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成し遂げろ、怪物狩りを

 何やかんやありながらどうにか芝生の迷宮を抜けたクー達一向は、無数の蓮の葉が襲ってくる湖を渡り、丸太一本の橋しかない谷を越え、そして現在はたまに大きな岩が転がってくる山をの八合目辺りを登っていた。


「何か山を登ってるとさ-、試練もこう大詰め~って感じしない?」

「分かる。そうでなかったとしても、頂上が一区切りって感じ強いよな」

「そうそう! いやー、やっぱりクー君とは気が合うなー! あっははー!」


 クーが頷くと、ルルラルルは満面の笑みを浮かべながら、転がってきた比較的小さい岩を槍で突き穿つ。


「クー君的にさ、どこが一番きつかった?」

「やっぱり最初のだな。一切平衡感覚を失わず、完全に真っ直ぐ進まない限り抜け出せないのはどうかと思った。正直地面に線を引くって発想をルルラが出してくれなかったらドツボに嵌まっていた。そう確信している」

「でしょでしょ! あたしはあれだなー、湖! 実は泳げないから、クー君が魔法で水面歩けるようにしてくれなかったらあの食人葉っぱの餌になってた所だよー! あっははー!」


 まだ終わっていないというのに、二人はまるで反省会のように試練境での出来事を振り返っていく。


「……ありがとねクー君。あたしだけだったら、きっと最初の迷路で一生迷ってたと思う」

「なんだいきなり。お礼がとても嬉しいが、それを言ったらお互い様だろ。俺もルルラがいてくれて良かったと思ってるぞ」

「あはっ、ならお互い様だね! あたし達、最強のコンビ! あっははー!」


 突然しんみりと礼を告げたルルラルル。しかしクーが軽く笑い飛ばしながら言葉を返せば、ルルラルルはいつも通りの笑みを取り戻す。


「……試練境を抜けたら、もう冒険はおしまいなんだよね。なんか、寂しいなぁ」

「ククッ、らしくないなルルラよ。怪力と前向きと切り替えの早さ、それがお前の取り柄だろう? 人生魔だこれからなのに、おしまいと決めつけるほど殊勝な性格じゃないだろう?」

「……もークー君のいじわる! 大体そこで褒めるべきは力の強さじゃなくて槍の巧さって言って欲しいのが乙女心なんだけどなー! あっははー!」


 ルルラルルが笑ったあと、しばらく歩き続ければ、ついに山の頂上が二人の前へ姿を現わす。


「……なにあれ、ドラゴン……いや人? 何とも歪で半端、おどろおどろしい異形だが、なんなんあれ……?」


 山の頂上。まるで巨大なコロシアムのように開けた大空間の中央に構えていた、ドラゴンと人の中間のような、灰色の皮膚をした物言わぬ異形の怪物に、クーは警戒しながらも首を傾げる。


「妖精の試練の大詰めと言ったらさ、やっぱりジャバウォックじゃない? ほら、黒い鱗にコウモリの翼に蛇の目、ドラゴンと人を混ぜたような灰色の皮膚の変な怪物! お伽噺によく出てくる妖精の世界の番人でお馴染みなあれ!」

「……確かに。ククッ、英雄試練の最後を飾るにはお誂え向きの相手というわけか。しかしあれだな。可憐な容姿の割に、中々どうしてグロテスクな魔性を飼い慣らすものだな。妖精というのは」


 クーは納得と同時に口角を上げつつも、怪物を真剣に見据えながら杖を抜き、ゆっくりと魔力を練り構える。

 

(なるほどなるほど、ジャバウォックか。挿絵担当のイラストレーターことセカユリ先生は重度の女の子書きたい症候群の人なせいか、こいつに挿絵とか一枚もなかったから結びつかなかったが……うん、文章の五倍はグロいな)


「何にせよ、俺達コンビの最後の相手には不足なしだな。──前を頼むぞ、ルルラ」

「おっけい! 任せといてよ、クー君!」


 クルクルと槍を回しながら応えたルルラルルは、先手必勝と跳ねるように駆け出していく。


『ブルワァァア!!!』


 ルルラルルが頂上に足を踏み入れた瞬間、まるで試練開始を告げるかのようなけたたましい異形の怪物の咆哮が、周囲一帯を震わしていく。

 

