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賊イベント

 好き勝手にやると決めたクーは、早速屋敷を飛び出し、馬車で墓地へと趣いていた。


「……ミーア母上。初めまして、そういうべきなのだろうな」


 クーは花束の添えられた墓石の前で、一人目を閉じ手を合わせる。そこは実母、ミーア・ズーハルトの墓だった。


(ミーア・ズーハルト。クー・ズーハルトの実母の一人で、産後すぐに体調を崩して死亡。元々病弱であったが、それでも子を産むために自らを捧げた生みの親。……【めがゆりTS】の原作では名前のみの登場で、別邸には絵の一枚さえ残っていないので顔さえ知らないが、それでもクー・ズーハルトの恩人に変わりはない御方)


 クーは目を開け、目の前の墓石を見つめながら、少し感傷に浸ってしまう。


(或いは本来のクー・ズーハルトも墓参りくらい出来ていれば、もう少しましにあれたのだろうか)


 クーは静かに首を振る。どんなに過ぎってしまおうと答えは出ない、無意味な問いだった。


「……これからは毎年来るよ。クー・ズーハルトはどう在り方を変えようと、貴女の息子に変わりないのだから」


 やがて最後にそう呟いてから、クーは静かに立ち上がり、ミーアの墓を後にした。


「……ミーア様はまるで儚げな一輪の花のように儚さを持ちながら、けれど強い目をした方でした。クー様はキース様に似ていますが、貴方様の赤色の瞳は確かにミーア様譲りですとも」


 馬車の中、無言で景色を眺めるクー。そんな彼に、ララはぽつりと亡き母親について語る。


「どうしたララよ、えらく口が達者だな。確か使用人一同、ミーア母上の話はマリアナめに禁じられていたのではなかったか?」

「お気になさらず。どこかの誰かさんのせいで五年後にはクビになるんですし、早まるのならそっちの方が再就職しやすくて好都合ですとも」

「ククッ、ララも随分と素で話してくれるようになったな。俺的には、その方がずっと好みだぞ?」


 馬車での移動の最中、クーはララの開き直った態度に、クツクツと愉しげに微笑んだ。


「それでララよ。目的地であるアンマルへは、ここからどれくらいかかる?」

「そうですね。何事もなければ、あと一時間ほど……訂正します。どうやら異常発生のようです」


 ララの言葉を遮るよう、不意に止まる馬車。


「何事ですか」

「ぞ、賊です! 進路で馬車が襲われていて、囲まれました! ひええ!」


 ララは小窓を叩き尋ねると、外で馬を操っていた御者は悲鳴を上げながら状況を報告する。


「……手の入れられた街道だというのに、大っぴらにやる賊もいるのだな」

「残念ですが、街道だからこそと。略奪などという行為は、少し頭を使えば存外に手軽なものです。街道といっても、常に人の目があるわけではないのですから」

 

 御者の報告を聞いたララは説明の後、大きなため息をつく。


「少々お待ちを。私が処理を──」

「どれ、少し待っていろ。俺に冒険者の適性があるか、少し測ってくるとしよう」

「え、ちょ、クー様? クー様ぁ!?」


 出ようとしたララを制止したクーは、馬車の扉を勢いよく開け、ひょいと飛び出してしまう。


「うーん、やはり外は快適で良い。さて……横転し馬の離れた馬車、身なりの良い壮年の男女、剣を落とし嬲られる寸前であろう女戦士が一人。それとそろそろと馬車を囲んでくる如何にもな賊……まるでテンプレだな、実にらしいな」


