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LEGEND SPIRIT 〜後に伝説と呼ばれる者たち〜  作者: ゆに


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40話 your my treasure(古友恋心編)

 皆田木純香の死から、数日後。


 病院の廊下には、静かな空気が流れていた。


「琉妃。」


 名前を呼ばれ、琉妃が振り返る。


「あ、空介。久しぶりだね。どうしたの?」


 空介は少し言いづらそうに目を伏せた。


「この間の医者と、あの子の病について調べてみたんだ。」


 その言葉に、琉妃の表情がわずかに動く。


「どうだった?」


 空介は静かに目を閉じ、首を横に振った。


「本当に何も分からなかった。」


 短い言葉だった。


 だが、その重みは大きい。


「琉妃は本当に何も知らないの?」


「本当に知らないよ。」


「この世界で、まだ見つかっていない病なんだって。こんなこと、かなり珍しいみたいだよ。」


「そうなんだ。」


「そうなんだよ。」


 空介は琉妃の目をじっと見つめた。


「なんか……不気味じゃない?」


 琉妃は黙って耳を傾ける。


「医者から聞いた。発生源は分からない。腫瘍もない。だけど、体は侵され続けている。」


 空介は拳を軽く握った。


「これが生まれつきにあるものなのか。俺もそこら辺はよく分からない。……これは俺の推測なんだけどさ。」


 一拍置く。


「これって、一種のウイルスみたいなものじゃないのかって。」


「ウイルス……感染していくやつだよね。」


「そう。」


「でも、感染するなら、俺も危なかったんじゃないの?」


「そういう感染じゃなくてさ。」


 空介は自分の胸元へ手を当てた。


「臓器から臓器に、体の隅々へ広まっていってるんじゃないのかって。」


「なるほど……。」


 琉妃は俯く。


「だから噛むこともできなくて、あんなにも色素が抜けていたのかな……。」


「あまりにも不可解すぎるんだよ。」


 空介の声が低くなる。


「考えても理解できない。何かしらの発生源があるはずなんだ。でもその情報が、全くと言っていいほど掴めていない。」


「自然にできたものなのか、何か遺伝的なものなのか。それとも……。」


「意図的に植え付けられたものなのか。」


 琉妃が目を上げた。


「詳しく。」


「あまりにもおかしいんだ。」


 空介は真っ直ぐ言う。


「体の臓器の全てが消耗してる。あまりにも自然的なものだとは思えない。」


「でも、純香のお母さんは、生まれつきのものだと言っていたよ。」


「本当に分からないんだ。」


 沈黙。


 病院の時計の音だけが響く。


 琉妃は深く息を吐いた。


「まあいいよ。いや、よくはないんだけど。」


 少しだけ笑う。


「ありがとね。色々背負い込んでくれてたみたいで。」


 そして、小さく首を振った。


「もう大丈夫だよ。」


「ならいいんだ。」


 空介も無理に踏み込まなかった。


「ただ不可解なんだって言いにきただけだから。また……な。」


「うん。また。」


 琉妃は背を向け、静かに歩き出した。


 その背中を見つめながら、空介は小さく呟く。


「帰ってきてよ……琉妃。」


 その声は、琉妃には届かなかった。


   ◇


 後日。


 宮地宅。


「琉妃は、あれから家にも帰ってきてない。」


 悠尋がソファに座ったまま呟く。


「まあ、あいつにも本当の家があるからな。」


 我竜が壁にもたれながら答えた。


「まあ確かに、あいつにはちゃんと家族もいて、ちゃんと親の元に帰れるんだけどさ。」


 悠尋は俯く。


「俺たちの前にも姿を見せていないんだ。」


「でもまあ、そりゃそうだよな。」


 我竜は目を細めた。


「だってあいつにとって、戦う意味がなくなったんだもんな。」


「そうだな。」


