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前王弟殿下のかれいなる隠遁生活(スローライフ)【本編完結】  作者: 羽生 しゅん
冒険者講習編:脳筋も一種の筋肉だろ?
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インパクト・インスタント・イン採取

薬草採取講座、実践編です。

ただし、ほとんど採取していない気がします。


PV17000、ユニーク4900超えました。

いつもお越し下さり有り難う御座います。

ローレンが野生の美味しい果物を採ってきてくれそうです。



 薬草の採取の仕方にもいろいろある。

葉を採るものであったり、根ごと掘り起こしたり、褒めたり貶したり、戦って格の違いを見せ付けたりしなければならないらしい。

……最後のはローレンに可能な採取法なのだろうか。


 今回のリリ草は至って普通(普通以外があるのが可笑しい気がするが)、古い葉と新芽を避け、下から5枚ほどを傷付けないように上から下に折り取り、日に当てないよう保存袋に束ねて入れて保管する。


「花は?」


 花を摘み終わったラジーを連れ、ジャガルドが「変な事言うなよ」という視線を送りながら去っていってから、採取の実践講座が始まった。

ローレンもリリ草の花の群生は、ひとまず置いておく事にしたらしい。


 ガライがリリ草の前にヤンキー座りから何故か正座に変えて葉を慎重に取った後、ローレンに聞いた。


「花はガクのすぐ下の茎から取ります。花びらだけを取る時もありますが、より効能が高いのは未熟な種子の方なので」


「なんか可哀想」

ルミは花を観賞用以外に採るのを躊躇っているようだ。

それを見てローレンが「大丈夫です」と言う。


「リリ草は成長が早いので、花が咲く環境ならば、すぐに次の花芽が付きますよ」


「そんな再生力があるから、複合傷薬に使われるのですね」


自称執事はすでに片手で持てないほどの葉を集めている。その仕草はまさに茶摘み名人かと思われる程だ。


 ちなみに複合傷薬とは、普通の傷薬に治癒魔法を付与して回復量を底上げしている代物で、この町には診療所と町長の家にあるくらいだろうか。


しかし、そんな『市民にはちょっと高いけど良い物』が普通に身近にあった身分の人は、目にするのが稀である複合傷薬をアッサリ話題に出す。


生傷絶えない騎兵団に所属していた男も、当たり前のように「そうだな」とか頷いている。


「……複合傷薬って何?」


しかし町娘ルミには、とんと縁の無いものであった。むしろ、傷薬って1つじゃないの?と彼女は驚いていた。


その質問に、ハッとした大人2人。つい自分たちの価値観で喋っていた。


「魔法と生薬の入った傷薬の事だよ」


その間にローレンが端的に説明する。

レイニオが呆れた目でこちらを見ているのは気にしてはいけない。


「へぇ……、高いんでしょうねぇ」

それを察した彼女。レイニオと同じような目線を大人たちに送る。

つまり『身分バレても知らないんだから』である。


 その目線から顔を反らしたガライが、ふと木々の中に異物を発見した。


溶けそうな空の青、霧のような煙る緑、遠近感を惑わせるような大小の幹の焦げ茶色、そして(もや)のような白、豊かな土の黒。


相手も見つかったと判ったのだろう。

次の瞬間には近くの木の根元にいた。


厳つい顔を半分出し、紅色の目がジーっとこちらを睨んで……いや、見つめていた。


「あ、キング。どうした?」


ガライが普通に声をかけたため、その場にいた全員が一斉にそちらを向いた。

そして、初対面で何の心の準備もしていなかったローレンが悲鳴を上げそうになって、自称執事に口を塞がれている。


涙目の彼が目線を上げると、ニッコリと微笑まれた。


「あの方は、アンゴラスウサギのキングさんです。とても理性的な方なので騒がないで下さいね」


ツッコミどころ満載である。


ウサギを『あの方』って人間扱いしているし、アンゴラスウサギってあの?幻の珍獣でしょ。人目に触れる事無いんじゃなかったっけ?しかも臆病って話じゃなかったっけ?すっごく睨んで来ているんですけど!っというよりも、眼圧が強っ!何で刀傷あるの!?何よりも名前がキングってヤバくない!?不敬罪で捕まっちゃうんじゃないの!!


