第二百二十四話 迫り来る軍勢
「あっはははは!!双翼ちゃんじゃん!ウケる!何であんたがここに居んのー?おかしくない?あっはははは!! 」
裏門前、白装束の女魔術師がカモフラージュ越しに見透かしてゲラゲラ笑っていた。
顔見知りなようで、ジーナは面倒臭そうに引き攣った表情を浮かべる。
「今日は一人なの?相方は?死んだのー?あっははははは!!怒ってる顔もかわいーね! 」
「はぁ……」
最悪の組み合わせに思わずため息が溢れる。
ーー正門前。
「攻撃の許可が降りた。一人残らず殺せ! 」
白装束の男が声を荒げる。
数百を裕に超える黒装束の魔術師が詠唱を始める。目の前の障壁を消滅させ、全滅させる狙いなのだろう。
詠唱が完成し、魔術師の掌から巨大な炎の球体や氷塊、電撃、鉄鋼、あらゆる狂気が集結し、一堂に放たれる。
街一つを簡単に滅ぼせるのではないかというレベルの魔法の数々。
白装束の男はニヤリと微笑んだ。
勝利を確信した表情。
凄まじい轟音と爆風と共に直撃し、防御障壁をメキメキと破壊ーー。
「なっ……!? 」
ーーしなかった。
寧ろ、青く光る障壁の中に魔法が飲み込まれていく。何度放っても同じ、直撃音は耳に届くが、届いた頃にはもう消えている。
制御室でその場面をカメラで確認した店長は、嬉しそうに言った。
「おぉ!俺の発明が魔術師に勝ってる!この防御障壁は俺の学生時代と今の全てを注ぎ込んだ最高傑作!魔法を飲み込むだけじゃあない! 」
「……何だこの壁は!! 」
白装束の男が驚きながら、目の前の障壁の様子を伺う。青白く光ったかと思えば、内側から真っ赤に染まり、煌々と光った。
「この壁は魔力を吸収して、その特性を独自に理解。そして、それら全てを凝縮して返す!! 」
店長はふふんと鼻を鳴らす。
真っ赤に染まった障壁から、眩く光る虹色の球体が放たれた。巨大さゆえか、凄まじいまでの爆風からの着弾ーー数百に渡る魔術師及び白装束の男が吹っ飛ばされる。
爆風と爆音、その威力からも学園を守り切った防御障壁は音を立てて割れた。
「流石にあの威力の魔法を放ったんだ。これ以上は防御を保つことも出来ないか。これからの課題はーっと……」
店長はメモ用紙につらつらと文字を書き立てる。自分の責務は全うしたと言わんばかりに。
後は信用している魔法師と生徒に任せる。
彼の眼は真っ直ぐだった。
「流石あのガキ、あの人数を一度に吹っ飛ばすか。familiarにも欲しい技術だな。……お? 」
数百の魔術師達は跡形もなく吹っ飛ばされ、沈黙している中、白装束の男がボロボロの状態で現れた。
瓦礫に手をついて、やっと立っているだけの状況。
「……未完成の分際でここまで高度な技術を持っているというのか?はぁ、はぁ……」
「人間も捨てたもんじゃねえだろ?お前ら、魔術師には一生わからねえと思うがな。 」
ギルは瞳を真紅に染め、満身創痍の魔術師に瞳を向ける。彼は音もなく、空間と混じるようにその場から消滅したのだった。
「あっちは派手にやってんねー!双翼ちゃん、壁も消えたことだし、私らもそろそろ!! 」
白装束の女は何処からか二本の短剣を携え、低い姿勢のまま構える。
ジーナも同様、ナイフを片手に構えた。
「《碧色の炎は静、緋色の炎は剛、交わり、鋼をも貫く一筋の矢となれ!碧炎の緋爆弓》! 」
凄まじい速度の紫炎が籠った矢が白装束の女の後ろ辺りに直撃した。
速度に光速を超えていると言っても過言ではないだけに、あまりに遠くからだったのか、詠唱も聞こえず、瞬く間に着弾した矢は爆音と紫炎を撒き散らしながら、数百の魔術師を一度に吹き飛ばした。
「……この炎。私に、似ている? 」
ジーナが後ろを振り返ると、裏門側の校舎の屋根に赤い髪の少年が立っていた。
少年はジーナに気がつくと、真っ直ぐ頭を下げ、ジーナの真後ろに着地した。
「戦いに横槍を立ててしまって、すみません。 」
「別に……。面倒な相手が、居なくなったし。それより、君は……? 」
ジーナは少年に強い引っ掛かりを覚えた。
