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これからどうしましょう

 別邸帰還後、クーはララに正座させられ、怒髪天を衝く勢いでお説教をされていた。

 

「だから言ったじゃないですか!! 負けてくださいって!! 加減してくださいって!!」

「はっはっは。つい興が乗ってしまってな。だがララよ、俺は知ってるぞ? お前が勝利の際、それはもうしっかりとガッツポーズをしていたのを」

「それはそれ、これはこれです。……ちょっと溜飲が下がったのは否定しませんとも。ええ、はい」


 悪びれもしないクーの指摘に、ララは一瞬肯定しかけるが、ごほんごほんと気を取り直す。


「しかし妹の顔に傷をつけた罪を以て、成人たる十五を迎えたと共に追放とは……義母上(ははうえ)、いやマリアナめ。やつの横暴も極まれりだな。あの顔は傑作だったが、ここまでになるとは思わなんだ」


 そう。決闘の件にてクーは十五、つまりこの世界での成人を以て追放されることが決定していた。


(長男を追放など阿呆の所業だとは思いはするが、それはあくまで俺が前で培った前提。この世界は女(・)同(・)士(・)で(・)も(・)子(・)を(・)産(・)め(・)る(・)せいか、世襲に男女の優劣はない。レオネさえいれば、多少の情報操作で滞りなく回る……いや、むしろマリアナの直系たるレオネがズーハルトを継ぐのだから、一層あの女にとって都合が良くなったわけだ。ククッ、案外狙い通りなのか?)


 クーは今回の件で改めて、この世界が前の世界とは違う常識で動いているのを再実感していた。


(しかしあの瞬間、自分だけとは思えないほど胸の空く感覚を確かに感じたような気がしたが……ククッ、案外かつてのクーはまだ中にいて、俺の様を楽しんでいるのかもしれんな。そうであったのなら幸いだ)


 だがクーはそんなことより、マリアナの鼻を明かしてやった瞬間に覚えた不思議な感覚を思い出しながら、クーは心の中でクツクツと笑いを零していた。


「ククッ、しかしどうするか。身分はどうでもいいが、家からの支援がない以上、学園入学の際の学費をどう工面したものか」

「……学園に? 昔のクー様は酷く疎んでいらっしゃったのに、進んで通いたいんですか?」

「ああ。生まれ変わったクー・ズーハルトはな、何としてでも十五で学園に通いたい。いや、通わなければならないのだ」


 ララの訝しげな表情に、立ち上がったクーは、生まれたての子鹿のようにふらふらしながらもはっきりとそう口に出す。


(だってその年に学園行かなきゃ例のシーンやれないからな。それが出来ないクー・ズーハルトなんか、福神漬けのないカレーも同然……なんか想像したら、カレー食べたくなってきちゃったな。店のじゃなくて家作るタイプのやつ、懐かしいなぁ)


 思考の最中、つい連想してしまった二日目のお家カレーが、場違いにもクーのお腹をキュルキュルと騒がせてしまう。

 

「……クー様? さっき昼食はお済みになったはずでは?」

「ああ、今日も実に美味しかったぞ。エーエーめの料理があと五年で食べられなくなるのは、俺も中々に哀しみを覚えてしまうな」

「……はあっ」


 ララの大きな大きなため息が部屋に鳴りはしたが、クーは聞かなかったことにした。


(ユリユリ公国、リリー学園。【めがゆりTS】の学園編の舞台にして、クー・ズーハルトが百合に挟まろうとして見事に破滅する聖地。例のシーンを完遂するためには、何としてでも通わなくてはならないが……その学費、卒業まで見積もって金貨千枚……つまりは大体一千万円ほど。五年のうち一巻範囲の一年のみ通うとしても二百枚。主人公のようなラッキーパンチはあるまいに、家の援助なしでどう稼いだものか)


 クーは何故かこの世界の金貨ではなく、クーになる前に一度たりとも縁のなかった分厚い札束十つで想像しながら、目下最大の問題へどうしたものかと思い悩む。


「話を戻すが、重要なのは学費だ。そもこのクー・ズーハルト、そこまでの学と商才など持ち合わせていない。座って書類と睨めっこしてるだけで断続的に稼ぐ……なんて、ほとんど不労所得に縁がないたちなのは重々理解しているとも」

「いや、クー様そんなに頭悪くないじゃないですか。それに一般市民より良い教育を受けていますよね……?」

「地頭の話だ。仮に同じだけ学べば、それだけ俺を勝る者が出てくる。悲しいが、俺なんぞ所詮はその程度よ」


 クーのそれは謙遜ではない。実際クーになる前では、頭の回転も成績も必死でやってようやくましになる類の人間だった。


「そんなわけでララよ。これからの俺は街へ出稼ぎに繰り出すつもりだが、ラービ母上には内緒で頼むぞ」

「……はっ?」

「ククッ、これまではマリアナの機嫌取りと軟禁を受け入れていたが、どうせ放逐されるのならば、最早我慢もあるまい。精々好きに生きてやるとも。はーっはっは!」


 クーの高らかな笑いは室内を通り越して屋敷中へと響き渡り、ビクリと使用人を驚かせたが、まあいつものことだとすぐに仕事に戻った。たくましいね。


「……これでは、エステル様も悲しまれるでしょうね。ほんとうに貴方様は、どこまでも……」

「ああ、そこは問題ない。俺は不在であっても追い返さず、好きに寛がせてやってくれ。むしろエステル様も、俺がいない方が一層気持ちを安らげるだろう。これぞ、ウィンウィンというやつだ」

「うぃんうぃ……? ……まったく、クー様も十を迎えたのですから、真剣に女心の授業も視野に入れるべきでしょうか。正直ララは、クー様の将来が心配でなりません」

「??」


 ララの心労はそれこそ計り知れないものであったが、そういうのに鈍感なクーは、首を傾げるばかりだった。


「それでクー様。今お説教の途中ですので、いい加減水を長い手に変えて茶菓子を取ろうとするの、やめません?」

「ちょっと待ってくれ。クッキーに触れても濡れないように調整するの、結構大変なんだよ」

「くーうーさーまー?」

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