「喧しい挨拶だな。──水よ(アル)天よ(デヴァ)、我らを保護せよ(プラミカ)」


 クーが杖を振るえば自身とルルラルルの全身が、水と風の保護膜によって守られる。


「ルルラ! あまり踏み込むなよ、まずは様子見だ!」

「分かってるよ! でも一撃で決めちゃえば終わりだよね! せえい!」


 あっという間にルルラルルはジャバウォックとの距離を詰め、左胸付近──大体の生き物が心臓を宿す場所──目掛けて、寸分違わず槍を突き刺す。


「な、硬っ……!!」


 だが弾かれる。ルルラルルが放った刺突は黒鱗に阻まれ、穂先の刃が無惨にも砕け散ってしまう。


『ブルワァァア!!!』


 灰色皮膚の怪物は一つ吼え、ニタリと笑った瞬間、太く歪んだ爪をルルラルル目掛けて振るう。


「あ、危なかったぁ! あいつの攻撃、喰らったらやばそうだ……まずいっ!」


 紙一重のバク転で回避したルルラルルはそのまま後退し、怪物の蛇の目には、魔法を構えるクーの姿が映る。


「火よ天よ(アグデヴァ)、火槍風射(ディブル・プラミカ)!」


 複合魔法発動。クーが杖で怪物を指し示せば、風により苛烈に燃え猛る炎の槍が対象を貫かんと放たれる。──だが。


「……うそっ、弾かれた。クー君の二属性魔法(ディブル)、ブラッディボアだって一撃なのに!」


 クーの隣へ降り立ったルルラルルは、灰煙が晴れてなお健在な怪物の姿に瞠目する。


「……強いな。正直な所、今まで戦った獣や魔物とはレベルが違う。ルルラはどう思う?」

「同感。確か一年前だっけ? ラリラさん達と一緒に倒した、おっきなガーゴイルバットの緊急依頼がアンマル一番だと思ってたけど、これは間違いなく更新だね。あっはは!」


 笑みこそ絶やさないルルラルルだったが、槍を持つ手が小刻みに震えてしまっている。


(ルルラルルの槍を弾く強靱さに加え、初級(プラミカ)とはいえ二属性複合(ディブル)を無傷で凌ぐ強力な魔法耐性。鱗か皮膚か、或いは組成として魔力を弾くか。……いずれにせよ、きついなこれは)


 クーは刹那の思考にて怪物の実力を考察し、導き出した結論に、心の中で舌を打ってしまう。


「一つだけ訊くぞ。……貫けるか、ルルラ?」

「──うん。全力ならいけるよ。溜めがいるけど、次は貫く」


 ルルラルルは断言する。獲物の矛を失いながら、それでも愛槍を、戦意を失うことなくはっきりと。

 

『ブルワァァア!!!』

「来るよ!」


 痺れを切らしたのか、咆哮の後、蛇の目で定めた怪物は口より吐息を噴き出す。炎よりもなお熱い、粘度ある煙の吐息を、二人は別個に跳び上がり回避する。


「水よ天よ地よ(アルデヴァブリ)、空にて一歩目を(プラミカ)。ならばルルラ、空を行き、少々時間を稼いでくれ!! 最大火力だ、少し溜める!」

「了解! こうなったらやってやるぞー、あっははー!」


 快諾したルルラルルは、クーが足裏へ纏わせた魔法で空を疾走し、死地へと飛び込む。


「火よ(アグ)、水よ(アル)、天よ(デヴァ)、地よ(ブミ)。形となり、練り混ざれ」


 空にてクーの詠唱が始まる。魔力が膨れあがり、現出した四つの属性魔法が、混ぜ合わさっていく。


『ブルワァァア!!!』

「よそ見しないで! 君とじゃれてるのはあたしなんだから! あっははー!」

 

 魔力の上昇に優先をクーへ定めようとした怪物。しかし瞬く間に最接近し、果敢に攻め続けるルルラルルに気を削がれ、鬱陶しそうに払おうと試みるが紙一重で躱され続けてしまう。


「集まれ。束(あつ)まれ。この一撃は嵐でなく、一条の星の如く、虹の橋を空へ架けるが如く」


 詠唱は続く。自作の木杖に罅が入る。ただ一人地上で奮戦するルルラルルは、身も心もじわりじわりと削られていく。それでもなお、クーは唱えるのを止めることはない。


『ブル、ブルワァァア!!!』


 ルルラルルは怪物の左目を潰す。だが同時に太い尾の直撃をもらい、吐血しながら吹き飛ばされる。


「──四色魔弾(クアトル・プラミカ)。友の礼だ、せいぜい味わえ」

 

 灰皮膚の怪物はクーへ向き直すが間に合わず。四色の魔弾は放たれ、刹那の軌跡を描きながら、怪物の左胸部へと直撃する。


「……全力だったが、これでも駄目か。ククッ、つくづく化け物め」


 だが怪物は倒れない。黒鱗が砕け、灰色の皮膚に届こうと、突き破ることは叶わない。

 

『ブルワァァア!!!』


 怪物は吼える。勝利を誇るように、自らの屈強さを知らしめるように、猛々しく。


「──クー君っ!!」


 次の瞬間、怪物の姿がぶれ、クーは衝撃と共に意識を失う。最後に聞こえたのは、ルルラルルが悲痛に自らの名を呼んだ、そんな声だった。

 

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