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星よ、はじめまして

 無事受験申請を受理されたクー。余白の日々を公都で満喫した彼は、ついに受験当日を迎えた。


「お弁当は持ちましたか? 受験証は忘れていませんか? 筆記用具は確認しましたか?」

「した、した、した。大丈夫、大丈夫だって……うん、大丈夫。何一つ問題なし」


 宿前にて見送りの最中、流石にちょっと不安になったのか。クーはもう一度だけ鞄の中を確認し、今度こそ問題ないとララへと親指を立ててみせる。


「問題なさそうですね。……ちなみにですが、今日の夕食は如何なされますか? 外食が良いのであれば、好みそうな店を予約しておきますが」

「いや、ララの料理がいいな。……にしてもうん、なんかいつも通り過ぎる。もうちょっとこう……当日特有の激励とか、良い感じのないの?」

「ないですね。クー様であれば合格は必然なのに、変に気負われても困りますから」


 ララは淡々と言葉にし、そしてほんの少し口元をほころばせる。その事実としての信頼に、クーは「ククッ」と少し嬉しそうに笑みを返した。


「ではいってらっしゃいませ。……一応言っておきますが、くれぐれも途中でもっと面白いことがあったからといって遅刻だの放棄だのはしないように。どうかこのララめの信頼を裏切らないでくださいね?」

「はっはっは、流石にそんなことするわけないじゃないか。ララは俺を何だと思ってるんだ? はっはっは」


 ララの一礼に軽く手を振りながら、クーは学園までの道を一人で歩いていく。しかしながら道中、先ほどの発言がフラグだなどということもなく、余裕を持って学園へと到着した。


「……ククッ、やはり当日は人が多い。らしくなってきたじゃないか」


 校門を潜り、校舎へと入っていく多くの受験生。各々自信や緊張を顔に浮かべながら歩く、今日を共にする数多の挑戦者達を目にしたクーは、校門前で手を広げて不敵な笑みを浮かべる。


『……な、なんだあいつ』

『たまにいるのよ。ああやって受験に来たって体験だけで浮かれて失敗する受験生が。受験五年目の私が言うから間違いない』

『あら、良い坊やじゃな~い♡ 可愛がってあげたくなっちゃうわ~ん♡ うっふ~ん♡』


 種類豊富な注目を向けられていたが、クーは浮かれていたので、一切気付くことはなかった。


「知り合いや原作キャラは……見当たらないが、人多いし当然か。ま、入学すれば会えるしいいか」


 キョロキョロと見回すクーだったが、バーラ含め見知った顔は確認出来ず。とはいえすぐに気持ちを切り替えつつ、校門を越えて受験会場へと入っていく。


(さて、改めて今日の予定を確認しよう。午前は学力試験。昼食を挟み、午後は実技試験。うん、大学受験もびっくりな過密スケジュールだな。……でも多分これ、大変なのは受験生じゃなくて教師側だよな。南無)


 今日は一際忙しいであろう教員達へ心の中で合掌しつつ、クーは案内に導かれ、試験会場である教室の一つへと到着する。


(おーいいねぇ。こういう黒板を中心に半円を描くタイプで座らされる講義室。なんか頭良さそうな大学~って感じの場所に来ると、自分も頭良くなった気がして引き締まるんだよなぁ)


 クーはテーマパークにでも来たみたいにそわそわしながら、番号を確認して自席へと座り、準備しながらどんな受験者がいるのか軽く見回してみる。


『が、頑張ろう俺。絶対、絶対受かって母ちゃんに恩を返すんだ……!!』

『大丈夫、大丈夫、やれる私出来る私いける私。そう、だって私はもう三十路だもの……!!』

『三年目のサンロウ。去年実技試験でやらかしたテンパ。おお、あれは泣く子も笑う受験長老、アーホも健在とは……ふっふっふ、今年も中々の精鋭が揃っているようでわくわくしますねぇ。メガネクイッ!』


 同じ部屋に集まっているのは、年齢の近そうな若者こそ大部分なものの、老若男女実に様々。


(前の世界の大学受験と似たようなもので、受験自体は下限こそ十五だが上限の制限はない。だからこうした絵面になるのは知っていたが……目の当たりにすると一層引き締まるな。この中から狭き門を潜るのは、ほんの一握りなのだから)


 彼らの熱を前にしたクーは、自らの内の緊張を強めつつも、ニヤリと笑みを作ってみせる。


(……もっとも、それだけ挑んで受からないのなら切り替えるべきだと思うが、まあ人は情動で動く獣。諦めきれず、届かぬ星や高嶺の花、自分以外には意味ない石ころに手を伸ばし続けるのが常よな。ククッ)


