを守れるのか。ちゃんと守れるのか。

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