空間操作士キャトル
トントン。衛兵は、扉を二回ノックし部屋に入る。
「キャトル様。面会です」
部屋には、読書中の少女が一人。
「わーーっ!! なんで此処に居るのよ!」
この少女がキャトル。俺を視認するなり、読んでいた本を落とす。そしてすぐさま、机を壁にして隠れる。
「連れて参りました」
「連れてくるな!!」
衛兵が顔を俺に向ける。
「先程の話の続きですが、皆が呆然と立ち尽くしているところに、キャトル様が通りかかりました。そして、ボスがサンク様と衛兵を殺した事を聞くと『怖いから捨てる』と、床にワープゲートを作り、外に捨てました。その後、『戻って来たら怖い』と喚き散らし、全てのゲートを閉じられました」
本人の眼前で、よく暴露出来るものだ。
俺が道に倒れていた理由は、運ばれたのではなく、転移させられたかららしい。
真相がわかり、スッキリした。
「ふむ……」
「ちょっと!! そんな事、伝えないでよ。殺さないで! 怖い怖い怖い……」
泣きわめき、命乞いをするキャトル。
空間転移ゲートを作れる能力か。重宝しそうだ。
「我の奴隷になるなら、生かしてやっても良い」
「なるなるなるなる! 何でもする!!」
「契約、成立だ」
一筋縄では行かないだろうと、意気込んで会った相手が、あまりにもあっさりと配下につき、拍子抜けする。
ここに一人、側に置いてはいけない者が居る――。
「衛兵よ、用は済んだ。持ち場に戻れ」
「命尽きるまで、側にお仕えいたします!」
衛兵に冷たい眼光を向け、殺気を放つ。
「今ここで、尽きたいのか?」
「持ち場に戻ります!」
眼鏡女も、衛兵の後について部屋を出る。
部屋を見渡すと――誰も居ない。キャトルも一緒に出て行ってしまったのか?
「キャトル」
「はい!!」
キャトルの声はするが、姿が見えない。
「何処に隠れているのかな?」
「床……に居ます」
声がする方に向かう。
キャトルは、床にうずくまっている。逃げたければ、ゲートを作って逃げればいい。何故、逃げないのだろうか――。
「空間転移のゲートは、どのように作る?」
「ゲートを作りたい場所を指でなぞって、行き先を思い浮かべる」
「どこにでも作れるのか?」
「触れる物にだけ。液体や気体には作れない」
「行き先の制約はあるか?」
「私が行った事のある場所だけ」
「ふむ。ゲートの消し方は?」
「ゲートに触れるだけ。私がゲートに触れると消えるから、私は通れない」
なるほど。便利な能力を持ちながら、怯え、隠れる理由は〝自分だけは逃げられない〟制約のせいだ。他人にとっては便利だが、キャトル本人にとっては何の役にも立たない能力だな――。
「お前が望んで此処に居るのか? それとも出してもらえないのか?」
「お前じゃない。キャトルだよぉ。こんな所に居たくないよ……」
「誰に閉じ込められているんだ?」
「〝トロワ〟……」
また新しい名前が出てきた。
「トロワは、どんな能力を持っている?」
「見えなくする力……どこに居るのか判らないから、ずっと見られている気がして怖い」
「トロワを見た事はあるか? あるのなら、知っている特徴を教えてくれ」
キャトルは、性格がキツそうな、インテリ眼鏡女の絵を描いて俺に見せる。
「こんな人、ここには一人しか居ない。だから、見ればわかる……」
トロワは、ここまで付いてきた眼鏡女。
姿を消せる能力を使えるなら、監視役にうってつけ。
「おま……キャトルを外に出してやる。出掛ける支度をしておけ」