早朝のレモモードと隠し味
何か最近、小説書いていると眠くなるんだよねぇ……。
今回は鳥肉料理満載でお送り致します。
メモのご準備を。(必要ないです)
プレートの町は、王都より伸びる中央街道の途中にある分岐の1つから枝分かれした街道の、終点近い場所に存在する。
街道はプレートの町の中を走り、葉霧の森の浅い部分を切り裂いて彼方へと去っていく。
町の広場は、そんな街道で真っ二つに輪切りにされるような形で作られている。
用途として、有事の際の避難場所や集会などに利用が挙げられる。
元よりメインの街道からは外れているため、交通量はあってないようなものだ。旅の妨げになるような事は、あまり無い。
本日は、広場全体に遠慮も何も無しに各家庭から持ち出されたテーブルが並び、人がひっきりなしに歩き回り、広場の隅に特設された竈からは美味しそうな匂いが漂っている。
すっかり用意の出来たラジーは、レイニオに手を引かれやってきた時、その光景を見て「本当に、お祭り」と思わず呟いた。
それを聞いた義兄は思わず苦笑い。
鳥1匹でここまでの騒ぎになるとは。
竈の側で料理の具合を見ながら、井戸端ならぬ道端会議を行っていた主婦と思わしき団体の中に、母親の姿を見つけて、子供たちはそちらへと歩み寄った。
プテラスバードの墜落地点から帰ってきていた母親も、子供たちに気が付く。
「お母さん、おはよう」
周りのおば様方からの好奇の視線がグッサグサ刺さるのを感じ、ちょっと怖くなったラジーはレイニオの後ろから母親に声をかけた。
おば様たちからは、黒髪の少年の後ろからウサギの耳だけが見えている。
「ラジー、よく眠れたかい? レイニオもありがとね」
「別に」と視線を合わせないレイニオと、こっくりと上下するウサミミ。
「昨日は疲れていたんだろうね。部屋までだっこしても全然起きなかったからさ。みんなにもお礼言っときなよ」
その言葉に、そういえば同居人たちを見かけなかったな、とウサミミが傾げられる。
おば様たちからは、ウサミミの角度が僅かに変わったくらいだった。
「ああ、アニキたちの事?」
それを察したラジーの盾が後ろに振り向き尋ねる。それに「ん」と返すラジー。
「みんなには、いろいろ頼んでいるんだよ。言い出したのはあの子たちだからね、働いてもらっているのさ」
前王弟たちにおつかいをさせる料理人。
本来なら処刑ものな事柄であるが、本人たちは気にしていないし、周りは気付いていない。
おば様たちは「やっぱり王都の人は垢抜けているわねぇ」だの「シュッとしてて気が利いてるわぁ」だの好き勝手に囀ずる。
そんな団体に「お、いたいた」と声がかかった。
聞き覚えしかない声に、ラジーは振り向き突進。その足にしがみついた。
足はタタラを踏む事なく受け止める。
「アニキ、おはよ」
「おはよう。よく寝られたか?」
上を向くと、赤銅色の髪の毛と金色の目が見えた。
足の持ち主ガライは、そっと取れたウサミミフードを戻す。
「ん、すごく元気」
そしてポンポンとフードの上から手を乗せる。
「レイニオもラジー見てくれてありがとな」
「兄として当然です」
素っ気ない返事だが、少し口角が上がっている黒髪の少年。
「そんなお兄ちゃんにプレゼントだ」
そう言って、ガライは手に持っていた籠を渡す。
「流石にベリリの実はなかったけど、ミナンの実があったから取ってきた。昨日のお駄賃、な」
ミナンの実は少し分厚目のデコボコした紫色の皮を持つ。なかなか美味しそうに思えない外見の果実だ。
しかし皮を剥くと、中は白色透明で房のある果肉が顔を出す。少し酸味があるが爽やかな甘みがあるため、生のまま食されたり、果汁を搾ったりして利用される。
子供にはジュースとして人気がある果物だ。
「おや、どこで見つけたんだい?」
それを見ていたチヤが聞いてくる。
おば様たちも興味津々である。
「朝、ルドとジョギングがてら隣町までレモモードの実とかの買い出しに行った時の途中。隣町寄りの位置だったかなぁ」
基本、森に生えている植物は誰の物でも無いため、採取しても怒られる事はない。早い者勝ちである。
が、そこに木があるというのなら、また実がなれば取りに行けるだろう。
ちなみにレモモードの実はすっぱい。
ジャガルドが「唐揚げにレモモードが無いなど考えられるか!」と言い出し、レモモードが育てられていた果樹園がある隣町まで、早朝ジョギングの延長で走って行っていたのだ。
隣町と言っても結構な距離があるはずなのだが。
果樹園の主は、走ってきたという彼らを思わず二度見した。
「有り難う、アニキ。唐揚げにも合いそう。ラジーにもあげるね」
籠を受け取ったレイニオが匂いを嗅ぐ。少し甘い爽やかな匂いが鼻を擽る。
「ん。ありがと」
ウサミミが上下に揺れた。
「アニキも、ありがと。助け、きてくれた」
ラジーがそう告げると、見上げていた金色が細められた。
「どういたしまして。アニキとして当然ですってな」
「アニキ!」
レイニオの羞恥からの声は無視され、フード越しに頭を撫でられる。そして視線はチヤに向けられた。
「チヤ、キャロが何処にいるか知らないか?ビフレットがそろそろ始めるって言っているんだけど」
太陽みたいな色だけど直視出来る目線が逸らされて、少し残念に思うラジー。
心境を察したのだろう義兄は、まだ少し赤い顔で肩を竦めた。
「キャロなら町長たちと何か話していたね。町興しとか何とか」
どうやら幼馴染みの彼女は職業病を発揮しているらしい。このパーティー(?)を恒例イベント化出来ないか考えているようだ。
領地経営に隙がない。
「とにかく、始めるようなら料理を並べないとね。皆さん、運んで下さい!」
周りにいたおば様たちが一斉に動き出した。手のついでに口も動くので、一気に場が華やかになる。
メインの唐揚げは山盛りに。
甘辛だれ、薬味、オケオケソースがその横に添えられる。塩コショウは各自お好みで。
チキンソテーには輪切りのレモモード。ガリンクバターとの相性バッチリ。
ガライのリクエスト、蒸し鳥にはゴルマのドレッシングがかけられ、グリーンサラダを彩っている。
チーズと共にお皿に乗っているのはスモークされた鳥肉だ。ナッツも乗っているため、お酒を嗜む人用として用意されているのだろう。
葉物野菜の上に乗せられたササミの間にチーズを挟んだカツと呼ばれるもの。
ラジーの願いも叶えられているようだ。流石、母親。
そして、長時間煮込まれたのであろう薄く色付いたチャーシューと、串に刺さって茶色いタレにつけられたもの。
「へぇー、焼き鳥かー。チヤ、ソイソイソースなんて手に入ったんだ?」
ガライは王都で1度だけ食べた事のある料理が山盛りになっているのを眺める。
ソイソイソースは東の国からごく稀に入ってくる調味料だ。だから、王都といえども、ほとんど見かける事はない代物である。
「村長さんからの提供さ。前にもらったのはいいけれど、使い道が判らなかったらしいね」
これ幸いにと出してきたのだろう。チヤとしても幸運だった。
これだけでも料理の幅が広がる。
よって、今日の料理のレパートリーはこの町の主婦も手伝って、滅多にお目にかかれないほどの数になった。
果物と野菜の名前は、微妙に元が判るように変えてあります。
だって、キャラの名前が……!共食いが発生する……!?
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