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前王弟殿下のかれいなる隠遁生活(スローライフ)【本編完結】  作者: 羽生 しゅん
森からの来訪者編:森の跋渉は大腿四頭筋の鍛錬
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踊る阿呆にパンプアップする阿呆

ようやく視点はガライに戻って、ペリュトン戦です。



 「そっちに行ったぞ、ガライ!」


「何かこういうのあったなぁ。トゲトゲの天井が落ちてくる物語」

「ん。ラジーも、知ってる」


 平和的な言葉とは違い、頭上から迫ってきた鹿の力強い踏みつけを半身を引いて避ける。そしてその足を強化した力で引っ張る。


「これも見た事あるなぁ。みんなで何かを引っ張るやつ」


態勢を崩した相手に岩がゴツンと落ちる。

「大きいサチュいもの、つる」


地面に堕ちた魔物の顔へドロップニーが突き刺さった。


「ああ、それそれ。何で蔓の方が切れないんだろうな?」

その反動で急降下してきた別の個体を避ける。


「アニキと、おんなじ」

ウサミミが動作と共に、縦横無尽に煽られる。


「ん? 蔓が強化使って、抜けないように頑張ってるって事か?」

「ん」

「ねぇだろ」



「……何か、あそこ、チョー余裕な会話してるんっすけ、ど」


少し離れた場所でペリュトンを狙い撃っていた深緑色の髪の男が、角を突き出してきた相手をいなしながら、それどころじゃないだろう、と隣にいた老兵にぼやいた。




 時は遡り、屋敷の者たちがまだ執務室に集まっていた頃、ガライたちはペリュトンの群れと混戦状態にあった。


最初に足止め出来た個体は、未だに地面に足を取られているが、奴らは魔物。魔法を使ってきた。


飛び交う風の刃。

その合間に、何匹かの魔法が重なり、共振を起こして、たまに風の刃が混じったつむじ風が発生する。思うように近付けないそんな中、空に逃れていた残りの魔物たちは、仲間意識があるのか無いのか、空から強襲をかけてくる。


