限りある資源は時に武器にもなる(物理的に)
すみません、リアルが忙しくて、小説書く体力がなかったです!(つまり寝落ち)
しばらく更新速度遅めかもしれません。
今回は鳥肉料理食べ放題……ではなく、終わった後の話になります。
朝、扉を開けると、ウサミミが飛び込んできた。
「おねえちゃん、おはよ。いっしょに付いてきて」
頬を染め、力一杯訴えるその姿は、何のしがらみも気負いもなく、むしろいつもより力が入っている。
理由が判らず、一緒にいた保護者に目を向けても肩を竦めるだけだった。
その内、この子供のポーズもあの筋肉ムキムキに影響されて、フロントリラックスポーズに見えてくるかもしれない。
ルミは朝の爽やかさの中、ウサミミフードの襲撃にしばし思考を放棄していた。
「あのさー、昨日、森の木を殴り倒しちゃったんだけどさー」
彼の主は唐突に話を始めた。
『幸せの鳥をお裾分け★パーティー』は、みんな満足するまで飲み食いし、一部(お酒メインの方々)を残して片付けに入ったため、先に帰らされたガライと、町の人との交流で野菜苗を分けてもらえる事になったため屋敷に戻ってきたビフレットが、畑に行こうか、と思った時の会話だ。
「一応聞いていますが、どうしたのですか?」
キャロラインとレイニオの会話でそんな事を言っていた気がする、と自称執事は思い出す。
目の前で木を引っこ抜かれた次の日だったので、驚きは少なく、それよりも森は大丈夫かと心配になったくらいだ。
彼の中では葉霧の森は荒廃が進み、更地になっていた。
もちろん、現実はそんな事はなく森は健在で、翌日、窓から見えた朝日に煙る葉を見て安堵すら覚えてしまった。
自分の主を何だと思っているのだろうか。
ガライによって倒された木は、10本前後あるらしい。
氷像を抱えて帰ってきた時のまま、その場に放置されている。
「それを回収して、ちょっと作りたいものがあるんだけど。手伝って?」
「若様……」
可愛く言ってもダメだ。
何故って?
サイドチェストしながらだと効果はマイナスになるからだ。
ビフレットは今日もキレてる筋肉を見ながら溜め息を付いた。
「確かに、倒した木をそのままというのは駄目でしょうね」
ポーズには特に言及しないまま話を進める。
木の回収は必須ではないかもしれないが、した方がいいだろう。
大体、殴り倒した張本人がここにいる事だし。
本当はこういう森の木は、必要な時、必要な分だけ取るものだ。
今回は必要に迫られて、と言えなくもないが。
家具を手作りする以外、薪くらいしか使い道がない。
「リサイクルはいい考えですが、何を作るのですか?」
結局のところ、主の要望は出来るだけ叶えようとするビフレットなのであった。
「俺にはその手の知識が無いから作れるか判らないけど」
そう言って伝えられた言葉に彼は大いに納得した。
用途が容易に想像でき、平和的。
木材の入手経路は、この場合考えてはならない。
「そういう事ならお手伝いさせて頂きます」
美中年はその相貌をさらに輝かせて、優雅にお辞儀した。
そういう事で、秘密裏に葉霧の森の倒木は回収される事となった。
昨日の出来事の相方のジャガルドは、唐揚げと共に出されたお酒を町の人と飲み交わしていたので、今日はあまり役に立たないだろう(更に水浸しになるおまけ付きだ)。
酔いはすぐに醒めるタイプなのだが。
よって、またレイニオを巻き込む事になってしまった。
レイニオ自身も「まあ、そういう事なら」と協力してくれるようだ。今日はスプリングルのシンに乗ってもいい、と言ったのも大きかったかもしれない。
本当なら実力的にガライ1人で森に入っても大丈夫である。しかし、王族という身分があるため、おいそれと1人になる事は出来ないのだ。
それも魔物が出る森とあっては余計に。
まあ、レイニオがいたからといって、何が変わる訳でもないのだが。
「葉霧の森の木ってさ、そういう事に使える種類なの?」
スプリングルに揺られながら、黒髪の少年は隣を走る男に尋ねた。その問いに、ちらりとそちらを見て、以前目を通した書類を思い出す。
「資料によると、内部はうっすらとピンクがかった白で材質はやや堅め。湿気による狂いが少なく、家具とか建材に使われるって書いてあった。だから、使えるはずだ」
その答えにレイニオは、この木がねぇ、と周りを見渡す。
「ふうん、じゃあ売れなくもないんだ」
現実的な物言いにガライは思わず笑った。
「王都近くまで輸送出来れば金にもなるんだろうけどなぁ」
「船が通るような川も遠いし、輸送するには重量がありすぎるし、距離もある。街道は辺境のせいかあまり整備されてないし、元が取れない?」
言い淀んだ言葉を適切に汲み取って、レイニオはその答えを導き出す。