心の中で一気に捲し立てたローレンは、ビフレットが口から手を離した事に気付かない。


「あの時は有り難う、キング。無事にお家に帰れたのって、あんたのお陰だから」


あの日以来の再会である少女は、少し眼圧に()されたが、言いたかったお礼を改めて伝えた。

『気にすんな、若い内は失敗する事もある』と言わんばかりに鼻を鳴らされた。


「よかったなー、ルミ。ずっとお礼言いたいって言ってたもんなー」

ガライが微笑みながら、彼女の背中を叩いた。ちょっとよろめく。


「それで、俺たちは今、薬草の採取をしているんだけど、それ関係?」


それから、そう問い掛けると、白いもこふわは全体を現した。

鋭い目付きで地面の可憐な花を見、苛立ったように後ろ足で土を掻き、最後に後ろにガンを飛ばすように視線を送った。


それをふんふんと見ていたムキムキはポンっと手を打つ。


「なるほど、あっちにも似た花がいっぱい咲いているから見に行かないかって、お誘いかー」

「何で判るの」


思わずレイニオが突っ込んだ。キングはそれに耳をピクリと動かしただけ。


「しかも合っているみたいだし」

少し離れて見ていたレイニオにも、どこがどうなのか判らなかった。後ろに魔物でもいるのかと思ったくらいだ。

さっき、ラジー、屋敷に帰っちゃったんだよな、と何だか義兄弟に助けを求めたくなった。


「キングが判りやすくやってくれているから」


ガライが「なー」と巨大ウサギに同意を求めるが、ウサギは鼻をヒクヒクさせただけだった。


いや、判りやすかったか? と黒髪の少年は近くの少女を見たが、首を振られた。

だよね、と視線を戻す。


「ローレン、リリ草はこれで大丈夫?」

その間にガライはギルド講師に成果を確認する。


その講師は口を押さえられた時のまま固まっていたが、その声に「うぅえぇっ!?」と変な声を上げて再起動する。キングは耳を後ろに倒してバッチリ対策済みだった。


「は、はいっ。リリ草はちゃんと採取出来てます!」


「じゃあ、キングのいう似た花っていうのを見に行くけど、いいか?」

「似た花っていうと何なんでしょうね」


ガライが行動の是非を問うと、自称執事も興味があるのか思考を飛ばしている。

それを見て、ようやく危険が無いと判ったか、ローレンは落ち着きを取り戻す。


「オーヴェルクの花かもしれません。香りがよく、ポプリとかに使われるものです。行ってみましょう。僕も興味があります」


「……違うと思うなぁ……」

普通ならばローレンの推測が当たっている事だろう。

しかし、ここは貴重な薬草も自生する土地。今までの感じからいって、何か大事になりそうな予感がしたレイニオが思わず溢す。


ついでに「似た花……似た花、ねぇ? アレの事じゃないよね?」と思い至った結論を頭から追い出す。

余計な知識を持っていると、余計な事まで考えてしまうらしい。


「じゃあ行こう。キング、案内頼むな。……ゆっくりで」


ガライの言葉に走り出そうとしていたキングは、後に付け加えられたオーダーに「何だと!?」と振り向いた。

そして、見た目王子様10年後を見、見た目少年を見て「チッ、仕方ねぇな」とひょっこりひょっこり歩き出した。


その後ろ姿に和むルミは、ふと、それに気付いてしまった。


『ビフレットさんとローレンさん、もしかしてウサギに弱そう認定されてるんじゃあ……』


ウサギの後ろ姿と隣の美中年を見比べていると、少し前にいた筋肉ムキムキが、彼らから見えない位置で自身の口に手を当て「しー」とジェスチャーしてきた。

後ろにいたレイニオも肩を竦めている。


なるほど、シラーヌは本人ばかりってヤツね、と彼女は頷いた。


 ちなみに後でルミに確認したところ、シラーヌとは「何か高慢ちきなオバちゃんが勘違いしていたからでしょ?」という珍回答。

もっと勉強しましょう、とのキャロラインの言葉だ。






 さて、キングの指す『あっち』とは約20分ほど歩いた場所にあった。

彼にとっては『ちょっと』の距離だ。人間にとっては大分進んだ森の中、偶然にも以前ルミが魔物に襲われた辺り。


 ここに至るまで、魔物に出会わない事にローレンが首を傾げた。


「あの、ガラ()さん。この森って普段からこんなに魔物がいないんですか?」


「ん? 普段はいるぞ」

聞かれたガライはさらりと答えた。地元っ子のルミもうんうんと同意する。


「え? だったら何故?」

魔物がいないのか、というその問いにビフレットが苦笑している。


「ちょっと前に、森で魔法を使いまくった事件があってなぁ」


肝心の魔物の群れ襲来についてはぼかしているため、誰かが勝手に森で魔法を撃ちまくった事件になってしまっている。

その場合、犯人はウサミミフードと大根切りになるだろうが。


「魔素が減って戻りきっていない上、(ペリュトンのせいで)弱い魔物が帰って来ていないんだ」

「だから、今はよっぽど強い魔物か野生の動物しかいないのですよ」


大人2人がそう言うと、ギルド講師は頬に手を当て「心配です」という表情をした。


「森が無事でよかったです。木が折れる程の衝撃だったんですね」


そう言いながら、以前にガライが殴り倒した跡が残る木の幹に目をやった。

完全に勘違いである。


しかし彼らは訂正する必要性は余り感じなかったようで、誤魔化すように笑っただけだった。

何故か話が進まない。

そしてローレンが怯えすぎ。


ウサギがぴょんぴょんしてるんじゃーとか、アニキ、確信犯だろ!とか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。

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