「どうやら、あれが通常営業らしいですな」


ステンがシールドバッシュで鹿の頭を殴りながら、ここ最近判ってきた事実を口にする。


「知ってはいるんだけど! 何で会話が和やかなんだよっ」

「うっせえ、お前は黙ってろ!」

「理不尽!!」


少し離れた所で剣を振るっていた相棒が大剣を横凪に一閃した後、ステイクをちらりと見て怒鳴る。


実は、ガライたちが動き回って戦闘しているがために、残った3人にペリュトンたちが殺到しているのだった。

しかし、そこは熟練の冒険者2人と経験豊富な元領地軍の兵士。

ステンが防御に専念し、ステイクが上空を牽制し、バジークは放し飼いで、何とか凌げている。


時折、ウサミミフードの子供か前王弟の護衛の魔法が飛んできて、何匹か引っ張っていくのが判る。


ただ、ペリュトンたちも鹿ではあるが馬鹿ではない。

誰が魔法を使っているのか理解し始めており、ステイクが魔法を使うのを止めようと、狙っている個体とは別の個体が背後から襲ってきたり、魔法を飛ばしてきたりしている。

だからこそステンが盾となっているのだが。相棒はどうした。




 「でけぇのが来るぞ!」

 前衛組から声がした。


途端に感じる魔力の高まり。

首を巡らせると、出所は地面に囚われているペリュトンたちだ。

風の刃を隠れ蓑に、何匹かが協力して魔力を紡いでいたようで、こちらの注意が知らない間に逸らされていた。

流石は群れで移動する魔物。


「阻止は!?」

ステイクが叫ぶ。気付くのが遅すぎた。


「無理っ!」


ぶわり、と風が起こった。

見る間に土煙と木の葉が枝ごと空へ巻き上げられる。木々も突然の竜巻に悲鳴を上げている。


「ステイク!」


己の大剣を地面に突き刺したバジークが相棒の腕を掴んだ。そして剣の陰に引き込む。

こういう瞬時の判断はバジークに長がある。

その後にステンが続く。


全てを吸い込みそうな風圧が彼らを襲った。吹き付け体を地面に押し付ける、かと思えば体を宙に持っていこうとする暴力的な風。


幸い先程のような人間たちを近付けまいとする弾幕如き風の刃ではないが、それでも他のものと一緒になって飛んでくる。


砂や石、カマイタチ、木の葉、木の枝、カマイタチ。


竜巻に巻き込まれないように空を飛んでいたペリュトンたちは距離を取っているようだが、地上にいる人間たちはそうもいかなかった。




 「……。ラジー! 大丈夫か!?」

 ガライは背中におぶっている子供に声をかけた。


うまく態勢を取りながら風をやり過ごしたガライだが、現場から幾分飛ばされたようだ。

傍にいたはずのジャガルドの姿が見えない。木立で遮られているのだろう。


もぞりと動いた気配がして、ラジーが顔を上げたのが判った。


「んー、ウサミミ切れた……」


落ち込んだ声で子供が返した。

視界の端に持ってこられたウサミミは、確かに半分くらい切られている。あれだけ風に煽られたのだ、仕方ない。


「帰ったらチヤに直してもらおうな」

「ん。アニキは、いたい?」

「あー……、まあ、いけるだろ」


見られていたか、とガライは心中で悔いた。


竜巻の最中、飛ばされた衝撃からラジーを庇ったがために肩から木にぶつかったのだった。


まさか、石と、木の枝と、風の刃と、木そのものが飛んでくるとは思わなかった、と右手で赤銅色の頭を掻く。


魔法の発生源に近かったため、威力も強かったようだ。強化はしていたが、他に気を取られたため疎かになったのも事実。顔に出す訳じゃないが、多少痛みが走る。

ぶつけた肩は左。利き腕じゃないとはいえ、バランスが崩れるだろう。


筋トレ(しゅぎょう)が足りないなぁ。ん!? もしかして、ポンプアップの機会だと思ったらいいんじゃないか?」


違う動きを余儀なくされるという事は、違う筋肉を使うという事。


はたと思い付いたガライの頭をペシペシとラジーが叩く。


「だめ。ラジー、がんばる」


それに情けないなぁと思いながら、苦笑する。

ラジーに「頑張ってくれ」とは流石に言えないし、同意もしていないが。


 「ガライ! しゃがめ!」


 突然の声に、ガライは瞬時に地面スレスレまで身を屈めた。後からバジークの声だと気付く。

それと同時に側にあった木から離れるようにして跳びずさる。



ィイイイイイ……ン



金属が鳴く音がした。

次の瞬間、側にあった木がぐらりと揺れ、真ん中から滑り落ちる。


それは一刀の元に切り捨てられたのだ。

ガライを狙ってきたと思われる魔物を伴って。


「油断しすぎだろ! 次来んぞ」


その声に上を向けば、葉霧に隠れてこちらの捕捉はされていないが、数匹の魔物が見え隠れしていた。


「助かった、バジーク! 流石『さすらいの芝刈り機』」


木だった物の向こうで、振り切った後の(あか)く染まった剣を引き戻しているムキムキに手を上げた。


「芝刈り機、だ! あ、合ってんのか。……ヤツら、立て直しが早いからな、気をつけろ」


それだけ言って、石礫が上空に撃ち出されている場所へと、何か違和感のある呼び名に首を傾げながら向かっていった。

ステイクたちの元に行くのだろう。


そこにジャガルドが入れ違いで近付いてきた。


「あー、オヤジにどやされるー。……相変わらず見事な『大根切り』だな」


前半は幼馴染みを見ながら、後半は側にある、すっぱりと切られた木の幹へ注がれていた。

その断面は炭化しており、ちろりと火の粉も見受けられる。余韻のように熱風が髪を揺らす。


「そうだな。高温で熱した剣と、更に空気が熱で膨張する爆発力を活かして高速で斬り込むんだったか」


バジークの二つ名は本当はここから来ている。


ある依頼で、獲物を追っていた彼が邪魔な大木を先程のように斬り払ったのが最初らしい。


大木の幹が彼の前では物ともせずに真っ二つにされたという事実がギルドに報告され、その後、居合わせた者によって(まこと)しやかに囁かれ、『大根(おおね)を切る男』と定着したためである。

あと、討伐された魔物は思いっ切り無視された。


「あと、ヴォル団長には黙ってればバレない!」

「そういうもんじゃねぇだろ……」


「魔法、なの?」


ラジーがその木の幹に向けて水をかけながら聞いてくる。森で火の気は残してはいけません。


「魔法らしいぞ。アイツもよく判っていないらしいが」


何か出来ているから使っている。認識はそんな程度らしい。

先程の説明も、本人ではなく周りが解析した結果だ。本人は魔法より己の筋肉で勝負したい人種である。


「ガライ、残りどのくらいだ?」


ジャガルドがガライに尋ねた。彼が視覚強化も出来るのを知っているためだ。


「うーん……、後10匹かな」


先程魔法を使った地面に囚われているペリュトンが7匹だったはずなので、フリーは残り3のはずだ。


「もうすぐ、ぬける、かも?」

ラジーが首を傾げる。

抜けるいうのは、土の拘束を、という事だ。

ヤツらだって、この時間の間に拘束を抜け出そうといろいろやっていたのだろう。そんな感じがする。


「ラジー、地面凍らせられる?」


ガライが後ろから来た滑空からの頭突きを横にずれて避け、ジャガルドがそれに向け槍をスイングする。若干槍の使い途が違う気がする。


ラジーにしたガライの提案は、地面のペリュトンたちの拘束を強めるものだ。やはり頭上を取られるのは少々不利だから、取られないに越した事は無い。


「じめんに、手をつく、じわじわ」

「ああ、『ライズ王国騎兵団式開墾術その1』の応用か」


使い手であるジャガルドには、その説明で判ったらしい。ガライが背後の子供を見る。


「じゃあ、降りる?」

「ん」


おんぶヒモをほどいている間は護衛がしっかり仕事をして、ラジーは久し振りに地面に降りた。ちょっと寂しい気がするのは気のせいだ。


「近くに行かないと、魔力浸透が出来ないと思うんだが」

「アニキ5人ぶん」

「何の単位だ、それは」


おんぶヒモを仕舞おうとしていたガライは、また突撃してきたペリュトンに何を思ったか、そのヒモを引っ掛けた。

突進の勢いで、そのままあっという間に宙へと連れていかれる。


「ガライ!?」

「ルドはラジーを頼むっ」


一瞬目を離した途端、これだ。


慣れたようにペリュトンの首根っこに跨がったガライは、暴れる魔物とロデオしているかのように空を暴れ回る。

こうなれば敵味方ともに手出しは出来ない。


「……はぁ。ラジー、じわじわしに行こうか……」

「ん」


諦めたジャガルドは空飛ぶ幼馴染みの要望通り、地面に埋まっているペリュトンたちを優先する事にした。




まだペリュトン戦続きます。

屋敷組はこの頃、結構真面目な話をしていたはずなんだけど。


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