 心の中で、クーはどこか自嘲するようにひた笑う。そんなことを考えていれば、試験官らしき身なりの整った女性が教室へと入り、教卓の前で立ち止まる。


「時間になりました。これより本日の日程の確認、いくつかの注意事項の説明を開始させていただきます。よろしくお願いいたします」

 

 魔法で声を飛ばすマイクにて、凜々しい声で受験についての説明を始めていく試験官。


(長々と語っているが、まあ説明自体は前の世界での一般的な受験と大差ない。大事なのは試験証は学園への一日入場パスにもなっていたり、合格の際の通知をしたり手続きに必要な重要書類だということ。そしてトイレは混み合う場合が多いから、余裕を持って行っておくこと。それと受験証は再発行不可能なので絶対に紛失するな、何としてでも紛失するな、終わった後も合格発表までは何としてでも死守しろと。……受験証絡み、多いな)

 

 そんな彼女の眠くなりそうな話を、クーは欠伸をかきつつ聞き流しながら、それでも自分の中できちっと要約していく。


「以上になります。それではお待たせいたしました。──学力試験、開始してください」


 合図と共に試験官の開始の声が教室へと響き、受験生一同が一斉に紙を翻し、問題に取り組み始める。


(ククッ、しかしなんか申し訳なくなってくるな。俺は他の人と少し前提が違うからなぁ)


 カリカリと書き綴る音が響く中、クーはどこか余裕を持ちながら問題を解く。一般市民の多くと貴族の教育の質はまるで違う。仮にもズーハルトの家にいて勉学に励んでいたクーは、この中では圧倒的アドバンテージを得ているも同然だった。


(ふむふむ。えっと……ああ、うん。あれ、これどっちだっけぇ。あーまあいいや。とりあえず飛ばそうっと。うげ、記述嫌いなんだよなぁ。これも飛ばしちゃおっと)


 ……アドバンテージを得ているも同然、そのはずだ。……多分、恐らく、メイビー。


「──終了です。手を止め、筆記用具を置いてください。以後、書き込みは一律で失格となります」


 しばらく時間が経った頃。見回ったりしていた試験官が、教卓の前で終了を告げる。


(あー疲れたもうぅ。とりあえず答案は埋められたから良かったぁ)


 クーは思いっきり伸びながら、試験官により受験生の問題と答案が回収されるのをじっくりと待ち続ける。


「問題と答案、回収完了しました。これより一時間お昼休憩を挟んだ後、実技試験の方へ移ります。つきましては各自準備と移動の方、よろしくお願いいたします」


 一礼し、部屋から去っていく試験官。教室内の空気は弛緩し、暫しの休憩が訪れる。


「お、肉巻きおにぎり。ララめ、良いチョイスしてくれるじゃないか。はむっ、うー美味っ」


 せっかくなので外に移動し、解放されていた中庭のベンチで一人用意してもらったお弁当に舌鼓を打つクー。タレがとても染みていて美味しい肉巻きおにぎりだ。


(しかし……あれだ。米はらしきものがあるにはあるが、だからこそ前の世界の白米が恋しくなるなぁ。この手のテンプレだと東方の島国みたいな感じのエセ日本で栽培されてるのが定番だけど、この世界はどうなんだろうなぁ。あったら是非行きたいなぁ。ホカホカの塩むすび、食べたいなぁ)


 前の世界の上質な白米に思いを馳せてしまいつつもペロリと完食したクーは、ここいらで尿意を感じたので、トイレを済ませる。

 

「ふんふふすっきりー……おっ?」


 教室までの帰宅の最中。まだ猶予があるので軽く学園の散策でもしちゃおうかなとか、そんなことを考えていたクーがベンチより立ち上がり、移動しようとした矢先、ついそれが目に入ってしまう。


「うう、僕はもう駄目だ……ううっ……」


 それは運命による引き寄せか、それとも本当に偶然のなした奇跡か。ともかく中庭の片隅の木陰にて一人寂しく蹲る、橙髪が特徴である中性的な少年の姿。


(初めまして、ステラ・ワンダー。或いようやく会えたなというべきか、主人公くんちゃんよ)


 彼はこの世界、この時代の根幹たる人物の一人。つまりは【学園受験に失敗しそうだった僕ですが、封印されていた女神にTSされ、更には百合ハーレムを築くことになりました!?】の主人公──ステラ・ワンダーとの遭遇に、クーは喜悦で存分に顔を歪め、ペロリと舌で唇を舐めてみせた。

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