 馬車から出たクーは、外の開放感に浸りながら、冷静に周囲の状況を確認していく。


「ぐへへへっ。見入りのいい商人様を襲えたと思ったら、今度は裕福そうな坊ちゃんとは。今日はついてやがる! キャビネットから砂糖菓子ってのはこのことか!」


 恐らく頭目であろう、片目を眼帯で隠した大男が、サーベル片手にゲラゲラと自らの幸運を喜ぶ。


「あえて訊くが、このままであれば、俺はどうされてしまう?」

「へっへっへ。あえて言ってやると、坊主は育ちが良さそうだし、好い趣味してるババア共に良い額付けられるだろうな。怖いだろう?」

「ああ、怖いな。だが生憎、俺の守備範囲は上下問わずに五歳差でな。ダンディなおじ様になってからの楽しみを今味わうのは遠慮させてもらおう。──炎よ(アグ)」


 クーはどうでも良さそうな表情で拒否しながら、炎を指で弾いて賊の一人を燃やしてしまう。


「う、うわぁぁああ!!!」

「な、て、てめえ!」

「窮鼠猫を噛むというやつだ。重ねて訊いてみるが、獲物に反撃される狩人というのは、どんな気持ちだ?」

「な、舐めやがって! てめえら、このクソガキを理解(わか)らせてやれぃ!」


 頭目の号令と共に、賊達は雄叫びを上げながら、クーへと一斉に襲いかかる。


「水よ(アル)、剣となれ(プラミカ)」


 迫る賊を前に、クーは余裕を持って水を剣に変え、向かってくる賊を斬り伏せていく。


「なんだこの剣、こっちは防がれるのに変形して越えてきやがぁぐあっ!」

「長さも形も自在! ガキのくせに何て練度の魔法、おまけに剣の腕もぐにゆ!」

「こ、こいつまさか貴族ぎにぁ……」


 最初は舐めていた賊達も、次第に顔色を変えていくが、それでもクーにとっては関係ない。


(バルバリアンのしごきのおかげか、それとも先の決闘の経験か。いずれにしても、こうも容易く人に刃を向けられるようになるとは。善人であるなどとは思っていなかったが、いよいよ俺も異世界に染まったわけだ)


 クーの内心に高揚はなく、躊躇いなく敵を斬る己の様を俯瞰し、自嘲しながらも戦い続ける。


「死ねッ、おらぁ!」

「ぎふっ、こいつ、息を吹き返しやがッ……!!」


 混乱の最中。再起した女戦士が静かに地面の剣を拾い直し、クーへと注目を移していた賊の背に刃で叩き斬る。


「どけてめえら!! このガキ、理解(わか)らせてやらぁ!!!」

「剣に風を纏わせるか。だが悪い、これで終わりだ」


 最後に顔を真っ赤にし、魔法を発動しながら突進してきた頭目だが、クーは変わらず斬り伏せた。


「ふ、不運だったぜ……」

「これで決着。さて残りの、どうする? 逃走は許さないから、早々の降伏をすすめるが──」


 残党に声を掛けるクーだったが、言葉の最中、飛来したナイフに反応することが出来ず──。


「……見事。噂に違わぬキレっぷりよな、ララよ」


 ──けれど、ナイフはクーに届く前に落ち、残る賊は皆等しくその場へ崩れ落ちる。


「ありがとう、命拾いしたぞ。しかしこの手管、バルバリアンより強いのではぶべらっ!!!」


 背後を向き、命の恩人である女従ララは、主たるクーの顔面を容赦なく引っぱたく。

 

「い、痛い……」

「……クー様? ねえクー様? どうして私に殴られたか、理解しています?」

「はっはっは。九死に一生を得たな……うん、そんな顔されると怖いよ。俺でもちょいと泣いちゃいそう」

「知るか馬鹿っ! ……クー様、ちょっとそこに正座。今回ばかりはもう養護できません! このララ、心を鬼とし本気で怒りますからね!」


 外だというのにお構いなしに地面に正座させられたクーは、ララのすさまじい剣幕での説教に、すごすごとお説教に肩をすくめるしかなかった。


「……あ、あの」

「うるさいですね、今取り込み中です! あとになさい!」

「は、はい……」


 護衛であろう女戦士が声を掛けようとするも、怒りのララに気圧されたのか、言葉を失い手を引っ込めてしまう。


(……なんか、ごめん)


 そんな女戦士の態度をチラ見したクーは、地面に膝を付けて説教されながらも、心の中で謝罪するしかなかった。

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