第二百四十五話 サンレモ・リッチ
ーーその頃、とある海外の前線。
「そろそろ、向かうかな。少しウザい先輩方も居るけど、何よりもボスの望みとあらばね。 」
引き締まった肉体、勇ましい金髪の青年はとある海外の魔術師前線でボソッと呟いた。
「お前、何をしたッ!? 」
「……3秒で片付けるかな。 」
周囲には顔に大きく損傷のある魔術師が山積みになっている。残すところは後一人。
familiarの大きい収入源となっている各国の魔術師との戦争に終止符を打つ、通称魔術師殲滅作戦は基本的には複数名で行われることが多い。
当然、相手の数がfamiliarの部隊人数の何倍、何十倍になる可能性もあるからだ。
備えあれば憂いなし、リアンの方針は設立当初からずっと変わっていない。
「ファイヤーボール!! 」
魔術師が巨大な炎の塊を生成し、苦難の思いで青年へ放つ。ジリジリと空気を焦がし、ゆっくりと近づいてくる塊に恐れをなす事なく、彼はニヤリと口元を緩めた。
握るのは拳、剣でもなく、特殊な武具を装備しているわけでもない。生身の拳だ。
「俺に魔法は効かない。それ、見てきたんじゃないの? 」
重心を低くして、両足で地面を蹴る。
炎の塊へ飛び上がり、強く握った拳を放った。
凄まじい音と共に燃え盛る炎の塊が爆発し、バラバラと崩れ落ちる。
「……なッ!あの報告は本当だったのか!各国の魔術師をたった一人で壊滅させる……魔術師殺しの存在を……!! 」
直後、魔術師の顔面に青年の拳が捩じ込まれた。数メートル先に大きく吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。即死ーーとまでは行かないが、一瞬で意識を飛ばせたのだろう、白目を剥き、動かなくなった。
「魔術師殺しね。そんな風に呼ばれだしたか……くだらない。さて、増援に向かうとするかな。 」
拳を強く握り、地面に叩きつける。
爆風で飛び上がり、自分が進みたい方向と真逆の位置の空気を殴りつけた。
瞬間、凄まじい爆風と衝撃波で金髪の青年はその場から消えた。
超高速で自ら吹っ飛ばされ、目的地へ向かったのだった。
「《赤目》、君のその眼が前から気に食わなかったんだ。 」
ギルは真っ赤に染まった瞳でサンレモを睨みつける。ギルのこの状態は相手を消滅させるのと同時に、凄まじい戦闘能力の向上があり、肉弾戦だけで言えばfamiliarの中では2番目に強い。
「願望、赤目の攻撃は俺には絶対に当たらない。 」
サンレモの周囲の空気が変わった。
戦闘で張り詰めていた空間が突然何かに支配されるように。
その異変にギルは気づいていたが、敵を前にしてなりふり構ってなどいられない。
「……歯ァ食い縛れよ、クソ魔術師! 」
ギルは緋色に煌々と光る瞳でサンレモを睨みつけ、拳を握りしめる。顔面を確実に捉えたスラリと伸びた長い足による前蹴りーーは空を切る。僅かにサンレモに届いていないようだった。
次に次にと拳と足を駆使して怒涛の猛攻で攻め続ける。何一つ表情も変えず、避ける姿勢も見せないサンレモ。だが、何故かギルの猛攻は空を切るばかりだ。まるで暖簾に手押し状態。
「はぁ、はぁ、はぁ……何故……! 」
「もう終わり?まあでも、悪くない攻撃だったような気がするよ。 」
サンレモはさてと、と呟きながら、何処からか生成した刃渡りの長いナイフを指先で回しながら、ギルへ放った。
「願望、投擲攻撃は必中。 」
ボソッと呟き、直立でズボンのポケット手を突っ込んだまま、余裕の笑みを浮かべる。
ギルは疲弊した体を叩き起こし、重心を低くして地面を蹴ると、ナイフを紙一重で避け切り、渾身の拳を放った。
避け切る様子もないサンレモの顔面へ空気を裂きながら拳が迫り来る。
「……俺の願いは、いつでも確実に叶う。 」
ギルの放った拳にどこからともなく現れたナイフが突き刺さり、鮮血が宙を舞った。
「……ぐッ! 」
「ナイフならいくらでもある。とくと楽しむといい!! 」
サンレモは大量生成したナイフを優雅に放ち続ける。方向は関係ないーー彼が放ったナイフは必中なのだから。
次々に刺さり続けるナイフ、ダメージ自体は少ないモノだが、蓄積され、身体中から血が流れる。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
「もう終わりかい?本当に人間とは未完成で儚く弱い生物だ。少しは楽しめたかな。 」
絶体絶命のギル、サンレモは次にこう告げる。
「願望…………」
学園の屋上でリアンは風を浴びながら、戦況の把握を行なっていた。
ギルとサンレモが対峙、ジーナと生徒が魔術師相手に共闘、ノエルはいつも通り。
他生徒達も刻々と迫る敵を前に準備を始めているようだった。
ここからの戦況はまだまだ読めない。
迫り来る魔力の塊に安堵し、リアンは屋上から踵を返した。