誰かに似ている?ならば誰に?思考を駆け巡らせ、頭の中にシルエットが湧いた。
「朝日奈熱矢、この学園に通わせてもらってる魔法師見習いです。 」
"朝日奈"という名前にピンときたのか、目を丸くさせる。
前にクリフと同時に対峙したあの暑苦しい男、朝日奈焔の血縁関係にある者。
ジーナの中でその結論に至った。
「私は、ジーナ。familiarの……任務で、来た。 」
「姉さんにfamiliarの幹部に紫炎を操る魔法師が居ると聞いたことがあります。もしかして? 」
熱矢はキラキラとした眼差しでジーナを見つめる。そういう眼差しに慣れていないのか、目を逸らす。
「ここは……守られた。でも、まだ戦場。油断、しない。熱矢?次が、、来た、みたい……」
ジーナの言葉通り、先程熱矢が吹っ飛ばした人数とは別の勢力の魔術師が顔を覗かせた。
熱矢とジーナは目の前の敵を見据え、構え直したのだった。
正門と裏門側で戦いが始まり、学園内も空を飛び上がった魔術師達が侵入し始めた頃、
学園内をふらふらと歩き続けるノエルの前に敵が立ちはだかっていた。
「コイツ、生徒か?まあいい、学園内にいる未完成は全員殺せとのお達しだ!やっちまうぞ! 」
有象無象の魔術師が次々に詠唱を完成させ、魔力のこもった一撃をノエルへ放つ。
背後からの奇襲攻撃、避けられるはずがない。まずは一人目、そう見定めた魔術師は勝ちを誇った顔でニヤリと笑った。
だがーー
「……ごめんなさい。何かしま……あっ……」
ーーノエルの背後に放たれた有象無象の一撃は全てそのままの威力で跳ね返り、魔術師達へ直撃した。背後から吹き荒れる爆風と爆音、何か当たったか?くらいの痛みさえないノエルは振り返り、地面に伸びた複数の魔術師を見つめた。
「また……」
ノエルはふらりと何処かへ歩き出した。
「さてと、こりゃ面倒なことになったね。ローズ隊長に置いてかれるは、ソロモン様からの直接のお達し、強制召喚。今日はついてないみたいだ。 」
蛍光色に使い黄色いマッシュヘアの青年は、
かけている丸メガネをクイっと上げ、面倒臭そうに言った。
「寝坊も強制召喚も自業自得です。サンレモ様、ここはひとつ、お得意の願いで何か奇跡を起こして差し上げたらどうでしょうか? 」
青年の背後に直属の部下だろう人物達が手を後ろに回し、待機の姿勢で指示を待つ。
その中で一際大きく、青に近い黒っぽい長髪の青年が耳打ちで伝える。
「うーん、そうだね。気分は最悪だけど、仕事はしないと。ローズ隊長に叱られてしまう!それと、先程からローズ隊長やあのクソ幸運野郎の魔力が感知できないんだが、おかしいな。 」
サンレモと呼ばれている男は、cartilの幹部の一人だった。ブルー・スターとは所謂犬猿の仲で、ローズに忠誠を誓い、彼もまた四魔術師制度反対派の筆頭だ。
彼の魔力感知能力は国外を超え、最大で星の反対側まで感知することが出来る能力ゆえに、ローズの魔力を感知出来ないのには異変を感じていた。
「……取り敢えず、仕事はしないとな。おっと、見知った顔が居るね。 」
サンレモの視線の先には、黒い髪にスーツ姿の男、白い肌がその異形な瞳の色をより際立たせていた。
「やあ、《赤目》。今日はなんでここに居るんだい? 」
「……ッ!?サンレモ・リッチ?!だと!?お前こそ、何故ここに居るんだ!? 」
ギルは突然目の前に現れた強敵に驚き、思わず後ずさる。
「そりゃ、俺も魔術師。強制召喚とは言えど、仕事はしないとね。ローズ隊長に叱られてしまうからね! 」
面倒臭そうにサンレモは溜息まで吐く。
「こりゃ、俺でどこまで相手出来るか。 」
ギルは黒いジャケットを脱ぎ、シャツの袖を捲る。綺麗な筋肉を纏った腕が顕になり、ギルは眼前の敵を睨みつけて、構えた。
「そんなに俺強くないよ?謙遜謙遜!あっ、そう言えば今日は彼は居ないよね? 」
「あ?彼って誰のことだ? 」
サンレモは明らかに警戒している。
その様子を見たギルは勝機を見出したのだった。




