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婚約者と花

 クー・ズーハルトが新生してから、早いもので半年が経過しようとしていた。


「まあ、私(わたくし)が部屋を訪れたとき、貴方様はいつも鏡に向かっていますね。そんなにも自分の顔が好きなのですか?」

「ああ。俺は中々に面が良いのだから、愛でてやらねば持ち腐れというやつだろう?」


 口元以外の全てが笑っていない表情をしたエステルに指摘されたクーは、驚くほど素直に肯定しながら、エステルの正面へドサリと腰掛ける。


「それでこんにちは、エステル様。半年ぶりの再会ですが、貴女は変わらずお美しい。もしや俺ほどでなくとも、心境の変化でもおありになったのですか?」

「まあ。貴方様の婚約者は、居場所の少ない私(わたくし)のことを邪険になされるのですね。よよよっ」


 クーの挨拶に、エステルはわざとらしく落ち込んでみせる。


(……エステル様はこの俺、クー・ズーハルト同様に落ちこぼれ。シルバリオ家の固有魔法を継ぐ才に乏しかったことから、家の中ではあまり良い扱いをされていなかった。故に本編にて覚醒を果たした暁には、まるで今までの鬱憤を晴すかの如く当主の椅子に座し、その全てを主人公に捧げようとしたのだからその待遇は察せられる。当てつけのような言葉は、幼子の上っ面というだけではないのだろうな)


 心の中で何となくの当たりをつけたクーは、そんなエステルのどこか同情の生暖かい視線を送る。


「……気のせい、でしょうか。今私(わたくし)、とても腹立たしい感情を向けられたような気がしたのですが?」

「そういえば小耳に挟んだのですが、何でも鍛練の方が上手くいっていらっしゃるとか。それが真であれば、婚約者としては嬉しい限りですね」


 エステルのペラペラの称賛は、結構な皮肉に満ちていると、クーは彼女の言葉の真意を見抜く。

 

「ええまあ。近頃は剣も魔法も、座学さえも以前より楽しんで自らの糧に出来ていますので。俺もエステル様の婚約者として、そしてズーハルトの血脈として恥じぬ男にならなければな」

「そうですか。それは何よりですね。……羨ましいと、そう思ってさえしまうほどです」


 素直に答えると、エステルは表情を一転、つまらなそうに吐息を零した。


「……そうだ、エステル様。せっかくなので、今日は趣向を変えましょうか」

「まあ、デートのお誘いですか?」

「ええ。敷地内の、たわいない散歩です。……それでは、お手をどうぞ。マイフィアンセ」


 クーは立ち上がり、エステルへと手を差し出しながら、イケメン全開で気障ったらしく誘う。


「……せっかくのお天気です。そういう気まぐれも、悪くないかもしれませんね」


 少し悩んだエステルは一度目を閉じ、開いてから彼の手を取り、ゆっくりと立ち上がる。


「それでクー様。貴方様は私(わたくし)を、どこへ誘おうとしているので?」

「それは着いてからのお楽しみということで」

「……まあ」


 手を繋ぎながらの道中にて、クーの返答にエステルは小首を傾げてしまいながらも、外へと出て裏庭まで足を運んだ。


「……まあ。色とりどりで、綺麗なお花」


 裏庭にあった小さな花壇に咲いた何色何本もの花を前に、エステルは少しだけ驚きを露わにする。


「……これはリチュプのお花ですね。育てやすく、けれど如実に差の出る思いやりの花」

「博識ですね。花を愛でれば心も華やぐと、そう侍女のララに教わったので育ててみようかと。もちろん初めてなので助力はありましたが、花開くまでの毎日が楽しみでした」

「……まあ。クー様が、自ら?」


 首を傾げたエステルに、クーは微笑んでからしゃがみ、花壇から赤いリチュプを一輪摘む。


「赤いリチュプの花言葉は『思いやり』。俺の心として貴女へ捧げるに、相応しいものはない」


 クーは膝をつき、優しいながらにはっきりとした言葉と共に、エステルへと花を差し出す。


「……やはり変わられましたね。気付きながらも必死で藻掻いていた貴方様は、もうどこにもいないのですね」

「ええ、生憎今はとても楽しいので。それともエステル様は、以前と変わってしまった婚約者に不満ですか?」

「……ふふっ、どうでしょうか。もしかしたら、口は以前の方が、好ましかったかもしれませんね」


 リチュプの花を抱きしめながら、エステルは今日一番華やかに、そして自然に微笑んでみせる。


(柔らかな笑顔。どうやら少しは気が紛れたようだな。……それならば、良かった)


 そんなエステルの様子を前にクーが抱いた満足は、父性や兄性に近いものだった。


「……ねえクー様。私(わたくし)も一輪、ここで育ててみたいのですが、構わないでしょうか」

「構わないが、自宅の方が育てやすいのでは?」

「まあ。クー様は剣や魔法より、女心のお勉強を優先しなければいけないかもしれませんね」


 クスクスと微笑むエステルの言葉の意味を、クーは理解出来ず、首を傾げるしかなかった。


「ところでクー様。そのじょうろは、一体どこから……?」

「水の魔法で作ったんだ。火で調整すればお湯も出せるぞ」

「まあ」

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