「そういう事。よく勉強してるなぁ、執事見習い」
ガライが我が事のように嬉しそうに目を細めた。
「自称ただの執事には負けたくないからね」
その自称ただの執事は、今頃畑に苗を運んでいるはずだ。
未だ教えを乞う立場だが、何時かはその地位に立ってやる、とレイニオは常々思っている。
「おっと、魔物だ」
2人と並走するように森の中、追いかけてきたものがある。
そちらを見ると、角が3本ある鹿が走っていた。
通常のものよりも一回り程大きく、顔の3倍はありそうな角は葉の合間から落ちてくる光に鈍く光る。
体毛は固そうな暗褐色。
地を蹴る脚はどこまでも力強い。
「うーん、鹿も美味しいんだけど」
そんな魔物を見たガライの一言。
普通は魔物に襲われる事に恐怖を感じるところだが。
「アニキ、さっきプテラスバードで大騒ぎしたところなんだから。クマも残ってるよ」
「だよなぁ」
思わず食料として考えてしまうのは、もはや反射とも言えなくもない。むしろ、チヤが何と言うかに思考が割かれている。
ガライだけでなくレイニオも。
慣れとは恐ろしい。
「とりあえず、倒しておこうか。木を運んでいる時に邪魔されても困るし」
普通なら町の人の安全などと言うところではあるが、考えた上での結論である。
恐らく昨日の騒ぎで魔素が一時的に乱れ、普段いないような所に迷い込んだ個体なのだろう。魔素自体は消費された方なので、しばらくは一帯での魔物の発生はないはずだ。
「ここは「森へお帰り」とか言って見逃すとか」
「鹿だからむしろ狼使って攻撃じゃないか? ああ、そういえば昨日、ウォルフだった!」
何処かで読んだ結構過激な聖女の物語を持ち出したレイニオに、ガライは森を守るために戦う狩人の物語で返した。
もちろんグリーンウォルフたちはこの鹿の傘下というわけではない。
「森へお帰り」と言ったところで相手に伝わるはずもなく、あからさまにこちらを狙ってきている。
角の色が僅かに金色に輝き出した。
「魔法が来る。シン、ジャンプ!」
ぐぅ、とスプリングルが声を上げ、スピードそのままに跳躍する。
馬よりも身軽な分、なかなかの跳躍力。
騎手の少年は自身の魔法で体勢を維持している。
その下から尖った石が地面を突き破って生えた。そしてスプリングルの影を追いかけるかのように連なっていく。
「弱いものいじめ反対ー。ちょっと魔法が使えるからってさ」
その隙にガライが何もしないはずがなかった。
スピードを上げ相手に接近、勢いそのままに横っ腹へ飛び蹴りを食らわせる。少なくともダメージは入ったようで、足が縺れている。そこに体を回転させラリアット。
「離れて」
引き返してきたレイニオが風の刃を放つ。磁石の斥力のように離れたガライの側を通り、急所を切り裂いていく。
が、それを地面から出現した土の壁が中断させる。
「自分で視界を隠しちゃダメだよ」
土壁を前に肩を竦めた少年は、土壁のその上を見上げた。
そこには準備万端の男。
バッと壁を蹴る。
自分の自重と強化と加速。
それらを加味してクロスチョップが放たれる。
ドンッと地面が揺れた。
昨日よりはマシだな、と思ったレイニオは重症だ。
少し地面が陥没している。
土壁が崩れていく。
そこからガライは体勢を整え退いた。
「さて、もう少し先だな」
倒れたまま動かない鹿の魔物をその場に放置し、2人と1匹はさらに森の奥へと進む。
「それはそうと、木を持って帰るって事は、両手塞がらない?」
レイニオが今更ながら武器を持たない男に尋ねる。
「昨日も氷持って帰った時はそうだったぞ」
「ああ……、あれね」
その答えに昨夜、義理の兄弟が作り出した氷を思い出す。何であんなにディティールにこだわっていたのか。
「俺は出会い頭、蹴り倒していたな。ルドは魔法があるから」
自分の格好をした氷(更にポージングをきめている)を担ぎ、魔物に蹴りを放つ筋肉ダルマ。
見たいような見たくないような。
「それ以外はスルーしてた。討伐依頼とかじゃないし」
「魔物からしたら通り魔みたいな気がする」
「いざってなったら、木を置いて応戦するから!」
キラリと歯を輝かせてサムズアップ。
「うわぁ、ウザッ」というのを隠さず顔を引き吊らせる少年。
しかし、その心配は実現する事無く、蹴りと生木による殴打だけで無事に(?)彼らは木を回収するのだった。
葉霧の森は本当はルミが以前言っていた通り、大人でも十分用意して行かないと危ないのです。しかし、この人たちときたらお散歩代わりに行っちゃうという。
何作るんだろ、わくわく!とか、何だかんだ言いつつ付き合ってくれるレイニオ、ツンデレだな、とか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。