 悠尋も頷く。


「琉妃は、皆田木純香という女の子を守れるように、強くなる為に剣を振ってただけだもんな。」


「まあ、あいつが戻ってくるのか、戻ってこないのか。結果は俺たちには分からねえ。」


 我竜は静かに言った。


「信じて待つしかないさ。」


 悠尋が顔を上げる。


「あぁ。」


 その瞳に迷いはなかった。


「あいつには別の意思を感じる。きっと……戻ってくるよな。」


 その時。


 玄関の扉が開く音がした。


「ん? 誰か帰ってきたのか?」


 我竜がふっと笑う。


「どうやら、心配する必要もなかったみたいだな。」


 部屋の扉が開く。


「お、悠尋。それに我竜。久しぶり。」


 そこに立っていたのは――琉妃だった。


「久しぶりだな。」


 我竜が笑う。


「お前、いろいろ大変だったらしいじゃねーか。」


「我竜!」


 悠尋が慌てて止めようとする。


 だが琉妃は苦笑した。


「まあ……大変だったよ。」


 静かな声だった。


「でも俺はあの子と約束をしたからね。」


 琉妃は目を細める。


「茨の道だろうと前に進むってね。今度こそ約束はちゃんと守るよ。」


 そして、真っ直ぐ二人を見る。


「だから……帰ってきたよ。」


 悠尋はゆっくり琉妃の前へ歩いた。


「あぁ、待ってた。」


 差し出される手。


「ありがとう。」


 琉妃はその手を握る。


「おかえり。」


「ただいま。」


 二人は微笑み合った。


   ◇


 さらに後日。


 夕暮れの河川敷。


 歩いていた琉妃の前に、我竜が立っていた。


「琉妃。」


 二人は足を止める。


「ちょっといいか?」


 琉妃が振り返った。


「どーしたの?」


「お前は……国を守りたいと思ってんのか?」


 琉妃は首を傾げる。


「そりゃあ思うよ?」


「じゃあお前はいつまでそうしているつもりだ。」


「何を言ってるの? それが俺たちが受けた使命じゃん。」


「仲間の目は誤魔化せても、俺の目は誤魔化せんぞ。」


 我竜は一歩近づく。


 琉妃は半歩下がった。


「もう一度聞くぞ。」


 鋭い視線。


「お前は国を守りたいと思ってんのか?」


「なに。だからさ……。」


「もういいからそういうの。ちゃんと答えろよ。」


 しばらく沈黙が流れる。


 やがて琉妃は深く息を吐いた。


 目を閉じ、そしてゆっくり開く。


「別に思ってねーよ。」


 その声には、妙な静けさがあった。


「国の為だとか、国を守る為だとか、心底どうでもいいんだよ俺は。」


 我竜は楽しそうに笑った。


「やっと対面できたな。」


「なんの話。」


「でもお前は、守ることを選んだ。その背景には何がある。」


 琉妃はため息をついた。


「守ることを選んだ? 違うね。」


 そして笑う。


「隠すことを選んだんだよ。」


「ならなぜ、その立場から降りない。一度脱退するチャンスはあっただろ。なぜ戻ってきた。」


「君さ。」


 琉妃は頭を掻いた。


「頭がいいなら察しなよ。」


 夕陽が横顔を照らす。


「それが隠す理由なんだよ。」


 そして、ぱん、と手を叩いた。


「はい! ってことで、この話は終了!」


 琉妃は笑顔を浮かべる。


「早く帰らないと暗くなるよー?」


 そのまま歩き出す。


「琉妃!」


 我竜が呼び止める。


 琉妃は振り返った。


「あのさ!」


 笑顔のまま。


「人のそういうところに、あまりズケズケと踏み込まないほうがいいよ。」


 そして再び歩き出す。


「さ、気をつけて帰りなよ。」


 遠ざかる背中。


 我竜はその背を見つめ、小さく呟いた。


「俺じゃダメか。」


 夕暮れの風が吹く。


「誰か……あいつの心をこじ開けられる奴はいねーのか。」

これにて、古友恋心編の終了です。


次回 激突!蘭忌妃vs恋助

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